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夢の欠片  作者: サエコ
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第1話 再会

ナナセの過去。ナナセは普通の女の子として、生まれ育ってきた。いつから回り始めたか分からない歯車を、ナナセは少しずつ語りだした。

 地球は二つある。

 生まれて一番最初に習うのはこの世界についてだ。

 向こうの地球はそれを知らないらしい。世界の仕組みも、何もかも。死んだらどこへ行くのかさえ。だけど、それ以外は全く同じ。地形も、住んでいる人々も。勿論多少の歴史に違いはあるとしても。

 ナナセはその事に疑問を持ち、納得が出来ないまま、大学進学してもう二年になる。

 「ナナセ、また何読んでんのよ?」

今、休み時間よ?ホントに好きね、と呆れた声がした。

 クラスメイトで幼馴染でもあるのアミの声にナナセが顔を上げると、やはり呆れ返ったアミの顔があった。

 「またぁ? 『アナザーアースと地球の相違点』ですって?」

そう言うと、アミはナナセの読んでいる本を取り上げた。

 「やめてよ、今いいとこなんだから」

ナナセはふくれっつらでアミからその本を取り返すと、大事そうに鞄にしまう。仕方ない。アミにかかるとこれは読めそうにないや、と思いながら。

 アミは成績優秀、レポートだって常に優。小さい頃から常に出来る子、だった。本人は全く気にする事もなく、頓着もせず、遊んでばかりいる。

 「あんたねぇ、いつまでたっても彼氏出来ないわよ?」

「いいよ、別に」

「可愛い顔してんのに勿体無い事言わないの。哲学書とかその手の世界の始まり本なんて教科書と資料で十分じゃない。地球史も地球世界史も地球日本史も選択してんでしょ?」

資料なんてたくさんあるじゃない、と。

「だって、どうして向こうの地球は何も知らないのに何も悩まないのか謎じゃない」

「ばっかじゃないの?」

 アミはそう言い切ると、にっこり笑って言った。

「アナザーアースと地球は違うものなのよ?同じだったら意味がないし、それぞれの世界にそれぞれの悩みがあんのよ」

悩んでるに決まってんじゃーん、と言うと、アミは顔の前で手を合わせると言った。

「お願いっ。今日のコンパ来てよ、どうしても一人足りないのっ」

 ナナセはやっぱり、とため息をついた。

 そして、何でこんなに地球が気にかかるのか分からない自分に少し苛立ちを覚えていた。アミのように素直には捉えられない。



 断ったものの、どうしても、と断りきれずに、ナナセはアミと一緒にコンパに出かける事になった。

 ナナセは、男より地球が気になるから、大学まで進学したのに、とグズグズ言っていたが、それをアミが諭したのだ。

 「一体何がそんなに気になる訳?」

アミは訳が分からないという顔で言った。

 「だってさ、地球とこのアナザーアースはいわゆるパラレルワールドみたいなものでしょ? そんなん何で出来たのか知識で知ってても納得いかないじゃない」

「…確かにね、ナナセが言いたい事が分かんない訳じゃないけど」

「地球は知らない、あたし達は知ってる、それだけだから殆ど変わらないってのもおかしいじゃない。それだけって問題じゃないでしょ?」

 アナザーアースと地球の違いは、人間が元々意識の集合体で、遥か遠い昔のビッグバンにより、その意識がちりぢりになり、輪廻転生を繰り返しながら最期にはまた意識の集合体へと戻っていく事を知っているか否かにある。

 どうやったら集合体へ戻れるか、それはカルマ、いわゆる業をなくす事にあり、そうやってキレイな魂になればまたもとの世界へ戻れる。

 それをアナザーアースの住人は知っている。ビッグバンでちりぢりになった時、その知識を忘れなかったから。そして地球の人間はきれいさっぱり忘れて、それを悟る事から始めなければいけない。

 「要するにそれを知ってたからって出来るのとは違うって事でしょ? それにね、前世を、ビッグバンで始まったこの魂の記憶を全部覚えているのって辛いとか思わないの?」

アミはそう言うと、ため息をついて続けた。

「確かに、あたし一つだけ気になる事があるわ…あたしの前世知ってる? 言ったっけ?」

ナナセは黙って頷いた。

 アミの前世はお嬢様。華族のご令嬢だ。華族制度が破壊されて没落した一家は心中を謀った、とアミの口から聞いている。

「そんなん知ってても意味がないのに、地球人がどうして前世を気にするかってのが分かんないのよね」

そうだね、とナナセは頷いた。そしてこのままではアミが暗くなると思い、アミの前でこれからこの話をするのは辞めようと思った。

 ナナセの前世は父親が成り上がりだった為、母は多少辛い思いをしたのだろうが、自分は欲しいものを買って貰い、裕福な生活をしたし、好きな人と結婚して子供も作り、孫を見る少し前に流行り病で死んだ。

 生まれ変わると知っているから、死ぬ事は怖くない。怖いのはもっと別の事。

 自決すれば確実に、その意識は残る。死ぬ時の感触さえ忘れられないこっちの人間にとって、忘れられないというのはあまりに惨い罰なのだ。

 アミもそれがあるのだろう、涼しい顔をしながら、元気を振り撒きながら、前世の業を消す事に囚われているのだ。

 「まあまあ、コンパ行くんでしょ? そんな顔しない。いつものアミの元気はどこよ?」

「そもそもそれってナナセが言い出したんだからね」

「はいはい、すみませんね」

 いつもの憎まれ口を叩きながら、ナナセとアミはそうやって夜の街へと消えて行った。



 どう考えても、これは騙されたんだ、アミの口車になんか乗らなければ良かった、とナナセは席に着くなりタバコを吸う。

 滅多に吸わなくなったタバコ、その諦めた様な、苦渋の表情。少し仲のいい友達なら分かる。ただでさえナナセは分かりやすいのだ。

 ナナセは人目も気にせず、イライラを隠しもせず、憮然として座っていた。

 そんなナナセに一緒に来ていたユリとサヤカが呆れたように話しかける。

「ナナセー? 何? またアミが無理やり?」

「そんな顔もいつもの事だからわかるけどさー、一応コンパだしニコニコしてよー、いっつもより機嫌悪いじゃない、キレイな顔も台無しよ」

 ナナセは苦笑すると今日は帰るわ、と言って席を立った。

「ちょ、ちょっとアミー? ナナセが帰るとか言ってるわよー」

「まあまあナナセー?」

二人を振り払って、立ち上がると、そこには彼がいた。

 ナナセの一番会いたくない人。

 「ナナセ、俺がいるから帰るの?」

そうよ、とナナセが言うと、ごめんと言って無理やりナナセを座らせた。

 「ナナセ、ごめん。俺がアミに頼んだの、会いたいって」

顔を初めて上げるとそこには笑顔を向けるリュウの顔があった。


 「じゃあ、何はともあれ、リュウとナナセの再会に乾杯ー」

アミの音頭で飲み会は始まった。

 こうなってしまうと、帰るに帰れないし、他の男と話も出来やしない。

 アミに一本取られたな、とナナセはまた溜息をついた。

 「ナナセ、そんなに会いたくなかった?」

隣で美味しそうにビールを飲む変わらないリュウ。

 その顔も、声も、何一つ変わっていない。

 ナナセはそれが辛かった。

 「会いたくなかった、もう顔も見たくなかった。そう言えば帰してくれるの?」

 なるべく冷静な顔で、何も写さない冷酷な瞳をして、リュウに言い放った。

「そっか…そんなに会いたくなかったんだ」

リュウは少し泣きそうな顔をしていた。

 長い間隣にいたのだから、ナナセにはそれが分かった。

そして、ナナセはリュウのその顔に弱かった。

「もう会いたくないの? それでいいの?」

別れ話を切り出したナナセに同じ顔をしてそう言った。

 頷く事も出来ずに、その場から逃げてもう一年経つ。

 少しも懐かしいと思えないのは自分が忘れられなかったからだとナナセには分かっていた。

 「あの時何も言わずに逃げたのも、そのまま携帯の番号変えて、アミにも口止めして、あたしはいなかった事にしようとした事は謝る。だけど、こんなやり方しなくても良くない?」

「じゃあ普通に俺が会いに行って、ナナセ会ってくれた?」

 答えはノー。二人とも分かっていたから押し黙った。

 ナナセはリュウが大好きで、大好きな気持ちを押し殺す事さえ出来なくなって、ある日自分がリュウがいないと何も出来ない自分に気付いた。それがイヤで、辛くて、何かを探していたら、地球に興味を持った。それで逃げるようにリュウと別れた。

 今だってリュウの事は忘れてなどいない。あの、別れの日を昨日のように覚えている。

 だけど、今からまたリュウと一緒にいたらまた同じ事になるのは分かっていた。

 「これで会えたら言おうと思ってた。もう一回付き合って欲しいって。ナナセに傍にいて欲しい。断られるの分かってるから、こんなに覚悟決めるまでに一年かかった。ナナセがもう俺の事思い出でも、俺は好きだから、自分の気持ち大切にしたいって思ったから、言おうと思ったんだ」

 ナナセが覚えているのはそこまで。

 聞こえたのは叫び声を上げるアミたちと、ナナセを抱きとめるリュウの温かい腕。

 ナナセは倒れ、そのまま意識を失った。

 

 

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