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「ふむ……」


いくらワインを根こそぎ持っていったとしても。

通常の方法では、樽の内側に湿り気がないなど不可能なことだ。

誰が村の祭りに使うワインを盗んでいったのか、輪郭が見えてきた。

しかし私の頭の中では、一体「なぜ?」という疑問が消えなかった。

最高級のワインで値打ちのある酒ではあるが、コソ泥がやるようなことを……?


「何か分かったのですか?」


私が口を開くのを待っている二人。


「さあ。よく分かりませんね。」

「ええい、もったいない。樽を壊しただけじゃないか。」


落胆した様子でその場を去る倉庫番。

私とクラドも静かにワイン倉庫を抜け出した。

倉庫を離れて道を歩いていると、クラドが控えめに尋ねてくる。


「何か、犯人を見つける手がかりを見つけたのですか?」

「どうしてそう思うんですか?」

「質問に質問で返すのは好きではありませんが……私が思うに、勇者様は理由もなく物を壊せと言うような方ではない気がしまして。それに単純な推測ですが、手がかりを見つけていなければ、なぜそう思うのかと聞き返さずに、見つけられなかったと言うのではありませんか?」


騎士は体を使う人ではないのか?

思った以上に鋭い質問だった。

確かに……クラドの言う通り、犯人を見つける手がかりは見つけた。

先ほどは倉庫番が見ていたので言わなかったが、今は二人きりになったのだから教えてもいいだろう。


「クラド騎士様の言う通り、形跡は見つけました。でも、一つお願いがあるんですけど……教える前に、私のことを『勇者様』ではなく名前で呼んでくれませんか? 勇者様という呼び方は、まだ負担なんです。」


本物の勇者でもないのに、あの呼称で呼ばれるのはあまり気分のいいものではなかった。

王都へ行って事情を説明すれば明らかになることなのに、あえて名前の代わりに勇者という称号で呼ばれる必要はないのだから。


「勇者様を名前で気安く呼ぶのは、ちょっと……」

「じゃあ、教えません。」

「分かりました、リエンさん。」


態度の切り替えが早かった。


「ただのリエンでいいですよ。」

「はい、リエン。それなら、私も気楽に名前で呼んでいただければと思います。」

「クラド。」


最初からこうすればよかった。

心がぐっと楽になった。


私は先ほどあったことを思い出しながら、クラドに私が突き止めた事実を話して聞かせた。


「器に水を入れておいて、誰かがその水を全部使い切ったらどうなりますか?」

「空の器になりますよね?」

「そうです。水のない空の器になります。でも、水を全部空けたからといって、一晩で湿り気が完全に乾くでしょうか? それも日光も当たらない樽の中に溜まっていたのに?」

「……少しは残るでしょうね。では、さっき私に樽を壊せと言ったのは、それを確認するためだったのですね。」

「ええ。触ってみましたが、湿り気が一つもなかったんです。」


そこまで話すと、一瞬クラドの目が大きく見開かれ、そして細められた。


「誰の仕業か分かりました。犯人は……水属性の魔法使いでしょう。間違いありません。」


え? 急に?

でも驚いたな。

私の考えと正確に一致している。

クラドは騎士だから、魔法使いに多く会ってきたのだろうか。


それはそれで凄いが。

師匠のもとを離れて旅をしている私も。

自分以外の魔法使いを見る機会がないほど、魔法使いには滅多に出会えなかったから。

そう考えると、魔法使いは会いたいからといって会える存在ではなかった。


「どうしてそんなに確信しているんですか?」

「ろくでもない異常なことが起きた時、犯人が分からないのであれば、それは魔法使いの仕業ですから。」


そう断言するクラドの言葉には確信がこもっていた。


「魔法を学ぶために狂った真似をする人間たちを、正常な人間の視点で考えてはいけません。以前あったことですが……」


任務を遂行する中で出会った魔法使いがいかに利己的で風変わりかを熱弁するクラド。彼の話を聞いていると、魔法使いは関わってはいけない人類の敵のようだった。


クラドがなぜそんなことを言うのか、理解はできる。

人間が使う魔法の系統には、大きく分けて二つの道がある。

無属性と属性魔法使いだ。


属性魔法使いとは、クラドが言っていた水属性魔法のように、元素に関わる魔法を扱う魔法使いのことだ。

一般的に知られている水属性魔法使いになる方法は、魔法の才能がある人間が水の中で24時間生活することだ。

その期間は水属性魔法を会得するまでであり、食べたり寝たりする全ての生活を水の中で行えば、より効果的だとも言われている。


こうして才能があっても、魔法を学ぶ道は平坦ではなかった。

魔法使いの中に性格の悪い者が多いのも、もしかしたら当然のことなのかもしれない。

クラドは魔法使いをあまり良く思っていないようだが、彼の言い分では私も関わり合いになれない類の人間らしい。


どうやら私が魔法使いだということは、できるだけ後で話したほうがよさそうだ。

いや、あえて知らせる必要なんてあるだろうか。

時には知らないほうがいいこともあるしな。

私は、クラドが自分から聞いてくるまでは話さないことに決めた。


「お祭りだというのに、手にワインがないとは。隣のお嬢さんの手が寂しそうに見えますが?」


クラドの話を聞きながら静かに歩いていると。

道端でワインを売っている男が私たちを呼び止めた。


ピンときた。

これはタダでワインを御馳走になれるチャンスだと。


「そうですね。寂しいです。クラドさんも、話していて喉が渇きませんか?」

「……二杯ください。」

「はいよ、おまちどうさま!」

「いただきます。」

「どこへ行っても、食いっぱぐれることはなさそうですね。」


それは否定できない。

師匠と暮らしていた時も、食事はすべて私が用意していたから。

肉が食べたいと言ったら、自分で調達してこいと言われたこともある。

生き物を殺すなんてできないと思って耐えに耐えたが、結局肉が食べたくて狩りをした時は、どれほど悲しかったことか……。


悲しい記憶を忘れるために、私はクラドが買ってくれたワインを飲み干した。


「美味しい。」

「だろう? うちは最高級品しか扱ってないからな! ハハッ!」


彼の言葉通り、初めてこの村に来た時に飲んだ最高級ワインと同じ味がした。


倉庫が荒らされて在庫が足りないと言っていたはずなのに……。

当然だが、私たち以外の人にもワインを売っている男。


それだけ在庫をたくさん確保していたんだな、と考えていた矢先、魔法使いが近くにいる気配を感じた。

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