I am not a prince any more than you are a princess
捨て犬は、自分を拾ってくれた飼い主にとことん懐くでしょう?
例え、その人が、世話が苦手だからって他の人に捨て犬を譲っても、懐くのは世話をしてくれている人ではなく拾ってくれた人。
一度捨てられて人間嫌いになってたって、優しくしてくれる人っていうのには誰だって弱いんだ。だから、自分にどれほど優しくしてくれたかって言う優しさの量よりも、早さ。つまりは順番を重視するんだね。
何を言いたいかって、彼女が僕を好きでいてくれてるのは僕が彼女に優しくしてるとかの理由からじゃない。寧ろ、最近は結構投げやりな対応だし。単に、転校生で困ってた彼女を一番最初に気に掛けたのが僕ってだけなんだよってことだよ。
そう言えれば、なんて楽なことか。
「彼方、転校生と仲良いらしいね」
「えっ。そんなことはないと思うけど」
「転校生の子、名前なんだっけ?」
「花畑さん」
僕の声をまるで聞いてない彼女。それでも、僕が彼女の問いを無視しないのは、無視したら無視したで、彼女が「僕が彼女(自分)に飽きたんだ」と曲解することが目に見えてるから。
「花畑さんかぁ。そうそう、確か下は菫ちゃん。花畑菫ちゃん、ねぇ。可愛い名前だなぁ。灰田青なーんてこんな暗い名前の私とは大違いだわ。まあ本人にピッタリだけどね」
「暗くないでしょう。僕は青って名前、素敵だと思ってるよ。海に、空に、綺麗なものばっかり連想できるじゃん」
ようやく僕の言葉を聞いてくれる気になったのか、チラリとこちらに視線を向けた青。だが、それも一瞬のこと。すぐに逸らされた視線は今はどんよりとした模様の空へと注がれる。
「綺麗って、これが?」
「青……。そうじゃなくて、」
全然、僕の声なんて聞いてなかった。
違う。間違いだ。彼女は聞いている。僕の言葉を。
ただ、違うように受け取るだけ。必ず、良い方には受け取らない。受け取るのは必ずといってもいいくらいに悪い方に。
「あーあ。いいよいいよ、彼方。無理しないで」
「青」
「彼方は優しいからさー。だから、花畑さんも懐いてるんでしょう。彼方にさ」
「私と一緒だ」とニヒって歯を見せて笑った青に違うと首を振るも、青はやっぱり華麗にその言葉を流してくれる。
「花畑さん、理想の女の子だなぁー。クルックルに巻かれた長い髪の毛に、パッチリ二重。唇はちょっとポテっとしてて、真っ白できめ細やかな肌。頬はもとから綺麗な赤色だったね。細すぎないで、でも手足はスラってしてるの。そんでもって守ってあげたくなるような低身長。そうそう、誰かがお金持ちの令嬢様だって噂してたなぁ。――本当に、まるでお姫様。確かに、あんな女の子に好かれて悪い気持ちはしないよ。よっ!! 王子様!!」
ヒューヒューと両手を口の端に当てて囃したてる青は不気味なくらいに感情を読み取らせない。彼女のことをよく知らなかったら、まるでそれが本心なんじゃないかなって思うくらい、彼女はいつだって綺麗にペテン師の仮面を被って笑顔を浮かべる。
ねえ、青。分かってる?
花畑さんは理想のお姫様なんでしょう? それの王子様が僕ってことは、寒いけど、つまりは僕のお姫様になりたかったって言ってるんでしょう。
君は多分自分が言ってることに気付いてないけどさ、でも、君と話す僕は気付いてる。だから、君が僕を好きだっていうのもきっと自惚れじゃない。だって、僕が青を見るのとまるで同じ目で、青は僕を見るんだもの。
「青、知ってる? ほらっ、三年の若林先輩。あの、絵にかいたような人。容姿も育ちもまるで本物の王子様みたいな」
何も返事はしない青だけれど、きっと聞くことくらいはしてるはず。右から左へと簡単に流してることは容易に想像つくのだけれど。でも、聞いてくれてるならいいんだ。
「あの先輩ね、今花畑さんに猛アプローチかけてるんだよ」
「へぇ、そんなの知ってるなんて彼方、本当頼られてるんだね。お姫様に」
「……花畑さん、困った顔してたけど満更嫌そうでもなかった。きっと一週間もしないうちに二人は付き合うよ。花畑さんの王子様は――若林先輩だ」
「……ふーん、そう」
それだけ言うと、口を噤んで再度空に視線をやることを再会した青。
「ねぇ、青。I’m not a prince any more than you are a princess」
「は……? 何? 彼方。自分が発音良すぎるの分かったうえでやってくれる? 聞き取れないから」
「うぅん、ただの独り言だよ」
笑顔で答えれば、呆れたような顔をした青は柵に寄りかかって空を睨みつけるように見る。僕も青の横に並んで、帰りゆく生徒を見た。
あぁ、アレは例の二人だ。よく見えないけど、不自然に距離が近いところを見ると手を繋いでる? 王子さまとお姫様が結ばれるのは予想外に早かったわけだ。
「青は、青のままでいいからね」
「あのね……さっきから意味分かんないよ」
分かんなくてもいいよ。
ただ、青は青で居ればいい。それがお姫様っぽくないんだったら、僕も王子様じゃないってだけの話。
白雪姫には白雪姫の王子が。シンデレラにはシンデレラの王子が。花畑さんには先輩が。
例え、白雪姫の王子がシンデレラに出てたって、ガラスの靴を拾ったかは分からない。もしかしたら無視してたかも。そうしたら話は成り立たない。シンデレラでは、シンデレラの王子が靴を拾ったことからハッピーエンドへのスタートが切られたんだ。どんな話でも王子と姫はペアで決まってる。
そして、君の王子様は僕一人――。
※I’m not a prince any more than you are a princess
=君がお姫様でないように、僕も王子様じゃない。
図書委員の友人に無理やり2000字前後でなんか書いてと言われ、
急いでほぼ何にも考えずにがーっと書いた作品。
そのためレベルは、ね……(苦笑)
確かに恋だった 様のお題より。