一時間目:りゅーげ(8)
そんなぬのっきれを購入し満足しきった表情の萌月を横に連れながら店を出ること数分、日はまだほぼ真上にいて昼時だということを知らせてくれている。
さっさと昼飯でも取って萌月と分かれることにしよう、病院のこともそうだが、美黒のことも気になる、いくらなんでもこいつまで巻き込むことはできない。
「……次はこっち」
「……あ?」
ふと聞いた言葉についつい育ちの悪い不良な声で返事をしてしまった、いや、しかし、なんと言った? 次、だと?
「……? 次はミラーズモールで買い物よ?」
ミラーズモール、この県内において一番大きく、尚且つ値段もそこそこ高い、だが、質はとてもいい物でまさにセレブ奥様向けデパートである。
「だが、あそこに行くには3回ほど乗換えがいるだろ、それも早くて1時間はかかる」
「…………いいの、私、思ったよりも体力あるから」
萌月はわざとらしく力こぶを作ろうとし腕を曲げた。 こんなニートに力こぶなどあるわけがない、あったとしてもそれはラクダが持つコブのようなものだろうか。 そもそも、体力と力こぶの大きさなど全く持って関係性が無いのだ。
「それにだ、見てみろ、1時前だろう? ここは大人しく外食して眠気がやってきて帰宅を目指すのが怠け者の称号を欲しいままに生きるお前の在り方だろう」
「……失礼ね、私はどちらかといえばハタラキモノよ、ゲーム内なら」
「またその謎の新生物『ハタラキモノ』か、やつは何か? 流行のペットか」
「……ペットといえば昔流行ったエリマキトカゲ」
「んなことはどうでもいい、ミラーズモールは流石に付き合わん、行くなら一人で行ってくれ」
「なんで?」
「言ってなかったか? やる事があるんだよ、だからあまりお前に付き合ってるわけにはいかない」
「……美黒のことね、それと、坂兎の家のことと、桜光」
「……」
萌月は急に足を止め、チャームポイントのジト目を怪しく光らせながら言う。
「……兄貴の調べたいことは分かるわ、私も調べたのよ、でも、どうにもできないから、放っておいたほうがいい、美黒の好きなように、させてあげて」
「……お前、色々知ってるのか? 坂兎の家のこととか、あの学校のことも」
「……色々も何も全部調べた後、美黒が入院したとかそんな辺りから調べたのよ」
「何の為だ?」
「お姉ちゃんって単純でしょ、君ならアイドルになれるから事務所においでって言われて誘拐されるようなバカだから、ちょっと調べてみただけ、そしたら色々分かったってこと」
思わず息を飲んでしまった、あの全く美黒に興味を持ってなかったと思っていた萌月は、俺よりも早く調べていたようだ、明らかに何かおかしい美黒の今回の件。 だが、萌月は放っておけという何故だ?
「……一つ教えてあげる」
「ああ……」
「……お姉ちゃんに届いた、七海ちゃんからの手紙、あれ嘘ね、七海ちゃんはもう亡くなっているのよ」
「…………は?」
一瞬頭が真っ白になってしまった、なら、何のために美黒は学校に通っている? いや、本当に七海ちゃんは……ならば、誰がどうしてこんなことを考えているのだろうか、濁流のように押し寄せるいくつもの疑問が頭の中でショートしている、萌月が言った事をそのまま信じるというのもおかしな話だが……。
「詳しく、聞かせて欲しい」
「…………そう」