小学生代理(5)
「んで……結局どうなんだ? 今さっきの暴露は」
「ん……どこから話そうかな……」
「どこからって、最初からだろ普通」
「長くなるけど?」
「覚悟はしとく」
1月27日13時54分45秒頃、昔話が、瑞山美黒の口から始まっていた。とは言っても一昨年のことだが、その年の夏、美黒は盛大に駅のエスカレーターから足を踏み外し、まっさかさまに転落した、その時意識を失い、近くの病院に搬送されたという、もちろん知らないわけではない、ただ、怪我をしたとしか聞かされていないためこういった事情を聞くのは初めてだった。
その時、同じ病室だった歳がいくつか離れた少女が一人いたという、名は坂兎七海 美黒は幸い死ぬような怪我ではなく、体中縫ったり足や手は在らぬ方向に曲がったり等数ヶ月の入院だったが、その時知り合った七海ちゃんはいつ治るか分からない病気だったそうだ。 その子と知り合い、話をする内に友達となり、病気が治れば一緒に遊ぶ、などと言う話しをしたらしい。
……ここから美黒がその子と遊んだ内容を一から語りだしたので省略、ざっと纏めると、その子は美黒が退院直前、意識を失ったという、それから音沙汰が無かったのだが、最近になって一通の手紙が届いたそうだ、内容は簡素で、どこか感情が無く――――『治ったら遊ぼ、ずっと友達だよ』そして、『まだまだ学校行けそうに無い、通いたかったな』
これに胸を打たれ、行動を決したという。
「大丈夫なのか……? 勝手にこんなことして」
「……うん」
「手続きとか大丈夫とか偉そうなことを言ってたが、それは?」
「学校の先生と話したし、ちゃんと正式に認めてくれてる」
「なら、俺が出る幕は無いんじゃないか?」
「他人からの感想って必要と思わない? 例えば、小学生らしいとか、らしくないとか、とにかく――サポート役ね」
「俺でいいのか? その大役無くても、黙ってれば怪しまれるもんはないだろ、第一、お前には歳の近い妹の――」
「…………けど」
美黒はその場で身を一度よじると頬を少しばかり赤らめながら小言を漏らした。
「…………不安だから」
ガチャンッ
妙に気持ちが高ぶっている、変な意味ではなく、妹が、あの美黒が心底恥ずかしそうに「不安だからお兄ちゃん任せるね」と頼られてどこと無く嬉しいとかいうわけではなく、、…………うむ。
事情は断片的にだが、分かった、俺は裏方を演じればいい、いくら同級生や上級生、ましてや事情を知らない教師が美黒のことを疑ってもそれを何事も無いように返せばいいと言うもの、バレたら美黒に芽生え始めている良心が薬品をぶちまけた雑草の如く枯れてしまうので注意が必要である。
まあ、最悪味方の教師もいるらしいので、その辺はなんとかなるはずだ。
美黒の部屋から退出し、すぐそばの階段を降りる、5段ほど降りた所で忍者屋敷の真似かなんなのか分からないが、傾いた扉が一つ、――いうまでも無いが先ほど会話をした引きこもり小学生瑞山萌月の自室、巣窟だ。
その扉を片目で追いつつ、どたどたとリビングに下りた。
さて、忙しくなりそうである。