シロツメクサいっぱい(5)
泣き声を聞いてやってきた看護婦さんは七海ちゃんに飴やらチョコやらを持って泣き止まそうとしたが、私がそっとしておいてあげてくださいっと言うと、幽霊でも見たような顔をして病室を出て行ってしまった。
仕方ないと思う、ずっと動かず喋らず、目だけ動くような気味悪い患者だったのだ、それが急に喋ったとなると回復に向かってるね、やったねと歓喜する前に不気味がるだろう。
まあ、そんなことはどうでもいい、七海ちゃんのお父さんはとうとう自分の娘の存在を否定したのだ、しかもそんなことを聞かせるだけ為に病院に来たということになる。……わけがわからない。 むしろ娘に構って欲しいからとか、他人からゴミ同然の扱いをされたいのか?
しばらく考えていると七海ちゃんは泣き疲れてしまったのか安心したようにベッドにもたれかかったまま寝てしまっていた。体を上下させながら小さく寝息を漏らす様子は本当にまだまだ小さい子供で――……。
「って、ここで寝たら風邪引くって!」
病室に空しく声が響くが、ただソレだけ、布団をかけようにも体は動かないし、最終手段としてのナースコールも私じゃ手の届かない場所にある。というか、ナースコールとして何の意味も果たしてないよね……。
結局その後、わーわー一人で騒いでいると看護婦さんが様子を見にやってきてくれて七海ちゃんをベッドに移動させてくれたのだった。
◆
翌日、悩みを全部吐き出してすっきりしたのか七海ちゃんと私はただただ会話して、笑って、時にはヘソを曲げて、そして会話を中断するときにはいつも「私達友達だね」っと確認するように言い合う、照れ恥ずかしいけれどこれは私達にとっては大切なことだと思っている。
あと、七海ちゃんが言うにはお父さんの態度が変わったという、「お前など娘ではない」っと最低な言葉を吐いた翌日に七海ちゃんはニコニコしながら姿を現したのだから仕方ないのだと思うが、お父さんが来るたびに私のことを聞くそうだ、最初は「何があった?」話を聞いて「詳しく聞かせてくれ」最後には「そうか」いつも罵倒しかしてこなかった時に比べこうも柔らかくなっているのだ、七海ちゃんも毎日が楽しいと言わんばかりに笑顔に溢れている。
そうして日が過ぎていき徐々に私の怪我も治っていった、最初は目、口とかしか動かせなかったが、今となっては座れるようになり、腕もゆっくりであるものの動かすことも出来る。 ただ、足は相当酷い折れ方をしたのかどうか分からないけれど思うように動かなかった。
「まだ無理なの? リハビリ室」
「うーん……足に力を入れれるようにはなったんだけど、痺れてるって言うのかな、動かないかな、まだ」
「残念なの」
というのは、七海ちゃんは私がリハビリ室に向かう時はしっかり引っ付いてお手伝いをするっと張り切っていて私もどことなくその日を楽しみにしていた。
◇
「そういえばなの、みくろちゃんってどうして死にたいって思ってたの?」
辺りは暗くなり、綺麗な三日月が空を上る頃、二人して同じベッドに潜って自分でも可笑しいと内心で笑っていると七海ちゃんは突然そんなことを聞いてきていた。
「……」
言うべきか、突然死にたいんじゃなくて、殺したかったなんて言うと引かせてしまう気がする。
「うーん……その頃、私一人ぼっちで、だけど好きなことがあったの、走ることなんだけど、その時一緒に走ってた「仲間」に裏切られたっていうか。なんというか……」
今でも思い出せばジワリと嫌な汗をかいて目が涙で滲んでくる、体を見下ろせば体にある生々しい縫合痕に今でもまだ完治していない足。 あの時は痛みは無かったけれど今傷跡を見て考えてみるとよく生きていたな、っと人間の生命力に驚かされる。
「……? 仲間と友達ってどうちがうの?」
「全然違う、友達っていうのは一緒に居て安心できて、一緒に泣いて一緒に笑えて、そんなのだと思う、仲間っていうのはちょっと乾いてるっていうか……まあ、個人的な意見だけどね」
「やっぱり私とみくろちゃんはお友達なの!」
布団の中できゃいきゃい暴れる七海ちゃんを目の前にしながら、思い出す、七海ちゃんも色々辛いはず、体中あんな傷あって、お父さんからはあんな扱い受けて……。
「でも、私は今幸せなの」
まるで私の考えを読み取ったかのようにそう返事するとそのまま黙って目を瞑った。
私が復讐とかなんとか考えていたのはもう過去のこと、今は微塵にも思っていない、このままあそこに戻っても前よりは上手くやっていく、確かにこれが原因でまた苛められるかも知れないけど、もう私は一人じゃない。




