26
「うーん」
一眠りして起きると、いつの間にか空が暗くなっていた。
少し寝るつもりが、そのままずいぶん何時間も寝てしまったみたい。
これじゃあ夜に目が冴えて眠れなくなるんじゃないかしら。
えい、ままよ。
それはその時の私が何とかするでしょう。
起きたことだし、体を洗いに行かなくちゃ。
私は席から立ち上がり、周辺を適当に片付けた。
そして昼間に目星をつけておいた場所へ向かうために動き出した。
「おー」
そうして到着した目的地には、日が暮れる前とはまた違う姿が目の前に広がっていた。
波一つない水面には空に浮かぶ丸い月が映り込み、草葉の間からは色とりどりのホタルが遊泳するように漂っていた。
私はその風景の中に、おそるおそる足を踏み入れた。
指を前に差し出すと、その上へと近づいて羽を休めるホタル。
心が落ち着く風景に、しばらくその場にじっと立っていた。
指にいたホタルが飛び去るのを合図に、着ていた服を脱いで一箇所に置いた。
そして湖に近づき、つま先を少し浸してみたのだが。
日が昇っている時ほど温かくはなかったが、入れないほどではなかった。
足先から始めて、ゆっくりと水の中へ体を沈めていった。
思ったほど水は冷たくなく、頭を冴えさせるような涼やかな感覚が体を包み込んだ。
「スーッ……」
私は深く息を吸い込み、頭までどっぷりと湖に浸かった。
水中だからか、鈍く響く心臓の音がはっきりと感じられる。
プクプク。
体の中にあった空気が外へと抜け出し、水中で気泡を作る。
しばらく息を止めていたが、これ以上耐えられないというところまで来て、ようやく水面に顔を出した。
「はあーっ」
水滴が顔を伝って流れ落ちる。
濡れた髪が顔に張り付いて、目を開けることができない。
私は顔に張り付いた髪を手で払って、後ろへとかき上げた。
その瞬間。
すぐ隣で、水面が低く割れる音が聞こえてくるではないか。
「!!」
素早く音がした方へ「パッ」と顔を向けた。
すると、私の後ろから現れた人物と目が合った。
月光を背に受けて立っていたのは、クラドだった。
予想外の鉢合わせと気まずい沈黙。
まるで時間が凍りついたかのように止まった気がした。
私は大慌てで体を水の中に沈め、頭だけを水の上に出した。
クラドの顔に驚きがよぎったが、彼は何も言わなかった。
軽く頷いて水辺へと上がっていくクラド。
上半身には何も身にまとっておらず、逞しい背中が露わになっていた。
「……」
クラドが去った跡。
何事もなかったかのように。
水面には相変わらず月明かりが揺らめいていた。
私はしばらく水の中に留まりながら、明日クラドに会ったらどうすればいいか、会ったら何と言えばいいかをずっと考えていた。
朝になった。
昨夜の出来事の後、クラドと顔を合わせたが。
私たちは以前と変わらないように、何事もなかったかのように振る舞った。
一晩中、何と言えばいいか考えておいたのに。
いざ顔を見てみると、何の言葉も出てこなかったのだ。
「お二人さん、何かありました? なんだか雰囲気がおかしいですけど」
「あったって何が。何もありませんでしたよ」
首を傾げるアデル。
アデルが私たちの雰囲気を感じ取り、私がどうしていいか分からずにいる間。
クラドも私も、昨日のことを誰が先に口に出すわけでもなかったので、何事もなかったかのように流れることになった。
考えてみれば、湖に先に入っていたのはクラドだったし。
彼が泳いでいる間に私が後から入った格好なのに。
驚くならクラドの方であって、私が動揺するのは少し違うのではないかという気もする。
そしてこの辺りまで来ると、もしかしたら昨日の出来事は実は夢か幻のようなものだったのではないか、という気さえしてきた。




