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妹がテロリスト  作者:
2/20

妹がこのざま (閑話)

「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃーん、ちょっと早いけどお小遣い頂戴~」

 シチューを温めていた僕はお玉を回す手を止め振り返ると、椅子の背に顎を乗せた妹が物欲しそうにこちらを見ていた。我が家の小遣い日は一日であるから、まだ二週間以上ある。

「今月のお小遣いはもうないのか?」

「もう今月ピンチなの。生徒会会長選挙にでてると出費もいろいろかさんで・・・このままだと文化祭を楽しむお金も足りなくなりそう」

 凋れた花のように俯く妹。

「そうか・・・折角の文化祭だしお金なくて楽しめなかったら、それは残念だからな。今回だけだぞ?」

 僕も鬼ではない。場合によっては妹に最大限の譲歩をすることもある。

「ありがとー!お兄ちゃん愛してる!」

 妹が椅子の背を持ったまま前後左右に椅子をガタガタ傾ける。床に傷がつくし、椅子が傷むからやめて欲しい。まぁ、そうなったら小遣いから天引きするだけなのだが。

 やれやれ、僕は嘆息すると再びシチューを温める作業に戻る。とろ火でゆっくりかき混ぜないと下が焦げ付いたり具が崩れるので割と神経を使う作業なのである。


「で、本当は何に使ったんだ?」

 伊達に彼女との付き合いが15年を超える訳ではない。それに僕だってこの学校の生徒会会長選挙の費用は選対委からでる事くらい知っている。

「あのね、あのね!『お兄ちゃん大好きっ』っていう本をアマゾンで注文しちゃったの!」

 現実はこんなものである。

「ほうほう。その本はそんなにスゴいのか?」

「いやぁ、私も発売前は、流行のお兄ちゃんものだと思ってスルーしてたんだけどね。いざ発売されたら、即日完売で、常に入荷待ち状態なのですよ。アマゾンのレビューも絶賛の嵐でさ。95%が星5個で、一部の評論家気取りの辛口コメで有名な奴らでさえ、星4個なのよ。スゴいでしょ!?いやー兄マニア略してアニマニな私としては油断したなぁって感じなわけですよ。で、それがこの前入荷していたので思わずポチっちゃった訳です!」

 嬉しがったり、悔しがったり、表情をコロコロと変えながら熱弁を振るう妹。

 一文字しか略されてないのに略す意味があるのだろうか。どうでもいいがアニマニアが見事に回文になってることに少し感動を覚えた。

「ほうほう、で、その『お兄ちゃん大好きっ』っていう本を代引きで買ってしまってそれの支払をするとお金がないってことでいいか?」

「あっ、今の話は嘘で、本当はコピー代にお茶代に、それにそれにお金は運動員さん達に配るオニギリの中にも入れないといけないから、出費がかさむんだよね!だから、お小遣いを」

「あっ」とか言ってしまうお馬鹿さんは世界広といえどもうちの妹くらいだろう。ワールドチャンピオンクラスの馬鹿。英語にするとより馬鹿に聞こえるから不思議である。

「運動員に給料支払うとかリアルでもダメだろ。本はキャンセルして来月まで我慢しろ。この話はなし」

 甘やかすとつけ上がる。アルシャウカットと同じだ。

 レタスやキュウリを洗ってトマトと共に更に盛りつける。日々の食卓には青物野菜も欠かすことは出来ない。

「で、では、私の日頃の頑張りに対して賃上げ交渉を要求します!労働基本権は日本国憲法でも保証された重要な権利です。いくらお兄ちゃんでも、無視することは許されません!」

「おまえ、なんか労働してたか?炊事・洗濯は俺。掃除は俺とアルシャウカット。おまえの役目と言えば、食べること散らかすこと、寝ること・・・ペットレベルだな。ちなみに、ペットには基本的人権はないらしいぞ」

「ぐぬぬぬ、妹をペット呼ばわりするなんて・・・」

 世の中にはペットを本当の家族のように可愛がる人もいるが、僕は生憎その手の人ではない。

「すまん、ちょっと言い過ぎたかもしれない、ただこれからは俺の仕事も少しは手伝ってく」

「少し危ない方面に目覚めてしまうかもしれません」

 思わずスリッパで叩いてしまった。これはきっと家庭内暴力ではなくツッコミ!ドメスティックバイオレンスではなく、ドキドキビジュアル!

「痛いじゃないですか!再び、謝罪と賠償または『お兄ちゃん大好きっ』を請求します!」

「その本が、そんなに欲しいのか。どうせアマゾンでクリックしたら、あなたは18歳以上ですか?※最終確認です!的なこと聞かれるようなものなんだろ?15歳の妹を持つ兄としては到底承伏できないことだ。キャンセルしなさい」

 今度は口にこそ出さなかったが、ギクりともろに表情にでていた。やはり18禁か。

「なななな、何言ってるんですか!18歳にもなってお兄ちゃんお兄ちゃんいってたら、ただの頭のおかしい人じゃないですか!18歳の妹のお兄ちゃんとなれば、19以上・・・賞味期限切れのおじさんです!お兄ちゃんと呼べるのはどんなに譲歩したとしても16歳までです!だからこそ、15歳の私が今買ってあげずして、誰が買うというのでしょう?あっ、うちのお兄ちゃんは何歳になっても愛の対象ですよ?」

 世間的に見れば俺も賞味期限切れ寸前ってことなのか。案外お兄ちゃんが旬の期間も短いのか。まったくお兄ちゃんの中の人も大変だな。

「で、譲るつもりはないが。18歳以上しか頼めないその本はどうやって注文したんだ?」

 俺のIDだって16歳なのだから注文することは出来ない。

「もちろん、策は万全であります。お父さんのアカウントで注文すればいいんです。パスワードとIDは既に聞き出し済みなのです」

 妹は自信満々に眉尻をつり上げて答えた。

「ちょ!父さん可哀想すぎるだろ!オススメとか履歴とかが大変なことになるぞ!」

「もうすでになってるので、大丈夫です」

 再び眉尻をつり上げ自信に満ちた表情を見せる妹。

「どこが大丈夫なんだっ! バカなこといってないで、さっさとキャンセルしろ!」


 ご近所さんに変な噂が広まっていないことを祈るしかない。

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