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其ノ弐拾六 ~鬼狩ノ夜 其ノ壱~


今回は、『金雀枝一月』の一人称視点で描いています。


 琴音が生前に暮らしていた廃屋。

 僕がここに足を運ぶのは、合計で三度目だった。

 時計などずっと見ていないから、今が何時なのかは分からない。

 けれど辺りは不気味なほどに暗くなっているから、もう夜なのだと思う。

 夜を迎えても、雨脚は収まる事を知らなかった。


「……」


 無言で眼前に佇む廃屋を見上げていた僕は、左手の古びた真剣を握る。

 黛先生が見つけた、鬼と相対することの出来る武器、天庭。

 この剣で、全部終わらせる……終わらせてみせる……!!


「行こう? いつき」


 白い和服を着た女の子に促され、僕は頷いた。

 天庭を片手に、僕は廃屋へと足を進めた。

 

 ここに来るのは恐らく、これが最後になるのだろう。



  ◎ ◎ ◎



「……!!」


 廃屋に足を踏み入れた時、頭痛が僕の頭を襲った。

 まるで重い岩を頭に乗せられているかのような、重くて鈍い頭痛。

 何だ、これ……!? 前二回来た時は、こんな風にはならなかったのに……!?


「鬼の力が、つよくなってる……!!」


 僕の後ろを歩いていた千芹が、呟いた。

 彼女も、この得体の知れない『何か』を感じ取っているのだろうか、片手を頭に当てて、表情をしかめていた。


「っ……どういうこと?」


 頭痛に耐えつつ、僕は訊いた。


「その場にいる人に『霊障』をもたらすほど……ことねの力がましているってこと……」


 霊障という言葉には聞き覚えがあった。

 確か、霊によって起こる心身への障害だとか……。


「ことねをはやく止めないと……ぎせいになる人がもっとふえてしまう……!!」


「!!」


 彼女の言葉に、僕は背中に冷や水を流し込まれるような感覚を覚えた。

 恐ろしい事だった。

 琴音や、あの二人の女子高生、行方不明になっている人達。

 千芹の言っている事が正しいのなら、琴音は自身の呪いをもっと沢山の人へと撒き散らすつもりだ。

 生きている人を襲って、殺して、その魂を取り込むつもりなのだ。


「……させない!!」


 廃屋に、僕の声が反響する。

 千芹が僕を見上げた。


「今ならまだ止められる……ううん、止めてみせる……!!」


 これ以上、鬼の犠牲になる人を増やしてはいけない。

 これ以上、悲しみを広げてはいけない。

 ここで、悲劇の連鎖を断ち切らなければならない。

 僕の気持ちが伝わったのだろうか、千芹は真剣な眼差しで僕を見つめ返した。


「そうだよね……!!」


 僕は頷き、言葉を返した。


「行こう……!!」


 

 ◎ ◎ ◎



 その後、僕達はキーホルダーライトで暗い廃屋内を照らし、進んだ。

 雨音が響き続ける廃屋は、前二回にもまして不気味で、おどろおどろしかった。

 けれど、立ち止っている時間なんて、残されていない。


 廊下を歩いた先にある居間、居間と襖で仕切られた場所。

 仏間の前に、僕と千芹は立っていた。

 もう、ためらう気持ちは無かった。

 今となっては、ためらっている時間すらも無いのだ。

 一刻も早く琴音を……鬼を止めなければ、本当に大変なことになる……!!


「っ……」


 左手には天庭、右手で僕は襖を掴む。

 この襖の向こうには恐らく、鬼と成った琴音が居る筈だった。

 彼女と会えば、彼女は僕を襲って……殺そうとするだろう。

 だけど僕には、このまま前に進むと言う選択肢以外は残されていなかった。

 

 琴音が鬼に成る原因を作ってしまったのは、僕なのだから。

 僕が琴音に酷い事を言った所為で、彼女は殺され――鬼に成ってしまった。


「いつき……」


 後ろからの千芹の声、僕は振り向かずに小さく頷く。

 次の瞬間――僕は意を決して、仏間に続く襖を開け放った。


「!!」


 僕は直ぐに身構えた。

 この仏間では、二度も殺されそうな目に遭っている。

 無意識下で、体が警戒する姿勢を取っていたのだ。


「……!?」


 けれど、仏間の中に琴音は居なかった。

 床には相変わらず、黒い染み。

 あの二人の女子高生が殺されていた光景を思い出しそうになるので、深く見ないことにした。


「居ない……!?」


 僕は呟いた。

 仏間の中は、二度目に来た時と変わっていない。

 壁に埋め込むように設置された仏壇、仄かな線香の匂い。

 消滅してしまった二人の女子高生の惨殺死体。


「もしかして、いつきのお母さんの時みたいに、もうそとに……!?」


「……!!」


 僕は千芹を振り返った。

 心臓が掴まれるような感覚を覚える。

 もしも彼女が言った事が正しいなら、もう手遅れだった。

 今こうしている間にも、琴音は母さんの時のように人を黒い霧で縛り、殺しているかも知れない。

 遅かったのか……!! 僕が歯を噛みしめた瞬間。


 突然、周囲の空気が重く、冷たくなった。


「!?」


 弾かれるように後ろを振り返る。

 そこには――居た。


《……殺してやる……!!》


 黒霧を瞬かせ、前髪の隙間から心臓も凍りつくような瞳を覗かせる女の子――。

 僕の所為で鬼と成ってしまった、僕の一番大切な友達で、初めて好きだという感情を抱いた琴音が。

 次の瞬間、黒い霧が僕に向かって飛んできた。


「!?」


 段違いの速さだった。

 瞬く間に僕の首は黒い霧に包みこまれ、生暖かくて不気味な感触に捕らわれる。

 気持ち悪い……!! 


「くっ!!」


 首にまとわりつく霧を振り払おうとした瞬間だった。

 黒霧によって、僕の首が絞めつけられた。

 初めての時よりも、これまでに締め付けられたどの時よりも、ずっと強く……!!


「がは……う……!!」


 無意識に、空気が漏れるような声が発せられていた。

 何度も同じ攻撃を受けているにも関わらず、成す術も無い。

 けれど次の瞬間、僕はあっさりと黒霧から解放された。

 まるで火花が飛ぶかのような音と、ほんの一瞬だけ仏間内に瞬いた、青い光と共に。


「ぐっ!!」


 黒霧から解放された瞬間、思わず膝を付きそうになったが、堪えた。

 目の前には千芹が居て、彼女は片手に小さな刀を握っている。

 刀に青い光が纏っている事から見て、あの意味の分からない言葉を唱え終えた後のようだった。

 

「いつき……準備はいい?」


 彼女は小刀を鞘に納め、袂に仕舞う。

 そして両手で印を結んだ。


「うん……!!」


 首を軽く押さえつつ、僕は頷く。

 そして僕は、左手に握っていた古びた刀を鞘から引き抜いた。

 銀色の輝きを持つ天庭の刃が、姿を見せる。


「いくよ……!!」


 その言葉の直後、千芹が青い大きな光の玉となり、僕が持っている刀に一体化した。

 刀身に淡い青色の光を帯びた天庭からは、彼女の力を感じ取る事が出来る……。


「……!!」


 青い光を纏った天庭を構えて、僕は琴音へ向き合った。

 もう迷わない、僕が撒いた種は、僕の手で片付ける……!!

 今日ここで、二年前からの因縁に決着を付ける、負の連鎖を断ち切ってみせる……!!


《……ならば、お前の望むようにしてやる……》


 僕の意思を感じ取ったのだろうか、琴音の声(彼女が発した意思かも知れない)が、僕の頭に響く。

 何をする気だ? そう思った瞬間、琴音が右手を広げた。

 すると彼女の手の中に突然、刀が現れた。

 僕が握っている天庭と似て、ボロボロに古びた真剣だ。


《お前の身を以て思い知らせて……殺してやる……!!》


 その瞬間だった。

 僕が持つ天庭と同じように、琴音が持つ刀にも光が纏ったのだ。

 けれど、天庭に纏っている光とは……色も雰囲気も違う。

 琴音が持つ刀に纏ったのは、まるで血のような赤色の光で……禍々しく瞬いていた。


《あれ……鬼の負念からつくりだされた怨念のひかりだよ》


 天庭に乗り移っている千芹の声が、僕の頭に浮かぶ。


《あんなことまでできるようになってたなんて……やっぱりことね、鬼としての力を増してるんだよ……!!》


 僕は、琴音へと向き直る。

 すると、赤い光を纏う真剣を持つ琴音は、その刀の切っ先を僕へと向けた。


《いつき、気をつけてね……!!》


「分かってる……!!」


 僕は息を吐き、天庭を構え直す。

 すると琴音もまた、血のような光を纏う刀を構えた。

 生前の、剣道と同じ構えだった。


 これまで僕は、琴音に剣道の試合で一度も勝てた事が無い。

 だけど、今回だけは……今回だけは、絶対に負けることは出来ない……!!


 淡い青色の光を纏う天庭を持つ僕と、禍々しい赤い光を纏う刀を持つ琴音。

 二色の光で照らされる仏間の中――僕達は、それぞれの刀を手に、互いに向かい合っていた。

 まるで昔の、僕達二人で剣道の試合をする時のように。






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