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神官とその後  作者: 綾瀬 律


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3/3

3.

 そこは白い空間だった。上を見ても横を見ても白い。

 どこだ…?

 見回していると気配を感じた。振り向くとそこにはセレスがいた。


「セレス!」

「ファル!会いたかった」

「私もだ、セレス…顔を見せた」

 その両頬を手で挟むと間近に顔を見る。相変わらず透明な青い目は真っ直ぐに私を捉える。


「あぁ、セレスだ…私のセレス」

「ファル、元気か?」

 私は首を振る。

「セレスのいない時間は長過ぎる」

 ふふっと笑うと

「セスがいるだろう?」


 なんで知ってるんだ?

「それは秘密だ」

 指を唇に当てて笑う。そんなセレスはひたすら可愛い。


 その後は目を伏せると

「ありがとうな、ハンカチ。家族に渡してくれて」

 静かにそう言った。



 別れ際、いつも持ち歩いているハンカチを渡した。いつか会えるんじゃないかと思っていたから。

 セレスの刺繍箱の底にあった4つのハンカチ。刺繍されているのは花ではなく文字。


 それを見てセレスの家族に贈ろうとしたのだと分かった。でも近況報告は出来ない。私が刺繍箱を確認すると分かって底に大切にしまっていたんだな。


 自らの死期を悟ったセレスらしい気遣いだ。会いたかったと思う。でもやはりこの国の守護の在り方を伝えることを躊躇った。

 だから私にこのハンカチを託したのだ。それが分かっていたから私も渡す機会を探していた。


 セスを拾ってからは毎日が戦争のようで、ゆっくりを旅をする時間もなかったから。

 だから会えて、そして渡せて良かった。



「きっとセレスは会いたかったと思ってな。あのハンカチは家族の名前を神聖語の古語で書いたものだから」

 セレスはふっと笑うと

「ファルなら分かると思っていた」

「もちろん分かったさ。たから渡せた」

「あぁ、だからありがとうだ」


 私はセレスに

「また会えるよな?」

「もちろんだ!待っていて…必ずファルの元に」

 私は泣きたいくらい嬉しかった。例え夢でも…こうしてセレスに会えて、そしてまた会えると言ってもらえて。


 そっとその細い体を抱きしめる。

「付けてくれてるんだな、それ」

 私の胸元を見て言う。そこには2人お揃いの指輪がチェーンに通してある。

 さらにもう一つ、煌めくような金色の飾りも。


「…私は、今でもここに…ここにいるんだな、ファルと一緒に」

「当たり前だ。私の愛する人はただ1人。今までもこれからも変わらない」

「良かった。それが約束だったから…」


 約束?

 不思議な顔をするとセレスは首を振ってそっと私に口付けた。

「もう時間だ。ファル、待っててくれ。必ずまた…」


 そこで意識が浮上した。

 夢、だよな。それでもとても幸せで嬉しい夢だった。

「セレス…」

 胸元の指輪をそっと撫でてから起き上がった。




 私の毎日は穏やかだ。

 セスは神聖語に興味を示し、写本として持っていた本を読み始めた。普通の文字も読み始めて、どんどん読めるようになった。


 子供は柔軟だからか、神聖語もそして古語もサラサラと読めるようになった。

 興味を示したのは聖女様についての書き付け。


 手習も初めて、8才頃には普通の文字も神聖語もその古語もそれなりに書けるようになった。

 薬草と花と野菜を育て、薬を作り、森を散歩して読書をする。

 セスは私と森での暮らしを嫌がることなく、楽しそうに笑っていた。


 10才からは地元の学校に通った。

 同じ年頃の友達が必要だし、ずっと森に住む私と違ってセスは外に出るべきだと思ったからだ。

 それでもセスは森暮らしが好きだからと町まで通っていた。

 1人では危ないので週に3日の学校の日は、私も町に出た。


 歳の近い友達も出来て、それなりに楽しそうにしていたが友達に遊びに誘われても断っていたようだ。

 私は知らなくてその友達の母親に

「セレスティン君は仕事を手伝ってるんですね。私の娘が誘っても全く応じてくれなくて」

 と嫌味を言われた。


 私は知らなかったので、セスに聞けば

「追いかけ回されて鬱陶しい」

 不貞腐れてそう言う。知らなかった。


 それ以来、私は気をつけてセスの様子を確認したり人伝に聞いたりした。

 これはマズい。

 当たり前だがセレスに似ているということは、かなり見目が整っているという事だ。


 父親かわりの私は神官だし、セスは薬も作れるし、神聖語も読める。

 今では私の翻訳を手伝うくらいだ。

 そう、普通の町の人から見たらセスはいわゆる上玉なのだ。手の届く上玉。


「セレスティン君は本当に可愛らしいわ」

「ありぁ将来とんでもない美形になるぞ」

「薬も作れるんですって、まだ小さいのに」

「神殿にも行ってるみたいよ」


 全てはセスを誉めているのだが、大人は自分の子供の相手にと思っているフシがある。

 なのでセスに

「その、セスは好きな子とかいるのか?」

 と聞いたら目を丸くして私を見ると

「父様なんて嫌い!」


 泣きながら居間を出て部屋に籠ってしまった。

 私はおろおろした。セスがそんな言葉を言うことは無かったから困惑したのだ。

 ただ、セスには聞いてほしくない質問だったのかと思ってそれ以降は何も聞いていない。


 セスは自分を守るために魔法を習い始めた。マリウスが神殿で教えてくれている。いわゆる攻撃魔法ではなく、あくまでも防御の為だ。



 私はその時、セスが必死に防御魔法を習得している理由を知らなかった。



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