黒い。雛罌粟の花
あれから俺は素直に輝山先輩に事情を話した、所々俺の心境を挟み、どれだけ焦りがあるか、というのも明細に。
「……ふむ、難易度はまさにベリーハードだな」
「……」
輝山先輩は頷きながらその場で数歩歩いたかと思えば、こちらに向き直り、ドラマで見る熱血教師がやるように俺の両肩をガッと掴んで叫んだ。
「私に任せておけ!」
「……はい」
そしてそのままゆっくりと歩き去ってしまった、本当に何者なんだろうかあの人。
というか、もう遅刻間際である、くそ……今更だが、鼎は空気呼んで去ったのでは無く遅刻するのが分かっていたから先に行ったんだな……。
「ん?」
そして少し早歩き気味に前進すると、先を歩いている輝山先輩が一瞬こちらを向いた、この時の俺は輝山先輩がそのまま普通に歩いていったのでただ単に俺が学校来ているかどうか確認しただけだと思っていたが、この時小声で言葉を発していたと分かったのは当分後のことだった。
「私、輝山みゆは約束は守る女だ、だが今回のは一度きりだが……」
輝山先輩にこのことを話してから次の事が起きたのはその日の夕方のことだった。
別に道草を食うことをしない俺は真っ直ぐに自宅を目指し比較的早い時間に帰宅する。中学生の美黒とほぼ同じ時間に帰ることもあるくらいで偶然が重なれば途中一緒に下校できるほどだ。
「ただいまー」
玄関扉を開けながら帰宅時テンプレ挨拶「ただいま」を言う、瑞山家には「あらあらお帰りなさい」っと食器洗いで濡れた手をエプロンで拭きながら迎えてくれる母は居なく、代わりに稀に登場するジト目とテンションの低さがチャームポイントな妹が出迎えてくれるのだが、今日は違った。
「お、おに、おに、おにに、おにいちゃん!!」
「どうした?」
萌月が俺をお兄ちゃんと呼ぶときは大体焦っている時か泣いている時、あとは猫撫で声で俺に何かお願いをする時と相場が決まっている。
「み、みみみ、ごほっげほっ………………美黒がまだ帰ってないんだけど」
萌月は十度ほど噛んでむせた後、胸に手を置いて自分を落ち着かせると、いつもの口調で話した。
「……落ち着け、元々あいつは俺と同じくらいに帰るか、少し遅いくらいが当たり前だっただろう」
「……それ、中学校通ってるときでしょ」
その言葉を聞いたとき落ち着いていた俺は即自分を「バカか俺は」っと罵った後腕時計を見る、言われて見ればそうだ、小学校に5時帰宅等はっきり言って普通では無い、無断で友人の家に行っているか、教師に居残りを命令されているか、後者ならば連絡の一本は入れるはずだ、前者であることを祈りたいが……。 その前に瑞山家が抱えている問題は特殊だ、もっと異例を考えていい、例えば美黒の身に何かが……。
「くっ……!」
こうしては居られない、ここで考えている間にもあいつが……あいつに何かあれば……。
思わず唇を噛み、鉄の味が口の中で広がる、俺は手にしていた鞄を萌月に投げつけるとそのままの勢いで玄関扉を開けた。
「……その必要は無い、弥一よ」
俺は扉のノブから手を離しながら脱力する、本当にこの女ってやつは……。
「……ただいま」
輝山先輩が玄関先に立ちながら美黒の頭に手を乗せている、美黒の顔には今疲れていますっという文字が浮かび上がっているのだが、輝山先輩と一緒に居たら疲労くらいするだろう。




