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一時間目:りゅーげ(6)


 実の妹を平日の昼間、肩を並べて歩くというのははたからみれば少し変に見えるかもしれない、少し考える奥様方なら「歯医者でもいくのかしら、それとも耳鼻科?」などということを思い浮かべるのかもしれないが、半数最初の思考にいたるのは「学校は?」という疑問視でおおよそ間違いは無いだろう。 というか、サボりもいいとこである、なぜなら、駄菓子を買いに外出しているのだ。


 無言ですたすたと歩く萌月をたまに目で追いながら考える、そういえば「駄菓子」というのは名前からして駄目な菓子、っとそのまんまの意味で取れるのだが、実はそれは間違いであり、意味を辿れば江戸時代の話になるが、その頃は白砂糖を使用し作った菓子を上菓子、黒砂糖等を使用した物を駄菓子と呼んだという、ちなみに、駄菓子の「駄」は粗茶などに使われる「粗」のような軽蔑的言葉と同じだそうだ。


 っと、そんな薀蓄はさておき、萌月は行き先を言ってこそはいないが、きっとスーパーにでも駄菓子を調達に行くのだろう。


 たまに視界に入る萌月の黒髪がさらさらとしなっている。 ところで、稀に発見する駄菓子屋に行かずわざわざ駅近くのスーパーまで足を運ぶ理由としては、単純に1円、2円安いからである。 一円を笑うものは一円で泣く、塵も積もれば山となるっという勿体無い精神を持つやりくり上手の奥様方の思考だ、俺はどちらかといえば、たかが一円。具体例を挙げるなら、一円が財布から不運にも墜落し、自販機の下に落ちてしまって取るにも周りの目を気にして取れない、という状況になってしまったから取らないでおこうっと、前向きな考えである。


 確かに一円が100枚で百円、1000枚で千円とパッと見れば「おお!」っと感嘆してしまうのだが、そんなジャラジャラ一円を千枚持って買い物などできんだろう、実際同一硬貨は21枚以上出された場合、店側はソレを拒否することも可能なのだ。


 そして、ここまで来ておいて難だが、こいつ、どこに向かっているんだ? スーパーから徐々に遠ざかっていっる。


「萌月、どこに行く気だ?」


「……? 今更?」


「遊園地にでも行きたいのか? それともデパートの屋上か? お前の好きなパンダ遊具くらいありそうだな」


「……パンダは嫌いじゃないけど、パンツの方が好きよ?」


「お前はおっさんか」


 相変わらずうちの妹二人はどこか親父臭い、どこで教育を間違えたのだろうか……。


「んで、どこが目的なんだ?」


「うーん、富山?」


「新鮮な魚が食いたいならそういえ、今からでも釣りに行こう」


「……魚はきらいよ? きもいし、臭いし、最悪」


「お前な……魚を悪く言うんじゃない、奴らの栄養は半端じゃないぞ、確かに川魚やジャングル奥地の魚は少々注意する必要があるし、魚捌いていると虫を発見してそれ以来トラウマで魚が食べられないとかあるが、きもいし臭いなどという偏見で嫌うのは俺は許さん」


「大丈夫、兄貴のがきもいし臭いし最悪だから百歩譲って魚は好き」


「……そうだな、お前は相当な男性恐怖症なんだな、このレズ野郎が」


「……女の子に向かって野郎は無いんじゃない? 野郎って男に対してよく使われるっぽいでしょ、せめてレズウーマン? ……というより私はレズじゃないわ」


「どうでもいい、とにかく今日の晩飯はアジの茶漬けにカツオのたたきな」


「……そんなこと言ってる間に着いた」


 萌月が無造作に停止すると人差し指でとある店を指差している。


『らんじぇり~ず。しすしす(はぁと』


 ピンクを基調とした看板に、キラキラと謎の装飾が施されている、そして塗りが甘かったのか、雨で塗装が溶けてどろどろとしていて近くで見れば不気味である。


「って……おい」


「……ん?」


「ここは何屋だ?」


「何って、どうみても下着売ってるところでしょ、ランジェリーって読むのよ? というか、ひらがなが読めな……ああ、ちょっと文字を崩してるから分からなかったの」


「あ、の、な……」


 俺は苛立ちのあまり萌月のこめかみをぐりぐりと押さえつけながら言う


「どうみても男が侵入してもいいような場所ではない、入ったとたん変質者決定だ、そんな店に俺をわざわざ連れてくるんじゃない、はっきり言って時間の無駄だ、バカ野郎」


「……また野郎って言った、バカウーマン……ってそれも違う」


「はぁ……ここまで来たからには荷物ぐらいは持つ、だから早く買って来いよ」


「……? 兄貴も入るのよ?」


「あのな……またこめかみグリグリされたいのか?」


 っと、萌月はどうぞ、っと自分の頭を差し出してくる、俺はそれに応えるようにこめかみをホールドし、「うーうー」っと唸る萌月を前に溜め息をつくのだった。


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