黒い。雛罌粟の花(8)
窓からは見覚えのある景色が見えている、どうやら学校へ向かっているというのは嘘ではないようだ。
「それにしても、何のために会いに行くんだい? まさか妹さんのことを」
「……」
「……そのまさか、か、ま、いっか」
何が良いのか分からないが、今は何も考えずじっとしておこう、変に考えを出していてもそれが全て思い通りに行くわけがないのだ。
それから数十分、窓の景色を眺めてる時間が続き、学校に着く手前で車は停止した。
「?」
「ああ、ここはあのおじさんたちがやってくれるから、後5分くらい待ってくれるかな?」
にやけたように笑うとそう一言。軍隊のように足を揃えて歩き出す黒スーツの男が1,2,3……10人ともう少しはいる、右手には拳銃……いつから日本はこんな血生臭い世の中になってしまったんだろうか。
言われたとおり5分キッカリ待ち、案内されるままレインボーの後を付いていく、いつか見たでかい校舎に、いかにもお金持ちです、っと言わんばかりな派手で高級感溢れる学校。
正門前には真っ黒な外車が数台止まっていたことから本当にこいつの父親はここにいる可能性が高くなってきた。……何の目的で? っとなると首を傾げるしかないが、今はそんなことどうでもいい。
「ふー、夜の学校は怖いねー」
「そうだな、特にあの非常口の明かりとかな」
「はは、それは確かにね」
「どこにいるんだ? お前の父親は」
「保健室の方じゃないかな、用があるとしたら今日のことくらいだから」
言われてみればそうか、今日……そうだな。
「それじゃ、行こうか」
「ああ……」
無駄に足音が響き、先ほど冗談気味に怖いと漏らしたが、確かに怖い、お化けが出るとかなんとか言われれば確かになっと頷けるくらいに。
「ん……」
廊下を曲がるとすぐ人影を見つけた、なにやら床を指でなぞっているような感じであるが、あれが……?
「父さん!」
まあ、そうだろう。
「……」
人影はすっと立ち上がるとこちらに体を向けたが、何も言葉を発しない、遠いから声を出さないということだろうか? まあ、教室3つも4つも挟むような距離だ、ここから話し合いなど出来るわけがない。
ゆっくり距離を縮めながら足音を響かせる、高級な靴を履いてるかのようなコツコツという音は妹達が聞けばはしゃぐかもしれ――いや、そこまで子供じゃないか。
「どうした? こんな時間に、こんな場所で、何をしにきた、息子と、ご友人か?」
偉そうに、人を見下すような口調、どこか落ち着いていて隙を見せないような。
「そうだね、父さん、ちょっと友達が話したいことがあるって」
「下らん話なら5分と時間を取らんが、話してみろ」
そのままかけていたサングラスを胸ポケットにしまうと、代わりにたばこを取り出して火を点けていた。
「坂兎、七海ちゃんの、父親で間違いないですよね?」
「それがどうかしたか? 嫁にくださいというならそのまま回れ右だ、あいつは死んだ」
冗談交じりにそう言い、にやりと笑う。
「…………その七海ちゃんのお友達、瑞山美黒の、兄、瑞山弥一です」
「ほう……」
辺りは真っ暗だが、たばこの灯りで目を細めているのが分かった。
「その、娘の友人の兄が何の用だ?」
「単刀直入に言いますと、妹は、あなたの娘の身代わりをしている、そして、用済みになれば殺される、知らないとは言わせませんよ」
「……今日部下が死んだのはお前のせいか、人殺しは重罪だ、残念だなぁ、これからもっと薔薇色な人生が待っていただろうに」
「父さん、弥一君じゃないね、アレは、弥一君は学校に」
「黙っていろ」
「……」
「……それで、妹はあなたの娘さんにとてもお世話になったと聞きます、それで、治らない病気の妹さんの代わりに小学生の代理をしようと考えたと言っていました、治ったときに友達がいっぱいできてるようにっと」
「ほう、泣ける話だ」
「ですが――」
「俺達に利用されていると知って、正気を失っていると?」
「……こんなことで殺されるなど、そんなふざけたことは」
「ふざけたこと?」
たばこを口から落とし、踏み潰し、もう一本取り出して火を点けている。




