25
翌日。
荷物をまとめて出発しようとしたが、クラドが動くたびに辛そうな様子を見せていた。
「ちょっと待って!ストップ!」
突然の叫びに、私を振り返る一行。
「ここで数日、休んでいきましょう」
「なぜですか?」
「昨日、魔獣と戦った時にクラドが足を怪我したんです」
私の言葉に、クラドの足を見るアデル。
「クラド様、本当に足を怪我されたのですか?」
そんなことがあったのかと、全く知らなかったという顔で尋ねる。
「大したことはない。あのような戦いをして、この程度の負傷なら何でもないさ」
「何でもなくなんてないですよ! 少し休めばすぐに治るかもしれないのに、下手をすれば悪化するかもしれないんですよ!」
「私は普段どちらかの肩を持つことはしませんが、今回はリエン様の仰る通りだと思います。ここを馬車が通るならともかく、今回はリエン様の言葉に従って、数日休まれてはいかがですか」
「……仕方ないな」
私たちが強く押し切ると、渋々ながらも数日休むことに同意したクラド。
騎士だから軽い打撲程度は日常茶飯事なのだろうが、昨日の今日で、あんな戦闘があった後なのに休まずに動こうとするのは、少し無茶ではないかと思った。
結局、私の意見が受け入れられ、私たちは数歩も動かないうちに、その場に再び荷を解いた。
「リエン様、昨日テレサとあっちの方へ行ってみたら、小さな湖があったのですが、行ってみませんか?」
「湖?」
アデルの湖へ行こうという提案。
思わず耳がピクリと動くほど、心惹かれた。
湖に行けば水もあるし、魚もいるだろう。
久しぶりに体を綺麗に洗うこともできるはずだ。
「魚、食べに行きましょう」
「えっ?」
「湖に行こうって言ってるんです。案内してください」
私は口元から垂れそうになる涎を拭い、アデルを先頭に湖へと移動した。
湖に到着した私たち。
その湖は、人の手が加わった形跡が全く見当たらない場所だった。
「わぁ、本当だ……」
「えっへん。どうですか? 私の実力は」
湖を見つけたのは運だろうが、そんなことはどうでもいい。
私はアデルに向かって親指を立てた。
「最高です」
テレサも褒めてほしいのか、私を見上げてきた。
ちょうど気分も良く、思いきり褒めてあげたい気分だった。
「うちのテレサも最高だよ!」
なのでテレサの顔を包み込み、頬にキスをした。
テレサの片方の頬を私の涎でびしょ濡れにした後、私たちは湖畔へと近づいた。
ちょうど湖畔に木も一本生えていて、休むのにもってこいの場所まで用意されていた。
水を飲もうと思い、湖畔へ行って両手を合わせて水に浸すと、水中で泳ぐ魚が見えるではないか!
私は両目を輝かせた。
そう、これだ、これだよ!
魚を捕まえることを考えて、ワクワクしてきた。
新鮮な魚は豚や牛よりも貴重な食べ物だ。
自分の住んでいる近くに大きな湖がなければ、貴族でさえお目にかかるのが難しいほどだったから。
以前、塩漬けにされた魚を買って食べたことがあったが、塩を一袋ぶちまけたのかと思うほどしょっぱくて、泣きながら食べたことがあった。
なのに、目の前で魚が泳ぎ回っているだって?
これは我慢できない。
どうやって捕まえようか?
魚をどう捕まえるか悩んでいる私の隣に、他の面々が近づいてきた。
「飲み水がここにあるから、魔獣はここに陣取っていたようですね」
「はい」
クラドが何か言っていたが、聞き流した。
すでに死んだ魔獣よりも、目の前の魚の方が重要だからだ。
そんな私の心を察したのか、アデルが目を輝かせるようなことを言った。
「リエン様、今日の夕食に焼き魚はいかがですか?」
「焼き魚?」
魅力的な言葉に、耳がピクピクと動いた。
「はい。よく見ると、ここには美味しそうな魚がたくさんいますね」
「魚について詳しいんですか?」
「あちこち旅をしていたので、こういう場所がある時は動物を狩るより魚を捕る方が簡単で、よく作って食べていました」
ということか。
専門家が任せてくれと言うのなら、お願いするほかない。
「では、夕食はアデルの言う通り焼き魚にしましょう。クラドはどうですか?」
「いいですよ」
「テレサは?」
コクンと頷くテレサ。
これで今日の夕食は焼き魚に満場一致で決まった。
「よろしくお願いしますね」
「任せてください」
夕食の献立が決まるやいなや、動き出すアデル。
周囲を一度見渡すと、葉の幅が広く丈夫そうな草の茎を切り、それらを編み上げた。
あっという間に作り上げられた円形の仕掛け(モンドリ)。
テレサと私はアデルの横で彼が働く姿を見守っていたが、専門家だからか、その手際に迷いはなかった。
そして仕掛けの中に魚を誘い出すための食べ物を少し入れ、水の中に沈めて準備は完了した。
「あとは待つだけです」
「すごいです!拍手!」
テレサと私はアデルの熟練ぶりに感心し、「パチパチ」と手を叩いた。
「仕掛けで魚を捕るのには少し時間がかかります。待つだけですから、その間私は少し目を閉じますね。お二人も別のことをしてきていいですよ」
アデルは日陰のある木の下へと向かった。
一瞬でやることがなくなった私は、テレサを洗ってあげることにした。
テレサには申し訳ないが、これまで洗う機会がなかったせいか、少し汚れていたからだ。
「テレサ、お姉ちゃんと一緒に洗おうか?」
私はテレサの手を握り、水が浅い場所を探して移動した。
「さあ、手を高く挙げてみて」
私はテレサの服を脱がせ、きれいに体を洗ってあげた。
水の温度もそれほど低くなく、洗うのにちょうどいい加減だった。
テレサが一緒に洗おうと言ってくれたが、私は後でゆっくり洗うと言った。
最近あまりに時間に追われるように生きてきた気がして、一人だけの余裕を持ちたかったからだ。
「こうして洗うと、お姫様みたいだね。可愛いわ」
テレサをきれいに洗ってあげると、その姿が一層明るく見えた。
気分的な問題ではなく、実際に髪の毛も少し明るくなり、肌からも子供特有の輝きが放たれていた。
「おや?これは誰だ。私の知っているテレサかな?見違えたよ。すごく綺麗になったね。私が知っていたおチビちゃんはどこへ行ったのかな?」
洗っただけで見違えたテレサの姿を見て、からかうアデル。
「そろそろ仕掛けに魚がいっぱいになっている頃でしょう、行ってみましょうか」
私たちは湖に沈めておいた仕掛けを確認することにした。
アデルが水の中に沈めていた仕掛けを持ち上げると、体がふらついた。
「すごく重いな」
そして仕掛けをひっくり返すと。
中に入っていた魚が地面に溢れ出し始めた。
+1 魚。
+1 魚。
+1 魚。
+1 魚。
積み重なっていく魚。
「すごい!」
地面に積まれる魚を見て。
美味しく食べる想像に、自然と満足げな笑みがこぼれた。
急いで薪を積み、火を起こした。
そして木の串に刺した魚を火のそばに立てておいた。
ジワジワと焼けていく様子をしゃがんで見守っていると、香ばしい匂いが鼻腔を刺激した。
その匂いに思わず唾液が溜まる。
「もう焼けたかな?」
こんがり焼けた表面。
これくらいなら火が通っているだろうと思った私は。
串を一本手に取り、大きくかじりついた。
「もぐ、もぐ」
香ばしく脂ののった味が、口の中でファンファーレを鳴らす。
「美味しい!みんなも来て食べてみて」
「もう焼けましたか?」
私は手で地面を叩きながら言った。
「ええ、ここに来て座ってください」
今までどこにいたのか分からないが、「スッ」と近づいて座るクラド。
私たちは焚き火の周りに座り、それぞれ串を一本ずつ手に持って焼き魚を食べた。
あっという間に一匹を平らげた私は、骨を「ポイッ」と投げ捨て、すぐに次の串を手に取った。
魚がたくさん捕れたので、たくさん食べてもまだ残っていた。
お腹がいっぱいになって、ぽっこりと出た気がする。
食べ終わると眠気が襲ってきた。
少し、目を閉じてみようか。




