A.えねみー(2)
そして翌日、昨日、美黒は疲れたような表情をしていたが、毎日年下と遊ぶというのに文字通り疲れているのだろう、保育師になりたいとかいう夢があったとしたらそれはこの生活の中で崩れていくに違いない。
前日動けなかったこともあり、今日はしっかりと七海ちゃんをお見舞い兼生死の確認へと前に出ていた。根暗妹こと萌月が言った「もう死んでいる」ということを嘘だと信じて。
あと、家を出るときに萌月に注意を受け、俺は神経をぴりぴりとすり減らしている。それは先ほどの数十分間のおしゃべりにあるが……。
◆
「……兄貴、どこいくの」
「……買い物だ」
「……不潔」
「あ、の、な、まだ何を買いに行くか言ってないし、今は靴を履こうとしているとこなんだが、それだけの行動で俺がいかがわしいモノを買おうとしているようなことを言うんじゃない」
「……そう、てっきり猿轡でも買いに行くのかと」
「俺はそれで何するつもりだよ……」
「ナニでしょう?」
「いかがわしいわ!」
「……で、七海ちゃんに会いにでも行くつもり?」
「……」
無視するように靴を履こうとすると、萌月は少し強めに声を張りながら言う。
「……死ぬの?」
「……は?」
「……だから、七海ちゃんは亡くなっているのよ、会いたければ死ぬしか無いじゃない、言っておくけど、うちの家に今すぐに葬式を挙げられるようなお金はないのよ」
「妙に現実味があるが、俺は死なない、それに会いに行くといっても病室に行くだけだ」
「……病室、知ってるの?」
「さっきアルバムを探してな、ほらよ、美黒と七海ちゃんが病室前で写ってる写真だ、看護婦にでも撮って貰ったんだろ」
そういいつつ写真をチラチラと見せる
「止めはしないけど、ストーカーにご注意を」
「……?」
「……言ったでしょ、瑞山家はもうずっと行動を観察されているのよ、美黒が小学校に通うようになってからね」
「そうかい」
「ちなみに言うと、兄貴がペドフィリアだということは知られているのよ?」
「? なんだそれ」
「ググレカス」
◆
ペドなんとかという組織とか何かか? 俺は一切そんなものは知らないのだが、ググレカスというのも何かの暗号だろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら背後をチラ見する。
いない、気がする。
萌月が言うには美黒が桜光小学校に通うようになった日から尾行が始まっているということらしいが、そんなことを疑ったことはほんの1ミクロンも無い、映画のように本当に気配を消しているというのなら驚きなのだが、同じ人間なのだからそれも信じたくないもので……。
だが、万が一と言うことを考えれば映画で見たように動いてみるのもいいかもしれない、恥はかき捨て。
そう開き直った俺は、わざと入り組んだような細い道に出る。 というより道と言わずもはや人の家の庭、慎重に抜けようとしなければそのへんのものに当たり物音を立ててしまう、それも俺は別に立ててもいいのだが、尾行側はそうはいかない、かといって諦めるわけにはいかず。 我ながら上手く考えたものだ。
植木鉢や盆栽をまたぎ、時には替え用のタイヤ、洗濯物をくぐり、前に進む。 その道は都合よくぐねぐねと曲がっており少しすればすぐに角を曲がる、要するにもし尾行がいるのであれば慎重かつ早く、だが、そこにはどうしても雑さが残るわけで……。
ガタンッガシャンッ――――。
何かを蹴飛ばし、焼き物を落下させたような音が細い路地に響いた。




