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村に入った私たちは、村長と話をしたり、
人々がバジリスクを解体する様子を見物したりした。
その合間にも、私は村長にテレサの事情を話し、預かってくれる人がいないか尋ねてみた。
だが、返ってきた反応はそれほど芳しいものではなかった。
「そ、それは。調べてはみますが……何分、村の事情もありまして、少し難しいのではないかと思います」
親を亡くした子供を引き取ってくれる人を探すのが、簡単なことではないとは分かっていた。
それでも、最初は何もかも差し出すような勢いだったくせに、いざ厄介なことを頼もうとすると躊躇する姿に、少し気分を害した。
まあ……期待などしていなかった。
ここじゃなくても、他へ行けばいいのだ。ふん。
断ったのが内心申し訳なかったのか。
村長はもじもじしながら、バジリスクの脅威から村が解放されたことを祝して、私たちのための宴の席を設けたいと言い出した。
私も人の子なので、つい「そんなことくらい勝手にやればいいのに、わざわざ聞く必要があるの?」という思いがよぎり、不機嫌なまま答えた。
「好きにしてください」
夜が訪れた。
結局、昼間に言った通り、村長は村を挙げての祝いの場を設けた。
村の広場に出た私たち。
「人々の顔から笑みが絶えませんね」
その言葉に、私はゆっくりと周囲を見渡した。
母親のスカートの裾を掴んだまま、はにかみながらこちらを見つめる子供。
何人かで木の棒を剣のように振り回し、勇者ごっこをしている子供たち。
広場の一角では、大人が大きな肉を丁寧に切り分けて皿に盛り、酒樽を運んでいる人々の顔からは笑い声が絶えなかった。
祝いの場というには規模が大きかった。
これなら祭りと言っても差し支えないだろう。
その光景を静かに眺めていると、隣でクラドがそっと微笑んだ。
「リエンが守ったんですよ。彼らの日常を」
私は首を振った。
そもそも、それほど大層なことをしたわけでもないのだから。
それでも、ほんの少しだけなら誇らしく思ってもいいのかもしれない。
広場に着くと、積み上げられた薪から大きな炎が立ち上っていた。
まるでキャンプファイヤーの会場に来たような気分だった。
私たちが姿を現すと、ざわついていた人々の視線が一斉に集まった。
「勇者様方がお見えになったぞ!」
誰かが私たちを見て叫ぶ声に、拍手と歓声が沸き起こった。
気まずそうに立っていた私は、クラドに背中を押されるようにして前へ出た。
「主役が欠けては、パーティーは成り立ちませんからね」
人から注目を浴びるのは苦手なんだけどな。
私は照れくさそうに手を挙げながら言った。
「楽しむ準備はできてますか!」
「はい!」
「うおおおぉ!」
本来は村長がすべきことではないのか。
ひょんなことから、祭りの開幕宣言のようなことをしてしまった。
そして私たちは、適当な席を見つけて座った。
「すごく美味しい。これ、何の肉でしょう? 鶏肉に似ているけど、また違う味がする気がします」
私は人の頭ほどの大きさがある肉を両手で掴んで食べた。
味は鶏肉のようだったが、より脂が乗っていて口の中でとろける感覚は、まるで牛肉が混ざっているかのような高級感のある味わいだった。
「バジリスクの肉ですよ」
その言葉に、食べていた手を止めて一瞬硬直した。
これがバジリスクだって?
バジリスクを解体しているのは見たけれど、てっきり皮を剥いでいるだけだと思っていたのに、あれって食べられたの?
まあ、大勢の人が手にしている肉が空から降ってきたわけでもあるまいし。
もしかしたら、蛇そのものは相変わらず気味が悪いけれど、蛇肉の方は好きになれるかもしれないと思った。
美味しい肉と酒、そして良い人々に囲まれ、宴は盛り上がっていった。
これまでアトラス山脈であったことを話している最中、アデルが話があると言って、私たちの注意を引いた。
「僕、どうやら戻らずに、しばらくここで暮らすことになりそうです」
「おめでとうございます」
「驚かないんですか?」
いいえ、今だって十分に驚いていますよ。
アデルからは今まで、故郷に帰るという言葉しか聞いていませんでしたから。
ですが、アデルがここで暮らすという言葉を軽く口にしたはずがありません。
それなりの理由があるのでしょうし、彼の選択を尊重してあげる必要があると思っただけです。
「私も十分に驚きました。でも、理由があるんでしょうね」
アデルが隣にいたテレサの肩に手を置いて言いました。
「村長に、この村に定住する気はないかって聞かれたんです」
その言葉を聞いた私は、心底驚きました。
一時的に留まるのではなく、ここに定住するですって?
「僕が弓を持っているのを見て提案したようですが、後で答えると伝えておきました」
弓は扱うのが難しい武器です。
専門的な訓練を受けなければ、使いこなすことのできない武器ですから。
弓は遠距離武器として敵を攻撃するのに大きな利点があり。
狩人が村にいれば、動物の肉や皮を定期的に供給してもらえるようになるため、村にとっては助けになる存在でした。
「望むならテレサも一緒に住んでいいと言われました。ちょうど空き家が一軒あるそうで、その気があるならそこに住んでもいいと言われたので、この村に定住してみようと思っています」
その言葉に、私は眉をひそめました。
私が話した時はダメだと言ったくせに、アデルにはそんなことを言ったの?
まったくもう。
とはいえ、テレサもアデルをよく慕っていますし。
現状では、信じて任せられる唯一の人間でもありました。
「故郷で待っているご家族がいるのではないですか?」
「僕も独立する時期なので大丈夫です。両親も、僕が戻らなければどこかで元気にやっているだろうと思うはずですから」
確かに、彼のご両親は普通の人には見えませんでしたね。
それはアデルを一人で危険な場所に送り出したことからも分かります。
ですが、アデルが心配しているのは、私が考えていたこととは全く別の方でした。
「ただ、リエン様がバジリスクを仕留めたのを見て、人々が僕の能力を過大評価しているのではないかと、それが心配です。僕は、お二人のように強くはありませんから」
自嘲気味に言うアデル。
アデルだって十分に能力のある人なのに……。
「そうだな。お前は俺たちにはなれない。だが、俺たちほどではなくとも、お前は十分に強く、多才な人間だ。魔獣の目に矢を突き立てていた強靭な姿はどこへやら、弱音を吐く奴が目の前にいるとはな。自尊心を持て」
「……はは、そうですかね」
私も胸を叩いて言いました。
「アデルの実力は私が保証しますから、変なことを言う人がいたら私を呼んできてください!」
たとえ偽物でも、一応は勇者の称号を持っていますから。
私が保証するとなれば、下級貴族の保証よりも価値があるのではないでしょうか。
「ありがとうございます。お二人にそう言っていただけると、元気が出てくる気がしますね。おそらく、こうして集まれるのも今日が最後になるでしょうから、僕から乾杯の音頭を取ってもいいですか?」
「もちろんです!」
「つまらないものなら覚悟しておけ」
私たちはアデルの提案に、杯を掲げました。
「短い間でしたが、共に過ごした時間は一生忘れません。そして、親の懐にいた少年が大人の階段を上った時間でもありました。僕とテレサはここに残りますが、旅立つお二人は望むことを成し遂げられるよう願っています。乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯」
当然のことですが、テレサの杯には牛乳が入っていました。
楽しかった時間が過ぎ、村を離れる時。私はアデルにまとまったお金を渡してはどうかと言いました。
「それがリエンの考えなら、そうすればいい」
領主から受け取った報酬と、クラドの私財を少し上乗せして、アデルに渡しました。
「テレサ、次に会うまで元気でね。アデルの言うことをよく聞くのよ!」




