小学生代理(10)
とてもいい子なのでついつい頭に手をやってがしがしと髪の毛をぼさぼさにしてしまった。
「…………っ」
……まあ……嫌がってないし、むしろ満更でも無さそうなのでこのまま放っておこう。
そんな時、足音など気にしないと自己主張するようにどたばたと階段を駆け上がる音が響いた。
「あー! やっぱここにいた! もももダメでしょ、こんな部屋に入っちゃ」
「こんな部屋とは悪かったな、萌月の部屋よかマシだ」
「うっさい病原菌!」
なんのだよ……インフルエンザ程度ならまだ許すが、ペストや出血病辺りまで来るとさすがに全否定するぞ。
「とりあえず用は済んだみたいだぞ、連れて帰ってよし」
「言われなくても連れて帰るわ」
美黒はももを抱えるように運び出て行った。
そして残された俺はというものの、暇すぎれば眠くなるという事実がやってきてしまい、ベッドに横になることにした、もはや人生の何分の一が睡眠時間など知らん。
◇
あれから数時間が経ち、午睡から目を覚ますと外はもう暗くなり始めていた、まだいささか眠たいのだが、それを欠伸一つで我慢し、リビングまで降りることにする、そろそろ飯でも作ろう美黒と萌月が文句言い出す前にな。
リビングに足を運べば美黒の姿は無かった、きっと鷹咲ももの子守を終わらせて自室にでも篭っているのだろう、それとも宿題でもやっているのだろうか。
冷蔵庫の中身を確認してみれば、たまごよし、鶏肉よし、今日は親子丼でもしよう、難しそうな響き持っているくせに簡単だからな。
そして、数十分間に渡っての調理を終わらせ、萌月を美黒を呼ぶことにする、部屋いっぱいの親子丼臭で気付いてそうだがな。
まずは萌月、毎度ココに立って思うのだが、この斜めになった扉はどう配置したのだろうか、地道に削ったのか?
「おーい、ビーバー萌月、飯だぞ」
「……私はたぬきじゃない」
「ビーバーとたぬきを一緒にすんなよ、あいつらは歯でガリガリと物削るんだぞ」
「私にそんな歯はないわ」
「そうか? その立派な前歯は――いでっ!」
「……夕飯でしょ? もうちょっとしたら行く」
いい加減布団の中で受け答えするのやめて欲しいものだ、おねしょを隠す子供じゃあるまいし、部屋に入っただけで何か投げつけるのは勘弁していただきたい。
続いて美黒だが……。
「おーい、ミニマム姫飯だぞ、親子丼だ」
「うっさい!」
そして罵声と共に扉をガンガンガン、壊す気か? 萌月がビーバーならこいつはオランウータンだろう。
役目を果たし、俺はさっさとリビングに戻った、あれ以上の呼びかけは無意味だ、しつこくいれば赤旗をチラつかされた猛牛のように暴れだすのでね。
「いただきます」
いただきます。はとても重要な言葉だ、確か誰かがそんなことを言っていた、萌月も美黒も成長してからいわなくなってしまったが、それもまた仕方がない、あって当たり前のものは無くなって初めて重要さに気付くものだからだ。