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一時間目:りゅーげ

 瑞山美黒が小学校へ通うようになってから一週間が経過した今日。


 帰宅するや鷹咲ももを連れるか、愚痴を言い放つかの二択を毎日のように繰り返している、それも愚痴るときはその辺りに転がっている中学生高校生のような口調で「マジだりぃー」とか言い出すんだが、これがほんと鬱陶しいこと、しかも宿題の愚痴と来たものだから余計にだ。


「あーーマジだるー算数の宿題多いし、あの算数教師の髪の毛引きちぎってやろうかあのハゲカツラ!」


 だが、算数を数学といい間違えないところ結構成り切っているのだろう、もしくは頭の細胞が単純すぎて区別が未だにできていないのか。


「お前のやってる問題くらいサルでもわかるぞ、黙って終わらせろ」


「へえ、じゃあお兄ちゃんはサルなのね」


 口が減らないガキだな……小学生らしいのか? どっちかといえば教育のなってない5歳児だ。


 外は雨が降り注いでおり、しかも霧雨と来たのだから妙にじめじめしてストレスが溜まる、美黒も同じなんだろう、萌月はどうせカビでも生やすはずだ。


「ちなみに、カビというのも多種あってだな、食えるカビから毒、例えば一部のアカカビなんかのトリコテセン毒素が有名だ、嘔吐や下痢、腹痛などを引き起こす」


「はぁ?」


 こいつ頭のネジがこの湿度で錆びたんじゃねえの?って顔をされてしまった、結構は屈辱である。


「ところで、学校はどうだ? ももちゃんしか家に連れてこないじゃないか」


「……別に、普通よ、あと、気安くももちゃんいうな!」


「呼び捨ての方がいいか?」


「……はぁー…………心配するわりには学校見に来ないじゃん」


「それはこっちにも用事があるからな」


「……協力するって言った」


「それは最低限バレないようなサポートだろ? 別にこのまま過ごせば問題ない、それとも来て欲しいのか? 学校に」


「……はぁ、女が来いって言ったらうだうだ言わず来るもんでしょ、全く」


「ならお前の女としての魅力が足りんな、まあ、見た目も頭も小学生だし仕方ないか」


「~~ッ」


 顔を真っ赤にしながら震えている、なんという。 煽り耐性の無いことだ。


「とにかく! 明日来い! バカ!」


 そして勝手な約束を取り付けられ――――。






 ――現在に至る。



 昨日のあの霧雨は晴れ、絶好の登校日和だ、というかもう学校にいる、桜光小学校に。


 隣には化粧で若く見えるが、きっと20歳後半か30代くらいの女教師が監視の目を光らせていた。この御時世だし仕方がないだろう、子羊の小屋に狼を投入するようなものだ、まあ、俺はベジタリアンな狼だから無害だが。


「あの、七海ちゃんは頑張ってますか?」


 ふと、聞いてみる、確か、七海だったはず、うちの妹が演じる坂兎七海。


「七海ちゃん? ……ああ、美黒ちゃんのこと?」


 おいおい、演技じゃなくてただの異質転校になってるぞ


「…………」


「ああ、ごめんなさい、ふふ、美黒ちゃんじゃなくて貴方の中では七海ちゃんかしら」


「知ってるんですか、そうならそうと先に……」


「というより、あの子、初日から瑞山美黒よ!って名乗ってたけど……」


「すいません、バカな子なんです」


「一応資料とか手続き上は坂兎七海ってなっているわ、まあ……周りから見れば首を傾げそうだけど、言動意外は別に怪しくないから大丈夫だと思う、生徒はあの子のことみんな美黒ちゃんって呼んでるみたいだけど」


 フォローも糞も無いことがこの場で発覚してしまった、何を考えているんだあいつは、いや、何も考えてないのか。


「ちなみに、テストとか自分の持ち物とかは全部坂兎七海って書いているみたい」


 女教師はふふふっと微笑むように笑うと教室まで案内するわ、っと言い、俺を先導する。


 周りを見渡せばかなり綺麗な校舎だ、休み時間なのか、時たまにすれ違う生徒からは明らかにお金いっぱい持ってます、っと言わんばかりの雰囲気を漏らしていて、身代金の為に誘拐されそうな子ばかりだった。


 後々聞いてみればここはお金持ちの子ばかりが通う小学校らしい、そんな中で美黒なんかがやっていけるのだろうか……。



 そして歩くこと3分程度で一つの教室に到着した、3-2っと扉の上のプレートに書かれていて何故だか懐かしい気分になる。


「覗いてみてもいいですよ、ふふ」


「それじゃ……」


 教師の促しを素直に受け、締まっていた引き戸をゆっくりと開ける。


「え、あれ、だ、誰?」


「きゃーー」


「な、何? 男の人!?」


 教室内は大パニック。というか、女子しかいない、いや、てか、体操服に着替えている。


「……うちの妹がお世話になっています」


「きゃーー!!」

「…………うちの妹が」


「聞こえてるわバカ! さっさと出てけ!!」


「おっと危ない」


 顔だけを戸の隙間から出していた俺を挟み潰すように、顔を真っ赤にしつつ戸を閉めた少女が一人、無論、美黒である。


「ふふふ、この御時世に大胆ですね」


「ははは、ありがとうございます」


 冗談の通じない相手と分かってくれたなら嬉しいが、この人、教師失格じゃなかろうか。





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