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神官と聖女の続編です
聖女と神官もシリーズ化済み
こちらが完結編となります
今年も可憐な青い花が咲いている。麗らかな陽気の中で青々とした芝生との対比が美しい。
君は今何をしている?
私は空を見上げる。
限りなく澄んだ空には一筋の雲。あぁ、見てくれてるんだね…いつも、いつまでも。
私は微笑んで家に向かった。
*****
「とうたん、採れたー」
幼児の声がした。窓から外を見れば満面の笑みで大根を掲げている。私はくすりと笑うと外に出る。
「セス、大きいね」
と声をかけると駆け寄ってきた子はそのままポスリと私の膝に抱き付いた。
大根の葉っぱを掴んだまま。
「ほら、大根が傷つくよ?貸して」
素直に大根を私に差し出すとにへらと笑った。その笑顔はとても明るくて何の憂いもない美しいものだった。
手を繋いで家に入る。
「とうたん、今日のお料理はね…えっとあのね」
まだ拙い言葉を必死に探す。
「大根のスープだね?セスが大好きな」
「うん!」
「さぁ、手を洗っておいで」
はーいと元気に返事をしてバタバタとかけて行くその姿を見ていた。まさかね、こんな穏やかに日を送ることになるとはと不思議な縁を感謝していた。
「今日は神殿に行くからね、着いたらお庭で待っていて」
「あい!」
元気よく手を上げたセスを見て顔が綻ぶ。
馬房から馬を出すしてセスを鞍に乗せて進む。しばらくは歩きだ。
森の中の一軒家は鬱蒼としている。30分ほど歩くとようやく獣道に出る。ここからは馬に乗る。
街に着くとそのまま騎乗で神殿に向かった。
王都にある中央神殿だ。
私は神官だ。元は中央神殿に勤めていたが、4年ほど前にそこを辞している。神官ではあるので、薬を作って収めたり、写本をしたりしている。
もっとも働かなくとも相応のお金はある。ただケジメみたいなものだ。
たまに神官長の話に付き合ったり、知り合いの神官と友好を深めたりしている。
今日は神官長に呼ばれて神殿を訪れた。
馬を預けセスに
「行っておいで」
と声をかけた。神殿には神官を養成する学校があり、私が神殿に来る際にはセスを預かって貰っている。
元気に走り去るセスと担当の神官に会釈をして外殿に入って行った。
私に気が付いた神官が
「お待ちしておりました」
と神官長の部屋まで案内してくれた。
部屋に通された私は
「神官長、こんにちは。お元気でしたか?」
「あぁ待っていたよ、ファルス」
穏やかに微笑まれた。隣にはマリウスがいる。お互いに黙礼した。
「落ち着いたかい?」
その言葉を真意が分かっている私は
「それなりに…」
曖昧にぼかした。実際には全く落ち着いてはいないから。
「セレスティンは元気か?」
私は自然と笑顔になって
「はい、大変に」
神官長もマリウスも目元を緩めた。セスには不思議と人を笑顔にさせる魅力がある。
「まさかな、ファルスが乳飲児を育てるとは思わなんだ」
それは私もだ。
優しい母親に乳を貰い育った方が良かったのだろうとは思っているが、何故だか離してはならないと思ったのだ。
それに、セスの色が愛しい人と同じだったのだから尚更だ。
「…大聖女様は女神様の寵愛が故に早く身罷られた。ファルスも辛かっただろう」
その通りだ。でも、だからこそ出会えた。ならばそれはもう必然なのだと思う。
「過去には出来ておりませんし、きっと一生この想いを抱えていくのでしょう。私はそれで良いのです」
優しく微笑む神官長は包み込むように私の手を握る。
「それがファルスの愛ならば貫きなさい。きっと女神様は見てくださっている」
「はい!」
少し静かな時間が過ぎた後にマリウスが
「時にセレスティンは刺繍をしているのか?」
と聞いてきた。刺繍?
「さすがにまだ3才だからな、危ないし無理だ」
させてはいない。不思議そうにマリウスを見れば
「養成所の神官に刺繍がしたいと言ったそうだ」
私は驚いた。聞いてない。そもそも刺繍すら知らない筈では?
「本人に聞いた方が良いかもしれないな」
ポツリとマリウスが言った。確かに、確認しよう。
「あとな、セレスティンには神聖力がある」
えっ…?意外だった。
「流石にまだ幼いし、神官にならなければいけない訳ではない。本人の意思を確認してからでも遅くはない」
嬉しいのか悲しいのか分からず複雑だった。
神聖力がある、それは女神様からの借り物。その元は聖女様の神聖力と言う名の命だ。
私はそのことに気がつく前に神官になっている。もし知っていたら、どうしただろうか?
神殿に務める神官は未婚だ。結婚する場合は退官する必要がある。
神殿に勤めなくとも、神官として出来ることはある。
私のように薬を作ったり、治癒院で働いたり、教会で文字を教えたり。
それでもやはり聖職者と言うのは戒律が厳しいので、自由な生き方は出来ない。
まだ3才のセレスティンに選ぶのはどちらにしても無理だし、私としては勧めたくない。
その会話は自分の胸にしまって神官長との面会は終わった。
迎えに行くと私に気が付いたセレスティンが走って来た。抱き付いて私を見上げる。
ふくふくとしたほっぺに丸い目、白い肌に金色の髪。可愛らしさしかない幼児を抱き上げて、楽しそうに遊んだ話をするセスと帰路についた。
約束通りに大根のスープを夕食に食べて、体を清めるとスコンと眠りに落ちたセスの肩まで毛布を掛けると、私は居間に降りた。
紅茶を淹れてソファに座る。
軽く目を瞑るとセスとの出会いを思い浮かべた。
セレスが逝った後、ベンチで慟哭する私の耳に泣き声が聞こえた。自分の声かはたまた幻聴か、ぼぅっとしながらそんなことを考えていると
「うぎぁーーおぎゃーー」
幻聴にしてはやけに大きくハッキリと聞こえた。
私はふと顔を上げる。
「ふにぁーほにぁー」
やっぱり幻聴じゃない?
私はゆっくりとセレスの刺繍箱を抱えたまま立ち上がり耳を澄ます。
そしてやっぱり元気いっぱいの泣き声に向かって慎重に歩いて行く。
そして少し開けて陽が当たる場所の切り株に白いものを見つけた。
動いてる。
ふぎゃーほぎゃー
間違いなくその白いものをから発する声だ。しかももにょもにょと動いている。周りを見ても誰もいない。
不審に思いながらそろりと近付くと甘い匂いがした。生まれたての赤ん坊のような、乳臭い匂いだ。
ようやく切り株に辿り着くと上から白いものを覗き込む。赤ちゃんだ。顔を真っ赤にして手足をばたつかせて泣いている。
周りを見ても親らしき人影はない。
捨て子か?
赤ちゃんはおくるみに包まれて泣いている。柔らかそうな布は上質で、何故こんな場所に置き去りにされたのかと不思議でならない。
でも、何故だかこの子を助けなければと思った。それはもう明確に。なので、躊躇わずに刺繍箱をそっと草の上に置くとその子を抱き上げた。
神官として祝福をしていたので、抱くのは慣れている。抱き上げて軽くゆするとようやく泣き止んだ。まだえぐえぐしているが、ひとまず不安だったなだろうと結論を出す。
屈んで草の上の刺繍箱を持つと家に帰った。
とはいえ、乳飲児の育て方など知らない私はすぐに街の教会に向かった。神父様ならご存知だろう。
乳飲児を抱いた私を見て神父様も教会の職員も大層驚いた。それはそうだろう。
セレスのことで私が悲しんでいることを知っていたのだから。その私が突然、乳飲児を連れて来てのだから驚いて当然だ。
すぐに教会で飼っているヤギの乳を飲ませて寝かしつけた。
「ファルス様、どうされるおつもりですか?」
「もちろん私が育てます」
神父様は困ったように
「しかし、乳飲児は夜も昼間なく乳を与えなければなりません。お一人では…」
それでも誰かにこの子を託すことは出来なかった。私の決心が硬いと見た神父様はそれ以外は何も言わずに、乳が出るヤギを1匹手配してくれた。
「子供はすぐに体調を崩しますが、安易に回復させてはなりません」
それは神官に時代にもよく言われたことだ。神妙に頷くと、乳飲児用の服やらおしめやら布団やら枕やらを持たされた。
「おかねはまた後日」
神父様は優しく微笑むと
「ならば薬を多めにお願いします」
私は頷くとまた礼を言って家に戻った。
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