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A.えねみー(5)


「……もう、大丈夫よ、取り乱してしまってごめんなさい」


 萌月は俺からスッと離れると服の袖で涙を拭ってみせる。


「いや、謝るのはこっちだ……というより謝って済むではないな……俺がなんも考えなしに尾行を振り切ろうとするからこうなったんだろう」


「……そうね」


 萌月は興味なさそうに視線を逸らした、内心では反論しているのだろうか。 それによく考えてみればあのまま尾行を撒こうとしなければ坂兎雪なんとかに遭遇することも無かったはずだ、そしてそのまま駅に向かえば雪なんとかが言うに、俺はそこで死んでいたらしい。 だとすると結果はどうあれこうなったのは間違いでは無かったのか……?


 思考がぐるぐると混ざり合う感覚に襲われる、ううむ……起きていることがあまりにも突然すぎてどうも付いていけない。


「……それに、怖いから泣いたわけじゃないのよ、それ以前に私に怖いものは無いわ」


「ほう」


 突然何を言い出すのかと思ったらそんなことか、別に怖がって恥ずかしいようなことではない。実際俺だって十分ビビッているのだ。


「あ、そうね、強いて言うならまんじゅうが怖いかしら」


「マジか、実はここだけの話、俺はお茶が怖いんだ」


「……あら大変、毎日飲んでいたのは克服する為だったのね、ご苦労様」


「いや、待て、俺はただお前の発言から察してまんじゅう怖いっという落語の……」


「知っているわ、自分で撒いたネタを解説するほど間抜けな生物はいないわよ」


「あー、はいそうですよ、俺は間抜けな生物ですよ」


「……同じ種族だと思ってたのだけど……まさか改造人間?」


「改造人間も一応人間だ、種族は人間だろう」


 おいおい、今初めて知ったわ。 みたいな顔してんじゃねえよ……。


「……っと、改造人間様の妹がお帰りよ、改造シスターとでも言うべきかしら」


 萌月は冗談を混じらせながら開きっぱなしだったドアに目線を送った、そこには以前家に遊びに来た鷹咲ももちゃんがちょこんと立っている。


「待て、俺はこの子を妹として迎えた覚えは無い」


「ふぇ!? あ、あ、あの……私……」


「ってこら! ももちゃんいじめないでよバカ兄!」


 っと、そのちょこんとした子の脇から飛び出すように出現したのが黒ツインテールが眩しい我が妹、美黒である。


「どうした? 遊びにきたのかももちゃんとその家来よ」


「そ、その……家が近かったので……一緒に帰ろうかと……」


 ももちゃんは肩を縮こませながら口を開いた、よほど緊張しているのだろう、顔なんて真っ赤で急性りんご病でも発病したような状態だった。


「って、私は家来かよ!」


 ツッコミが遅いぞ可愛くない我が妹よ。


「もう日が暮れている、こんなやつほっといて早く帰るといいぞ」


「は、はい……失礼しましたっ」


「あ、バイバイももちゃん」

 

美黒は名残惜しそうにももちゃんの後姿を見守りながら手を振っている、やっとできた友達って感じだな、その辺のこともまた晩飯時にでも聞いてみるか。


「……ただいま」


「おう、おかえり」


「……おかえりなサイン、コサイン、タ」


「しょーもな」

 萌月のギャグはともかく、明日からはどうするべきだろうか、下手に動けない上に待っていればいつか殺されてしまうんじゃないかというような恐怖まである、こういった件を知っている身内は萌月しかいないが……これ以上巻き込むのも……いや、今更か……今日会ったあいつの件も合わせて少し話し合うとしよう。

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