シロツメクサいっぱい(4)
その日を境に彼女の話題は彼女の父親の話ばかりになっていた。
「それだから……乙女心がズタズタなの」
彼女の父親は彼女のことを娘として見ていないのか、それともただのストレス発散する為の人形か……一種の愛情……なわけないよね。
最近は毎日のように会いに来ては何か言っていくらしく、彼女の表情も暗いものばかりになっている。
「それじゃ……寝るの、おやすみなさい」
朝起きて看護婦さんが私達の様子をチェックして、朝ごはんを食べたら彼女は呼び出される、そして日が傾き始める頃に戻ってきて愚痴るように、というより助けを求めるように私に言葉を聞かせていく、励ましてあげたらいいのだろうか、でも、声でないし、そんなことで悩んでいるよいつも彼女は寂しそうにベッドに帰っていく。
(……そういえば、あの子の笑顔もうずっと見てないや)
その翌日、いつも通り夕方に戻ってきた彼女がベッドに来たとき、私はどんな顔をしていただろうか。
「……ッ」
彼女は目を薄っすらと赤くし、涙をいっぱいいっぱいに溜めている、言葉一つ漏らせばそれはこぼれてしまうだろう。
いつも通り何か私に声をかけようとして、溢れそうな涙を堪えている、結果的には嗚咽が聞こえるばかりでもう私は見てられなかった。 今日こそ、声をかけよう、でも、なんて言えば、えーと、大丈夫? いや、何か違う、どうして泣いているの? というのも何か違う、えーと……。
「…………」
彼女は一度ぐっと目を擦ると踵を返そうとする。
「は、はじめまして」
自分でもなんでこんなことを言ったんだろうと思った、穴があったら入りたいという状況は今まさにこの時なんだろうと思う、それに声が小さくて聞こえなかったかもしれない。
「……え?」
「……」
どうしよう、寝た振りでも……。
「……は、はじめましてなの!」
けれど彼女は目に涙を溢れさせながら笑顔を向けてくれた、私も彼女も言いたいことは沢山あるのだろう、けど、もうここは……。
「み、みくろ、です……その、あなたは?」
「ななみ! さかとななみなの! 七つの海で七海なの!」
さっきまでの暗い感じは嘘なの!っとでも言うようにベッドに手を付いてぴょんぴょんと足をバタつかせている彼女、ううん、七海ちゃん。
「やーっと話したの、もう死んでると思ってたの」
「死んでたらベッドにいないって……」
「脳死っていうのがあるの」
七海ちゃんはいたずらっぽく笑うと頭を指でトントンと叩いた。
「……最近、忙しそうね、その、あなたのお父さんに何度も呼び出されて」
触れてはならない場所、というのは分かっていた、けどそれを知らない振りして見過ごせ、というのはしたくはない。
「……う、ん…………いつも聞かせてるの、それだけ、いつも酷いことを……酷い…………」
今日言われたことを思い出したのか、七海ちゃんはまた目を涙で溢れさせていた。 聞かされていた限りでは、可愛くないとか、雨に濡れた犬みたい臭いがするとか、見るからに病弱そうだとか、そんなことばかり、大人の言うことかソレが。っと鼻で笑いたくなるほどにバカらしい、しかも子供に向かって。……そして、自分の娘に向かって。
けれど、こんなことを言われても七海ちゃんは暗い顔するだけで今日みたいに泣こうとはしなかった、今日は一体どんな酷いことを言われたんだろうか。
「……ぱ、パパね……わ、私のこと、娘じゃない、って……いうの……」
それだけ言うと七海ちゃんは包帯だらけの私の腕に目を擦り付けるようにして泣いた、泣き声とか涙とか何もかも気にせずに泣いていた。




