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A.えねみー(4)


 とはいえ俺も人のことを言えたものでは無いだろう、坂兎雪なんとかの妹、七海ちゃんが死んだ、しかも毒殺っと伝えられたとしても「どうしてそんな残酷なことを」っという程度しか感じ無いのだ、肉親、または友人が亡くなったら嘆き悲しんだんだろうが、昨日今日知ったような子だ、その子が死んだと伝えられても俺には俯くことしかできない。


 もっというなら物心が付いたときはおじさんが瑞山家の父だと思っていて、本当の父親と母親はもう居ないというのを知ったのは中学生になった時であり人の死を知らない俺はそういう所で疎いのだろう。


 空が流血したのかと思わせるような真っ赤な夕日を背にしながら俺は自宅を目指していた。ふと先ほどのことを思い出せばまた尾行が付いているのだろうか、っと思考させるが、もうどうでもいい。


「……しっかりしろよ瑞山弥一」


 自分自身を慰めるように独り言でもつぶやいてみたが、どうも無理なようだ、今日は家でゆっくり休むとしよう。


 そして、自宅の玄関が見える位置に差し掛かると瑞山家に宅配便だそうで。 某運搬会社のトラック、そして今まさにトラックに乗り込む従業員が見える。もう少し近ければ「お疲れ様です」っと作り笑いをした後、敬礼でもおどけてするのだが、少々遠い、というか、何頼んだんだ? 萌月がまた通販でゲームか何か買ったのか……?  以前買っていた燻製キットとか使ったためしがないだろう、ほどほどにしてくれよ


 そんなことを思いながら玄関に向かうと無用心にドアが開け放たれていた。


「も、萌月?」


 そしてそこには瑞山萌月、我が妹が力無く倒れている、床にはじわじわと真っ赤で鉄臭い水……血が広がっている。


 視界が真っ白になる、生きているか? 生きているよな? 血はきっと何かの間違いだ……ああ……。


「お、おい! 萌月! 何があった、返事をしろ!」


 ま、待て落ち着け、出血はどこだ、左手首か……? くそ、切り傷のようだ、血が派手に出ている……だが脈はあるし呼吸も大丈夫だ、今すぐ救急車を呼べば間に合うか!?


「待ってろよ、今救急車を」


「ま、待ちなさい、ごほっ」


「も、萌月……大丈夫か? って大丈夫なわけないよな……待ってろ今救急車を」


「……そこまで重症じゃないから、落ち着いて、あー……お腹痛い」


「……だが、手首からこんなに血が」


「……バカね、太い血管切られてるならこんなのじゃ済まないわ、一見派手に見えるけどこれはそこまで言うほど切れてないわ、切り過ぎず、浅すぎず、プロね」


 そう言い、萌月は傷口を手でなぞり、付着した血液を口に放りこんだ。


「あの宅配のやつか?」


 あの某運搬会社の制服を着た人物を思い出してみる。だが、そこまで注意深く見ていなかった為か怪しくは見えなかった。


「……そうね、迂闊だったわ、いつもの荷物と思って受け取ろうとしたら手首をばっさり、驚いた私は叫ぼうとしたのだけれど、このか弱い私の腹部を思い切りドン、っと。おかげで内臓がシャッフルされちゃったわ」


「……大丈夫なのか?」


「そういって私のお腹見る気でしょ? いい加減にしなさいよペド兄」


 微笑しつつ大丈夫、大丈夫、ノープロブレムと言ってのける萌月だが、顔にはうっすら油汗をかいている、それはそうだろう、気絶するほどの力で殴られているのだ、内臓破裂などしていなければいいのだが……。


「というか、ほんとうに出血止まったな」


 ふと目に行った手首を指差しながら言う。


「……そうね、でも困ったわ、これじゃ私がリストカットしたみたいじゃない、しかも相当目に付きやすいわよ、もう」


 萌月は笑い話にするが、我慢しているのは痛々しいほどに伝わっている、目に見える所にそんな傷があり、しかも自害の傷と誤解されたなら避けていく人間も出てくるだろう。


 それもこれも俺が尾行から逃げたことで起きたことなのだろうか……そう思えば俺は事を甘く見ていたのかも知れない。


「……ッ」


「我慢するな、今は美黒は居ない」


「…………だ、大丈夫よ……」


 いつも強がっている萌月だが、怖いのだろう、痛みのこと、いつ死ぬか分からないということ、それに傷跡のこと。


「すまない」


「……」


 それから数分、萌月は泣き声を上げないように歯を食いしばりながら涙を流した、ゆっくりとにじむようにして頬を伝っていく。


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