黒い。雛罌粟の花(4)
時間にして1時過ぎの現在、私は小学校に到着し、運よく廊下を歩く美黒ちゃんを発見していた。
顔色と危なっかしい足取りを見てるとどうやら保健室に向かっているようだが、都合がいい、個室での戦闘なら余計にやりやすい。
私は小学校の柵を当たり前のように飛び越え、校内に侵入する。 ここを目撃されれば少々面倒なのだが、子供達はそろそろ授業なのだろう、姿が見えない。
美黒ちゃんが向かう方向を予想しながら保健室を探す、傍から見ればもう不審者極まりないな、いや、不審者なんだが。
「ここか……」
鼻を利かせてみれば僅かながら消毒のアルコールの臭いとコーヒーの香りが換気扇から漏れている。
「窓は……」
当然だがしっかりと戸締りをしてある、ガラス越しから見れば誰も居ないようだが……仕方ない、美黒ちゃんが到着してしまえば入るに入れないからな。
どうせこうなるだろうと思ってガムテープを持ってきておいて正解だったな……。 もしここに弥一が居れば、「うわ、犯罪くさっ」っとか言い出しそうだが、学校にしかも小学校に侵入を決めた時点で犯罪者確定。
「少々ベターだが……」
ガラス片が飛び散らないようにとガムテープを貼っていく、音も軽減されるというのだがらこれはなんとも勝手がいい。
「ハァッ!」
自分で自分を褒め称えたいくらいの絶妙な力加減でガラスを割る、ガラス特有のパリーンだとか、ガシャーンだとかにはならず、ミシッ、ビシッというような軋む音が鳴る、中に保健室の先生が居ればバレる音だが、都合よく不在のようだ。
「……だが、保健室が無人とはな……」
何のための保健室だ、どうなっている! そんな文句を校長にぶつけていいレベルだろう、だが今はそんなことどうでもいい。
「……こっちのベッドが壁に近いか」
いつでも襲撃に対応できるように壁に近いベッドを選んだ、ここならば廊下の足音を聞いて気構えできる、不意打ちはまずなくなるだろう。
間もなく廊下をリズム無く響く足音が聞こえた、美黒ちゃんだろう。
「しつれいしまーす……? 誰もいないのかな…………」
声に張りが無いな、だいぶストレスが溜まっているのだろう。
「……はぁ」
美黒ちゃんは溜息を一つ付くと、ふらふらと私の今居る隣のベッドに向かった、このまま休眠するのだろう。
敵からすれば絶好のチャンスとなるが……まあ、大丈夫だろう。
それから徐々に時間が過ぎていく、私は廊下の足音を気にしながら神経を回りに張り巡らせていた、美黒ちゃんが「グラタンたんたん」とか寝言を漏らしたのには笑いそうになったが……。
一時間に一回置き程度に手首や足首を動かしてストレッチをしておく、いざというときに足が痺れて動けませんなんてコントはできない為だ。
「……ん?」
僅かな足音を聞き取り、時計に目を向ける、美黒ちゃんはよほど疲れているのだろう、もう3時間近くは寝ている、いや、それどころじゃないな、お客さんが来たようだ。
足音の数は少なくても4人……5人いるか? この狭い保健室なら1:1に持ち込めるのが幸いだな。
不意打ちで一人やるため息を殺して待機をする、護身術がメインとは言っても一応普通の体術はその辺のヤンキーよりは自信があるんでね。
「ここか?」
「そうらしいな」
保健室前で男二人の声がする、さすがに全身鎧とかふざけた格好じゃなければ余裕とは行かないだろうが、勝てるだろう。
「……さてと…………」
ガラガラっと保健室の引き戸の開閉音が響いた。




