A.えねみー(6)
そして翌日、もう美黒が小学生代理を始めてから1ヶ月は経ったんじゃないかという錯覚を覚える。 1ヶ月の間に色々ありすぎた、坂兎という社会の闇というか、ブラックな部分の存在を知り、一時期警察に行こうとしたが、無駄、っと萌月に釘を刺されてしまった、それほど大きな存在、それだけならまだいいが、美黒が代理を行っているとある少女は断片的に聞けば毒殺された、そして尾行から逃げると萌月が襲われている。
これだけ聞けばまるでアニメや映画の世界だ、だが、俺には為す術無くその信じられないような存在を目の前に立ち止まっている。
「はぁ……」
溜息を付けば幸せが一つ逃げるというが、もはや幸せは逃げ切ったような気がする。 美黒には七海ちゃんが死んでいるなんて言えるわけがない、危ないから代理止めろ等と言うにも無理がある。 このまま指をくわえて見ていれば美黒の命が危ないという。 とても信じがたいことだが、今の俺には信じるしかなかった。
「なーにを溜息付いてるの? ですか?」
この思わず首を傾げるような言い方に発音は……。
「やっぱり鼎か」
「ですよ。鼎ちゃんナノです」
「とても小さいのだな」
「?」
「いや、分からないならいい」
結局やることに悩んだ俺は学生なら行かざるを得ない「学校」に向かっている。ちなみに自分で自慢して言えたものではないが、俺は不登校的な不良であり、授業など8割は出ていない。 ……ふときゃあきゃあと騒ぎ出す鼎の後ろにある人がいるのに気づいた。
「……居たんですが、輝山先輩」
「みゆちゃんで良いと何度言えば分かるんだ?」
この2週間ほど全くいって姿を見せなかったこの人、輝山みゆ 俺よりは一個年上であり、名前からしてかわいらしいようなイメージというか、親は可愛く淑やかに成長して欲しいと願ってこの可愛らしい名前をつけたのでは? と一時期考えたが、それが本当なら誠に残念である。
何故ならばこの人の人生は波乱万丈で自由気まま、その自由の中のピースに俺が含まれているのは言わずもがなだが、俺が以前、同級生しかも不良共に囲まれた時は正直、面倒だな、っと思考しながら拳で語り合う覚悟を決めたが、その時フラッと現れ相手3人を全治1ヶ月の重症を負わせたという、俺にも制裁が来るだろうと覚悟していたが『少年よ、大志を抱け』とか叫んだ後、はっはっはと仰々しく笑い出したのだからこちらも笑うしかない、なんだこのゴリラ女。これが本音だった。
それからこの神出鬼没の女は何か思いついたように喋りだし何かしていく、それがこの輝山先輩だった。
「ところでだ、また悩んでいるな、悩み多き若者は老けて見える」
「なら先輩はいつもお若く見えますね」
俺が皮肉染みたことを言ったのが少々気に障ったのか、頬を引きつらせながら言う。
「言うようになったな少年よ、出会ったときは立つということを知らぬ生まれたての子ヤギのように足をガクガクさせていたというのに」
「いやいや……」
「まあ、言ってみろ、聞いてやる、いつもの事だろう」
この女、本当に何考えているのだろうか、これを悩めば三月ほど時が過ぎてしまいそうだから放っておくとして、こればかりは巻き込んでいいのだろうか、輝山先輩は一人で突っ走っては相手を薙ぎ倒していく、見た目はただ少し身長が高いくらいの女子高生で、腰まで伸びた髪は伸ばしっぱなし、男の俺でも手入れしろよ、っと愚痴を漏らしたくなるほどに、たが、一丁前に良いにおいのシャンプーの香りをぷんぷんと匂わせているのだが……。 不良を重傷負わせたとはいえ得意なのは護身術、それも先輩曰くタイミングを本当にキッカリ合わせることで何倍にもしてダメージを返せる、とかゲームのようなことを言い出したのだ。
「それでは、ごゆっくりー」
「いつもすまないな、またな鼎よ」
「あいあいー」
二人で勝手に別れを言って先にさっさと走っていった鼎。 それを確認し、心を見透かすように目を睨んでくる輝山先輩。
「……でも、コレばっかりは流石に巻き込めません、先輩でも無理です」
「ほう、昔君は、あなたなら小指だけでアフリカ象倒せますとか言っていたが、ソレより難易度は高めなのか?」
冗談で言ったこと根に持っているのか……いや、記憶力が良いということにしておこう。
先輩は今回の件は面白そうだな、っと微笑し、再度睨み付けてくる、その目を見れば瞳の黒に吸い込まれそうな錯覚を感じさせるのだからそれだけ何かと背筋に汗をかかせた。
「……言ってみろ、妹さんの件だろ」
「……」
うげぇ!? マジかよ!? とか叫びたくなってしまった。
「何で分かるんです……?」
「いや、適当に言っただけだ、私は感が鋭いぞ、麻雀とポーカーなら勝率100%だからな」
以前カード弄りと賭け事は嫌いって言っていたのはどこの口だよ。
「とにかくだ、話せ、君が困っていることを解消するのが私の生甲斐だ」
「……はぁ」
決して負けたわけではない、どうせ黙っていてもどこかで情報を拾ってくるのだ、ならば言ってしまおう、二度言うが、負けたわけではない、これ以上見つめ続けられると気がどうかしそうだとかそんなのでは無いのだ……うむ……。




