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妹がテロリスト  作者:
4/20

妹が生徒会長?(3)

  5  5月17日PM20:10




 叫び声がした方向へ薄闇と静寂を切り裂き走る。階段を一段飛ばしで駆け上がり三年の教室がある三階へ出る。廊下を曲がると廊下の先、3-Fの教室の前に比恵がいるのが見えた。それと男子生徒の姿がもう一つ。野球部の先輩、三上さんだ。

「比恵たん、俺の妹になってお。ちゅっちゅするお」

 先輩の瞳孔は開き、虹彩からは光が消えていた。正気の目ではない。妹が書き換えた生徒手帳の効果がこんなところにまで。比恵が危ない。

 ギアをもう一段上げて走る。

 三上先輩の手が比恵の方にかかり、強引に引き寄せようとする。このままでは間に合わない。

ところが、突如崩れ落ちる三上先輩。

「先輩正気に戻ってください。いくら彼女いない歴=年齢だからってまだ諦めるのは遅くはありません!妹逃避は良くないと思います!いくら球際に弱くても、趣味のようにボーンヘッドを繰り返しても、サインを覚えられなくても先輩の良さを解ってくれる女性はきっとどこかの世界に居るはずです!ファイトです!」

「ぐっぐへぇ」

 うわぁ・・・比恵さんそれは酷い。

 朽ち果てた先輩の側に駆け寄り手首をとって首を振る。先輩よ安らかに眠りたまえ。


「比恵、大丈夫か?」

「あ、うん。気がついたら校舎の中で目が覚めて、歩いてたら三上先輩が急に出てきてびっくりしちゃったけど。なんともないよ。こんな時間まで昼寝しちゃったのかな?」

暢気な反応に胸をなで下ろす。彼女には生徒手帳の影響がまだないらしい。

「ひょっとして心配して探してくれてたの?」

「ま、まぁそんなところだ」

「ありがとう。嬉しい」

 照れくさく答えると屈託のない笑顔が返ってくる。

「そ、そんなことより一旦安全な場所に隠れないか?」

「なら、部室かな?荷物も取りに行きたいし」

 部室なら部員以外こなさそうだし、金属バットやプロテクターなど武器防具になりそうなものもあるし丁度いい。

「そうだな、部室に向かおう」

 部室に向かおうとして足を止めた。とばりさんとはぐれたことを思い出したのだ。

「?」

「やっぱりなんでもない」

 まぁあの人なら何の心配もいらないだろう。

三上先輩は取り敢えずそのままにすることにした。暫く一人きりにさせてあげるのが武士の情けというものだ。



  6  5月17日PM20:15




 野球部の部室へは途中何事もなくたどり着くことが出来た。妹が二重三重の罠を張り巡らせてないか心配していたが、それは取り越し苦労に終わったようだ。

カギを使って部室に入ると電気が点きっぱなしになっていたが、人は見当たらない。きっと、生徒会長選挙にいくときに誰かが使って消し忘れたのだろう。

 緊張感から解放された身体を休めるために筋肉をほぐすストレッチをしながら武器になりそうな物を見繕う。

「何してるの?」

 比恵が不思議そうに見つめてきた。事情を説明するのをすっかり忘れていたようだ。

 かくかくしかじかこれまでのいきさつを説明をする。

「ふーん」

素っ気ない反応が返ってきた。

「ふーん、って一大事だぞ?あいつを捜し当て止めないと学校が大変なことになる」

「一大事なのは解るんだけど、実感が湧かなくて。三上先輩いつもあんな感じだし?」

 三上先輩をここに連れてこなかった俺の判断は正しかった。

「取り敢えず、お前は荷物を持って逃げろ。ベガは俺が何とかするから」

硬式球を三個尻ポケットにねじ込む。お、キャッチャーマスクも使えそうだな。

「それはダメだよ」

 比恵は、金属バットに手を掛けた俺に間髪入れずに反論してきた。

「お前が居たって戦力にならないじゃないか」

「そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

「兄を作らないと校舎から出られないんじゃないの?」

 比恵が開いた生徒手帳をこちらに向け46条を指さした。

「なら、どうするんだ」

「兄を作れば校舎から出られるんじゃない?」

「誰が兄になるんだ?」

 そこまで言って両者言葉に詰まった。今ここにいるのは比恵と僕二人しか居ない。

 そして、契約をするためには、誓いのキスをしなければならない。そう考えると比恵の唇から目が離せなくなった。

「でも、安全に逃げるのに必要なら仕方ないかも?」

「仕方ないよな、そうこれは不可抗力」

 

 次第に比恵の唇に吸い込まれるように近づいていって―


「おほん」

突如部室内から聞こえた声に、僕と比恵は咄嗟に後ろを向いて飛び退った。

「良い感じの所ごめんなさいね」

 部室の隅に置かれた大きな段ボール箱から緩やかにウェーブのかかった亜麻色の髪が覗いていた。

「か、会長」

 会長と呼ばれた毘沙門先輩は、僕と比恵の驚いた声に「はろ~」と陽気に手を振り返すと段ボール箱の中から這うように出てきた。

「こんなところで何してたんですか?」

「生徒会長選挙があんなことになっちゃったでしょう?だから、荷物を取りに部室に戻ったのだけれど」

「僕らもそんな感じです」

「私って四月一日生まれなの」

「はい?」

「だからルール上、兄が持てないのよね。ゲームに参加できなくてつまらないから、暇を持て余して散歩してたの」

「僕らとは違いますっ!副会長、夜野とばりさんは一件を収拾するために動いてますよっ!」

 この人には危機感というものはないのだろうか。

「アラそうなの?あの子も変なところで真面目よねぇ」

「いえ、ただの変態ですっ!」

 会長はくすくす小さく笑った。


「そういえば」

 先輩はそう言いながらおもむろに段ボールの奥から何かを取り出した。

「アルシャウカット!?」

 その手には、毛むくじゃらの物体、うちの子猫型ロボットがのせられていた。

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