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魔獣を処理してから、かなりの時間が経過した。
もう少し行けばアトラス山脈の中枢を抜けられるのだという。
私は空を見上げて言った。
「何か見えますか? 気をつけてくださいね!」
アデルは今、のけぞっても視界に収まりきらないほど高い木の上に登っている。
最後まで私たちの快適な道案内を責任を持って務めると言って、あの高い木に登ったのだが。
足を踏み外して下に落ちやしないかと、見ているこちらが不安になるほどだった。
木のてっぺんで周囲を見渡していたアデル。
ほどなくして探索を終えたのか、降りるために動き出す。
だが、私の心配は杞憂だったと言わんばかりに、彼の動きは平地を歩くかのように淀みなかった。
チャッ。
軽く地面を蹴って立ったアデルが言った。
「上で見てきましたが、ここから半日も行けば着く村があります。元々通っていた道ではないので大丈夫か心配でしたが、見たところ遠回りせずにそのまま行けそうです」
「お疲れ様でした」
「いえ、すべきことをしたまでですよ」
その後、私たちはアデルの言葉通り、大きな困難もなく村があるという場所に向かって移動することができた。
ふと、別れの時が近づいてくると、彼のこれからの行く末が気になった。
「アデルは村に着いたらどうするんですか?」
私たちをここまで連れてくるために遠い道のりを歩いてきたのだから、戻るにはかなりの時間がかかるはずだ。
「久しぶりに下りてきたので、少し見て回ってから行こうと思っています。どうしてですか?」
時間はあるという。
「すぐに戻るのかどうかが気になったんです。その間に情も湧きましたし、お別れの場を設けられたらいいなと思って」
「そういうことなら、もちろん参加しなきゃですね」
良かった。
アデルがアトラス山脈の案内人を自称して一行に加わったのは。
昔、彼の父親がクラドから受けた恩を代わりに返すという名目からだった。
無報酬で道案内を申し出てくれたが、それでも長い時間を共にした人間を、手ぶらで帰すわけにはいかない。
労いの言葉と共にお金だけ握らせて送り出すには、心が落ち着かなかった。
だから最後に、共に過ごす場を設けるのが良いと思ったのだ。
そしてテレサについては、今回立ち寄る村で良い人がいないか探してみようと思う。
まさかとは思うが、テレサを預ける人を見つけられなかったら……
「着きました。私が見た村があそこに見えます」
色々なことを考えながら歩いていると。
小さな丘を越えたところで、村が私たちの前に姿を現した。
「えっ? あれは何?」
「アデル、木に登った時もあんな感じだった?」
呆然とするアデル。
「……まさか。初めて見ます」
そうよね?
20メートルをゆうに超える蛇を飼っている村なんて、世界のどこにあるっていうの。
「バジリスクだ」
バジリスク?
見た目と同じくらい恐ろしい名前だった。
バジリスクが鎌首をもたげ、人々に対峙している状況。
人々の手には、それぞれ農具や斧などが握られていた。
「先に行く」
パッ。
村人たちを助けるために、剣を抜き走り出すクラド。
だがバジリスクは大きな口を開け、今にも人々を襲わんとする勢いだった。
私たちとは物理的な距離があり、クラドが間に合うには少々遅すぎるように見えた。
私は剣を取り出した。
そして隣にある岩を指差した。
すると、直径1メートルはあろうかという岩が虚空へと浮かび上がった。
ゴゴゴ……
この程度の大きさなら十分だろうと思った時。
バジリスクが体をバネのように縮める姿が見えた。
不吉な予感に、私は魔法で持ち上げた岩を矢のように素早く放った。
剣の先を追って凄まじい速さで飛んでいく岩が、走っていたクラドを追い越し、人間を一口で飲み込みかねないバジリスクの頭を強打した。
ドォォン!
すると巨大な蛇が土煙を上げながら地面に転がった。
突然のことに走るのを止め、後ろを振り返るクラド。
私は軽く指でピースサインを作って見せ、隣にいた二人に言った。
「私たちも行きましょうか?」
「はい!」
アデルの力強い返事と共にクラドと合流した私たちは、人々が集まっている場所へと向かった。
村人たちは、私たちを相当警戒している様子だった。
彼らにしてみれば当然の反応だろう。
バジリスクを仕留めてくれたことはありがたいだろうが。
私たちがどんな選択をするかによっては、モンスターよりも危険な存在になり得たのだから。
その時、彼らの一人が前に出た。
「私はこの村の村長です。先ほどのは、あなた方がなさったことですか?」
「そうだ」
クラドの言葉が終わると、静寂が流れた。
雰囲気がただならぬものだったので、私が急いでバジリスクを仕留めた理由を説明しようとした瞬間、村長が後ろを向いて手を高く掲げ、叫んだ。
「我が村に勇者様方がお越しくださったぞ!」
「うぉぉぉぉおおお!!」
え?
耳が痛くなるほど叫ぶ人々。
「失礼でなければ、我が村に立ち寄っていかれませんか?」
こちらから村に滞在させてもらえるよう頼むつもりだったのに、むしろ招待されてしまった。
「モンスターの死骸はどうなさいますか?」
あんなに大きな蛇は気味が悪い。
おまけに、アトラス山脈の中枢を抜けたとはいえ。
あんなに巨大なモンスターの死骸を売却できる場所がこの近くにあるとも思えないし、バジリスクを都市まで運ぶのも不可能な話だ。
そのまま腐らせるよりは、必要としている人たちに譲るのがいいだろう。
「そちらで自由に処理してください」
その言葉に、パッと表情を明るくする村長と村人たち。
「勇者様方をご案内しろー!」
「我が村へようこそお越しくださいました」
「勇者様! 歓迎します!」
これほど熱烈な歓迎は初めてで、私が戸惑っていると。
クラドが当然のことのように私の横を通り過ぎながら一言言った。
「バジリスクは上級モンスターで、一般人にとっては極めて危険な奴だ。そんなモンスターを仕留めて報酬も受け取らず、死骸まで譲るというのだから、喜ぶのも無理はない。皮を剥いで近くの都市に売るだけでも、村の一年分の予算は十分に賄えるだろう」
「あー!」
それを聞いて。
私の口からは納得の感嘆が漏れた。
簡単に倒してしまったので大したことはないと思っていたが、そんなに高値で売れるとは。
不安げにしながらも親しげに近づいてきたが。
それほどの価値があるのなら、あのような反応になるのも無理はない。
いくらになるかを聞いてしまうと少し惜しい気もするが。
だからといって、喜ぶ顔に水を差すほど金に目がくらんでいるわけではない。
損をする時もあれば、得をする時もあるものだ。
誰も怪我をせず、人々の歓迎を受けられるだけで十分だった。
もしかしたら。
今回の件でテレサを預かってくれる人が見つかるかもしれない。
そうして私たちは人々の歓迎を受けながら、村へと入っていった。




