黒い。雛罌粟の花(7)
外に出ると、そこはやはり気味が悪いほどに静まり返っている、ふと、輝山先輩が言っていたことを思い出す。
「少年よ、もしヤクザや殺し屋に追われている場合は、周りを見渡し、いつもと違うものを見つけてみろ」
正直困った、分からないな。
「……ふぅ」
とりあえず、バカな行動をすればいい、まさに命を賭けることになるだろう……こんなことで死んでしまえば先輩はきっとやれやれといった感じで3時間くらい説教をかますはずだ。
「……位置について、よーい…………ドンッ!」
他人から見れば酔っ払いがやるようなことだろう。
こんな時間にクラウチングスタート。 向かう先は人気の少ない路地。
体力を温存しつつの走り。 神経を後ろに向かわせれば、追ってくる者は……分からない。
相変わらずくねくねともし追っかけてきているなら嫌がるようなルートで。
それにしても変だな、もしかして追ってきていないのか?
足を止めずに考えてみる、瑞山家をあいつらだけにするのはあまりにも馬鹿げたことだったか……もう数分走ったら後ろをかくに――!?
この時、俺の顔には腕がめり込んでいた、拳では無く、腕。 ラリアットとかそういった技のように綺麗に決まっていた。
「ッ……痛……」
鼻がツーンと痺れ、唇は少し切っている、口の中では血の味が広がっているが……まて、さっきの腕はどこに行った?
「夜道を、しかもこんな狭い道を、危ないよ?」
背後から声が聞こえ、思わず振り返る。 へらへらと笑ったままの顔に同年代くらいだろうと思われる容姿。
なぜ、ここにいる? ではなく、会いたかったぞ、これが今の言いたいことだった。
「俺を、お前の父親に会わせてくれないか?」
「……うーん? どこの誰かさんが何人か殺しちゃったから相当警戒されて難しいと思うけど、それより、やっぱり気に入ったよ、いいね、行動と自分の本音がまるで」
「難しくてもいい、やれることはしたい、頼む……」
サラリーマンが上司に頭を下げるように深々と長く頭を下げる、こんなもので心は動いてくれないだろう、だが、こいつを説得できなくて七海ちゃんの父親が説得できるわけがない。
「誰も無理とはいってないよ? 難しいってだけ、歩きながら話そうか」
その言葉を聞いたときお菓子を貰った子供のように嬉しい気持ちになってしまった。
街頭が無ければ真っ暗だろう道を歩きながら話す、本当にどうでもいいような世間話ばかりだが、ここで機嫌を損ねれば全てが水の泡だろう。
「それでさ、またあのバカがやらかしたんだよ」
「ほう……」
「っと、この車に乗って」
いつか見た黒い外車。 見るのはこれで二桁にも行きそうだが、もちろん乗ったことはない。
「ささ、早く早く」
「ああ……」
「学校へ」
「了解しました」
「……」
人形のような返答を返した黒いスーツの男、横で楽しそうに喋る同年代だろう男。 とても不思議な感じだな……。
……だが、学校? 坂兎の父親は学校に今いるのか?




