23
クラドが空から墜落した地点に到着した時。
そこには巨大な魔獣の巨体が地面に横たわっていた。
「クラドさんはどこにいるんでしょうか?」
「……さあ?」
墜落した拍子に別の場所に落ちたのだろうか。
「クラド!」
「クラドさん、どこにいるんですか!」
呼んでも返事のないクラド。
彼を探す時間が長引くほど、私の心は焦燥感に駆られた。
無事であれば、今頃私たちの前に姿を現していてもおかしくない時間なのに……。
下手にクラドに魔法を使う姿を見せたくないという私のエゴが、このような事態を招いてしまったのではないかと罪悪感が募った。
「私がもっと早く動いていれば……」
その時だった。
テレサが私の服の裾を引っ張ったのは。
「……?」
テレサが指で魔獣の死骸を指し示している。
死骸の下から、人の足がひょいと突き出しているではないか。
「!!」
私は素早く魔法を使い、魔獣の死骸を横へとどかした。
すると死骸の下から、大の字になって倒れているクラドが姿を現した。
「ゴホッ、ゴホッ」
咳き込みながら口の中に含んでいた土を吐き出す彼。
その様子を見て、クラドが死なずに生きていることを確認できたようで、安堵が込み上げた。
「大丈夫ですか?」
「クラドさん、ご無事でよかったです」
「み、水を……」
アデルが持っていた水袋をクラドに手渡すと、
中に入っている水をすべて飲み干さんばかりの勢いで飲み干すクラド。
「ゴクゴク……ふぅ、生き返った。戦って死ぬんじゃなく、危うく下敷きになって死ぬところでしたよ」
「心配したんですよ」
よかった。
冗談を言う余裕があるのを見ると、大きな怪我はないようだ。
水袋を空にしたクラドが立ち上がり、服についた埃を払った。
「まだリエンを首都まで送り届けてもいないのに、ここで死ぬわけにはいきませんからね」
そう言って自分の剣を拾い上げ、魔獣の死骸の前に立った。
構えを正した瞬間、刃が閃き、魔獣の小さな方の頭を瞬時に切り落とした。
ズバッ。
トサッ。
地面に転がり落ちる魔獣の首。
「見かけによらず悪賢い奴です。本体は機能を停止しましたが、もう一つの頭は生きていた。そのまま放っておけば、またアトラス山脈に住む人々を襲ったことでしょう」
死んでいたわけではなかったのか?
クラドの言葉通りなら、つい先ほどまで生きていたということだ。
比較的賢そうに見えた方の頭よりも、足りないように見え、狂気に満ちているように見えた方の頭だったが……。
虚空に剣を一振りして血を払い、何事もなかったかのように剣を収めるクラド。
「奴の根城へ行ってみましょう」
彼の言葉に従い、魔獣の巣へと戻るために移動を開始した。
ところが、クラドの歩き方がどこか不自然なことに気づいた。
「足を怪我したんですか?」
右足を少し引きずっているようだった。
「大丈夫です。地面に着地する際、魔獣を緩衝材にしましたが、体がひっくり返った時に足首を捻ったようです。時間が経てば治るでしょう」
重傷ではないにせよ、結局は怪我をしたということだ。
アデルが肩を貸そうとしても、クラドは固辞して一人で歩き続けた。
魔獣の巣に到着した私たち。
先ほどはゆっくり観察する余裕がなくて気づかなかったが、
この周囲には人間の骨よりも獣の骨の方が多く散らばっていた。
だが、育ち盛りのテレサの情操教育には、あまり良い光景とは言えない。
「アデル、テレサを連れて少しの間、別の場所へ行っていてくれますか? 魔獣は死んだので、当分この周囲は安全でしょうから」
私たちと戦ったあの魔獣は、アトラス山脈の覇者として君臨していたのではないかと思えるほど強大だった。
そんな魔獣の縄張りに無闇に踏み込む者はいないはずだ。魔獣が死んだ今、このアトラス山脈で最も安全な場所はこの近辺だろう。
「そうします。テレサ、お兄さんとあっちで遊ぼうか?」
「でも、あまり遠くへは行かないでくださいね」
「はい」
アデルがテレサをひょいと背負って行く姿を見送った私は、
二人が完全に視界から消えるまで見届けてから、クラドがいる方へ視線を戻した。
その間にクラドは何かを見つけたのか、一箇所に集まった骨を慎重に調べていた。
私は邪魔にならないよう静かに近づき、クラドの行動を黙って見守った。
「魔獣は多くの人を食らったようです。ここだけでなく、他の場所から来た人々までも」
骨の山の間にあった剣や服を整理するクラド。
その中には、クラドが所持しているエンブレムと似た紋様のものもあった。
「派遣された騎士もやられたのを見ると、昔の記憶を思い出しますね」
クラドがアトラス山脈に派遣された当時、
今日遭遇した魔獣と似たモンスターがいたのだという。
ただ、人の言葉を話せず、翼もなく、頭が一つという大きな違いがあったため、すぐには結びつかなかったそうだ。
「おそらく、生き残ったモンスターの子供が、何らかの理由で魔獣に進化したのではないかと思います。……あの時、もっと徹底的にやっていれば、今日のようなことは起きなかったでしょうに」
「以前に来た時は、最善を尽くさなかったんですか?」
「今ならもっとうまくやれるでしょうが、当時は当時なりに一生懸命だったとは言えますね」
「なら、それでいいんです」
「……そうですか。まあ、そうですね。リエンのおかげで、仲間の仇を討つことができました」
そう言いながら、彼は墓を作ってやると言う。
怪我をした足で地面を掘って、痛みがひどくなったらどうするつもりだろうか。
どうせ私が魔法使いだということがバレた以上、ここで魔法を何度か使ったところで変わりはないのだから。
「少し下がってもらえますか?」
私の言葉に、一歩後ろへ下がるクラド。
クラドが離れたのを確認した私は、魔法を使った。
すると、低く響く振動と共に、裂けるように開く地面。
同時にいくつもの穴が次々と姿を現し、瞬く間に墓地の形を整えた。
「いくつか墓を作りましたから、それぞれ安置すればいいはずです」
ドキドキ、ドキドキ。
ありえないことだが、自分の心臓の音が耳元で鳴り響いているかのようだった。
墓を作るのを手伝いたいという思いもあったが、実は今まで私の魔法を見ても何も言わなかった彼だったので、いっそこうして堂々と見せることで、クラドがどう思っているのかを知りたいという気持ちもあった。
私が魔法を使う姿を見ていたクラドが、ついに口を開いた。




