小学生代理(7)
◇
美黒のことを心配しつつ自分の学校へと向かった、勿論、萌月も多少心配ではあるが、どうせ言うことを聞かないのだ、解決策の前に、問題視する部分がない、苛められていることも無ければ苛めている側でもない、ただ単にめんどくさがり屋だと思っている、とにかく、今は目先のことを考えよう。
「にしても……」
思わず溜め息を一つ。 軽く送り出したのはいいのだがいまさらになって少々心配になってきた、周りのフォローや手続きもそうだが、俺の見えないところで味方をしている者がいるそうだ、それと、俺は「坂兎七夜」っという子の面識がない、どんな子なのか知らないし、美黒を見舞いに行ったときにですら顔を見たことはなかった。
「珍しいですね、弥一君が寝癖一つ拵えてないのとか」
声のする方は背後、首だけでそちらを向くと、ぷすりと頬に人差し指で刺されてしまった。
「何をする」
「スキンシップ」
「不清潔に爪を伸ばしてるやつにそんなスキンシップはされたくは無いな、人でも殺す気か?」
「もう、女の子ですし、みんな伸ばすよう」
わざとらしくぷりぷりと腹を立てている、ならばその長ったらしい爪を切ってほしい。
「それにですね、女の子は爪を伸ばすとかわいい!」
「不清潔な女は嫌われるぞ」
「もう、違うです、かわいいかわいい」
明らかに片言、というか、半分敬語で半分タメ口を使いこなすこの女、一つ年下の後輩だ。初めてこいつと会話したときは二重人格か宇宙人かと思ってしまうほどに驚いていた、明らかにおかしいだろう、誰が見ても変なやつである。
人は見かけによらない、というのを思い知らせるべく話しかけてきたこいつは、容姿は栗色の髪をショートに切り、前髪を目に掛からないように対策を施す為の髪止めが光る、顔は歳相応な整った顔立ちをしていて、萌月とは真逆のぱっちりと開いた目に、ブラウンが深い瞳が存在を目立たせていた。ちなみに、身長は150cmほど、低いほうである。
「ところで、困った」
「なんです?」
「お前の名前忘れた」
「んなっ!?」
前代未聞ですっ!っといわんばかりに言葉を詰まらせている、勿論かわいい冗談、なぜならお前ほどの変わった名前は見たことも聞いたこともないからだ。
「かなえです!宿木鼎!」
そして、やどりぎかなえと登校を共にした。
「そういえば、お前、中学生に戻りたいと思ったことはあるか?」
「無いですね、一度も」
「そうか、まあ、見た目的にもキャラ的にも中学生だしな」
「どういう意味ですか!」
「そのまんまだ」
「先輩だからっていい気にならないでください! このドブ男!」
やめてくれ、ドブネタは最近振られたところだ。
「その顔、よくぞ見破ったなって顔してますね」
「いやいやいや」
「まあ、どうせ弥一君です、歯磨きが三度の飯よりめんどくさいって言ってるはずです」
「飯をめんどくさいって思ったことは無いな、ナマケモノじゃあるまいし」
「ほう、ではハタラキモノだと?」
「そんな動物は聞いたこと無いな」
「私です」
「お前か」
ギャクも言えるし面白いキャラを持っている、バカアイドルにでもなってチヤホヤされそうなやつだな。
「ところでところで爺さんや」
「ノリノリだな、婆さんや」
そして、にひひっと照れ笑いをしつつ、鼎は首を傾げた。
「どうしていきなりそんなことを?」
「うむ、いや、訳があってな、小学生……いや、いいや」
「小学生、って深刻な顔で言われただけにここで引きたくないです、ドン引きしてるけど」
「失礼なやつだな、俺がそんな犯罪者予備軍に見えるか?」
「顔だけ見れば1軍どころか凶悪犯です」
「ほう、ならお前の顔は俺からすれば走り幅跳びでタイミングミスって飛べなかった、見たいな顔してるぞ」
「そんな運動選手いませんよ」
「お前運動選手だったのか、金メダルくらい持ってるのか?」
「金は無いですが、小学校の時に貰った記録証なら、600メートルの」
「それ、価値がキャビアと大豆だから」
「大豆に失礼です!」
「訂正しよう、キャビアとゴマな」
「ゴマはですね、万能なんですよ、ゴマ油とかこう風味つけるためにそのまま、とかガジガジ噛んでもグッド! というか! キャビアはイクラ亜種でゴマと大豆は主婦の味方!!」
「そりゃ良かったな」
長ったらしく尽きない会話をしているとようやく学校に到着、桜光小学校とはちょっと響きが違う、西東高校、昔子供のころは西か東かどっちかはっきりしろよ、っと真剣に思ったことだが、意味を知ったときは赤面したものである。
「それじゃ、弥一君、また」
「おう」
なんの問題なく鼎と別れ自分の教室に向かう。
そういえば忘れかけていたが「坂兎七海」っという子、また今度に見舞いでもしに行こう、うちのバカがお世話になりました、っと。