一時間目:りゅーげ(5)
「何調べてたの?」
使用したノートパソコンを運ぶ為、脇に抱えて立ち上がると、後ろで湿っぽい声が耳に届いた。
「小学生の調理法を検索していた。」
「へぇー。 どんなのあった?」
「学校でよく使われるスクール水着を用いた一般的な調理法だ」
「へえー」
ただでさえジト目なのにさらに目を細め、狐の妖怪のように目が細くなっていく萌月。
美黒と仲が良かった小学生を調べている、なんて言うつもりはない、こいつには関係の無いことだからな。
「ところで、お前学校はどうした」
「…………やーにぃこそ学校は? サボり? それとも苛められてるの? 苛められてるなら聖母の如く心の広い私に相談してくれてもいいのよ?」
「お前はどっちかといえば聖母というかもはや送るのがテンプレ化した歳暮並みの優しさとありがたさしかない」
「……でも、せっけん嬉しいでしょ?」
「でも、お高いんでしょう? みたいな言い方をするな、分かったから部屋に戻れ」
「……嫌よ、兄貴も暇ならお買い物手伝って欲しいわ」
買い物? どうせ大量に買いだめしていた駄菓子がソコを尽きたんだろう、そんな下らん用事に付き合わされてたまるか。
「行くなら一人で行ってくれ、俺は忙しいんだ」
「右手が?」
萌月はニヤニヤと笑みを作りながら両手を丸め、望遠鏡のようにして覗こうとする。
「違う」
「……じゃあ左手?」
「うちの妹はヤケに下ネタが好きだな 発情期か?」
「……年中発情期の兄貴に言われたくないですー」
「はぁ……とにかくだ、俺は調べることがあるし、行くところもある、すまんが、また今度な」
俺はいつの間にか詰め寄っていた萌月のでこにデコピンを入れ、ノートパソコンを片付けに行く。 デコピンした際に「ひょわぁ!」とかいう萌月らしくない奇声が出たことはスルーしておこう。
ノートパソコンを粗大ゴミ収納場と化した押入れに仕舞うのに苦戦すること数十分、嫌な埃に塗れながらリビングに向かえば、萌月からシャンプーの香りと寝巻きから着替え、普段みない一般的な女の子の服が目立っていた。
「……さ、いこっ。」
「ああ、いってこい、車に気をつけろよ、万が一時速200くらいの車に跳ねられて部位がばらばらになっても俺は一つ残らず拾ってやるから安心して行って来い」
「……血の一滴までよろしく」
「無理だ、雨が降って流れる」
「……とりあえず、行きましょう」
萌月は何を考えているのか俺の服のすそをぐいぐいと引っ張ると外に出そうとしてくる、困ったものだ、たまに甘えられてもかわいいともなんとも思わないが、今は病院に向かいたい、調べるなら早いうちがいい、内容が内容なだけに余計、だ……。
「分かったから着替えさせろ、こんな埃まみれで人様の前には歩けんだろう」
「……その粗末な顔は晒してるのに?」
「整形代として100万は軽く貰っておこうか」
だが、こうなってしまってはグダグダ伸ばされるのが目に見えている、ならばこちらの用事をさっさと済ませてしまえばいい、駄菓子を持って帰るだけの物持ち役等たったかかって一時間だろう、ならば昼飯でも取った後に萌月を先に返して病院に直行すればいいもの。
妙にはしゃぎ気味な萌月を脇に外に出れば、駅まで無口のお散歩が始まるのだった。