黒い。雛罌粟の花(5)
この保健室に足音が二つほどこだました後、待っていたと言わんばかりに私は飛び出していた。
ソレと同時に手にしていた愛用の万年筆のキャップを抜き、保健室に最初に入ってきた黒スーツの男の顎下に突き立て、男が咄嗟に払いのける前に突き刺した。
「お、おい、どうした!?」
「こいつ……」
「……」
指で肉を抉るような感覚を覚えながら万年筆を念入りに捻じ込む、男は体を痙攣させながらぐったりとしている。 大丈夫だ、動くことは無い、深く差し込めば脳に達する、これだけ刺していれば即死だろう。
「ここから先は通すわけにはいかないな」
「くっ、さっさと餓鬼を回収するぞ!」
ヒステリックに叫んだと思うと右手で懐を漁る、瞬時に銃だと判断し、一気に間合いを詰めた。
「なっ……!?」
「パパに習わなかったのか? 近距離でそんなもの取り出しても役に立たんよ」
私の右手には体温計がある、万年筆と違って鋭利ではないが、使い方によれば十分凶器だ……例えば……。
「ぐああぁっ!?」
迷うことなく体温計をヤツの右耳に深く捻じ込んだ、ぶつりっ。そんな音が聞こえたかと思うと耳からは見たことも無い量の血が流れている。
それに間髪いれず男の首を在らぬ方向へ曲げた。
「気をつけろ。こいつ慣れている」
今まで無口だった黒スーツが仲間にだけ聞こえるような小言で囁くともう一人の男がイラついたように分かってるよっと返した。
さて……武器が無いな、まあ、どうせ私が先ほど銃を笑ったからナイフか何かで近接戦してくると思うが。
いや、そうでもないらしい。
「はっ! 何を考えてここで戦ってるかは知らねえけどよ、七海とかいう餓鬼殺ったのは俺だ! お前もあの七海とかいう餓鬼みたいに大人しく死ね!」
男は銃を取り出すと反射的にトリガーを引いた。
タァン、タァン――。
銃声が響くと共に私は間合いを詰め、指で両目を突いた。
「ぐ、あっ!? て、てめぇ!」
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというが、2発程度では当たる気がせんな」
男から銃を取り上げ、グリップで思い切り顎を揺らす、脳震盪を起こし、力が抜けたところで首を――。
タァン――。
「――ッ!?」
わざわざこの狭い場所で戦っているというのに無口な男は私が今殺ろうとしている黒スーツ諸共撃つとはな……。
「はぁ……痛いじゃないか全く」
「……」
黒スーツは一言も発しずに冷静さを保っている、こういうやつほどやりづらい。
着弾は右肩、痛くないといえば嘘になる、むしろ気が狂いそうに痛い それに利き腕とはな、不運にもほどがある。
「……」
「……」
タァン――。
「ッ……くぅ……」
プロボクサーに殴られ、体が吹っ飛ぶような衝撃を脇腹に受ける、痛いどころの話じゃないな……。
このままでは埒が明かない、何とかして距離を詰めなければ……。 ヤツとの距離は2メートルほど、狭く、近距離だと不利だと踏んだのか廊下から銃を撃ってくる、形状を見ればグロック系統だろうが……今はそんなことどうでもいい。
「みゆちゃん逃げて!」
「!?」
「……」
美黒ちゃんがベッド室のカーテンを開け、叫んだ。
黒スーツの銃口が美黒ちゃんへと向かう、それはそうだろう、殺す対象が目の前にいるのだ、私よりも優先すべき相手、だが、この場合は間違えたようだな……。
「美黒ちゃん伏せて!」
叫び、ベッド室のカーテンを思いきり閉め、美黒ちゃんを隠した。
タァン、タァン――。
「くっ……」
「お前の遺言はソレか? 悲しいもんだな」
男が美黒ちゃんへ2発撃っている間に先ほど私が落とした銃を拾い、男がこちらに対応する前に引き金を引いた。
タァン――。




