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過去日記

作者: 鏑木翠
掲載日:2025/12/19

いつもと変わらない景色。


いつもと変わらない朝。


また、今日もいつもと変わらない日常が振り返されるのか。


そう思ってたのに。


私の憂鬱な日常を変えたのは、


ある一冊の日記だった。


淡い水色の可愛らしい一冊の日記。


初めは、誰かの忘れ物かと思っていたのに、


日記の表紙に書かれていた名前は、


昨日夢で見た、あの子の名前だった。

突然、変化が訪れた私の日常。


その原因である日記を私はかれこれ数時間、眺め続けていた。


もう、悩み続けてても仕方ない。


意を決してその日記に触れた途端、私の頭に酷い痛みが走った。


『偏頭痛かな…』


気にせず日記を開くと、日記の中は真っ白だった。


タイトルだけ書いて中身は書いていないなんて、私は何を考えていたのだろう。


思わずため息を吐いて日記を閉じようとした。


その時だった。


白紙だったはずの日記にみるみると文字が浮かび上がっていく。


目の前で起こる異様な光景に恐怖を覚えて、思わず後ずさった。


しかし、日記の内容への興味が勝ち、初めの文に目を移すと、


日記に書かれている名前に違和感を覚えた。


なぜなら、そこに書かれていた誰かの名前は、明らかに私が昨日見た夢の中の彼の名前だったから。


なぜ、この日記に彼の名前が残っているのだろうか


この日記は私の妄想日記なのだろうか。


そんな疑いを持った。


日記の続きが読みたくて、次のページに移ると、中は白紙だった。


『どうして…』


何度ページを開いても文字は浮かび上がらない。


さっきのは幻覚だったのか。


何度考えても答えなんて見つかるはずもなく、疲れて眠ってしまった。


翌日、日記を開くと、昨日はなかったはずの2ページ目が存在していた。


昨日はなかったのに今日はある。


ということは、一日ごとに文字が浮かび上がるのだろうか。


本来の日記と同じく、一日ごとに増えていく。


そんな不思議な日記と出会って一ヶ月が経った。


一ヶ月も経つというのに、相変わらず私は学校に馴染めないまま。


そして、日記の謎も解けないまま。


しかし、毎日日記を読んでいてわかったことがある。


あの日記に出てくる彼の名前はフォスという事。


フォスは一国の王子で、その国は現代の日本ではないということ。


そしてその国はLumiereルミエールという国であること


今現在その国は存在しないということ。


なぜ、私の日記にフォスという王子が出てくるのか


Lumiereという国と私に何の関わりがあるのか。


私はLumiereという国に関して色々な書物を通して情報を得ることにした。


調べたところによると、Lumiereは今から120年前に滅びたらしく、その理由は国民が王家に反乱を起こしたから。


光の国と呼ばれるほど平和だった国がでなぜ反乱が起きたか。


遡ること140年前。


国王は位を退き、若くて美しいフォスという王子が国王の座についた。


容姿端麗で、性格もいいフォスは、すぐに国民の憧れの的になった。


フォスの妻の座を狙う女性は、少なくはなかった。


だが、どんなに綺麗な女性がフォスを誘惑しても、フォスは見向きもしなかった。


なぜなら、彼には愛した少女がいたから。


少女の名前はアスター。


アスターの実家は小さな村にある小さなパン屋。


フォスとの身分の差は、明らかだった。


しかし、アスターもまた、フォスを愛してしまった


二人の恋を応援する者は誰もいなかった。


村のパン屋と王子。


二人もわかっていた。


この恋が許されるはずないと。


それでも、側にいたかった。


側にいてほしかった。


例え、国民を敵にしても


二人は、愛を育むため、村にある森の中で密会を重ねた。


森の中にある、小さな小屋。


そこが二人の秘密基地だった。


ある日、フォスが秘密基地へ向かうと、


通り道の雑貨屋で、窃盗が起きたと小耳に挟んだ


窃盗の犯人は既に見つかって捕獲されたとのこと。


犯人の名前を聞いたフォスは耳を疑った。


窃盗の犯人はアスター。


そう今まさにフォスが会いに行こうとしている彼女の名前だった。


彼女との身分の差など忘れて、今まさに彼女を疑っていた村人を怒鳴りつけた。


『アスターは…彼女は、窃盗なんて卑劣な真似などしない!彼女を解放しろ!』


近くにいた村人につかみかかり、愛する彼女の元へ案内させた。


が、フォスはアスターの元へ辿り着くことができなかった。


なぜなら、アスターは、村人に既に処刑されていたから。


彼女は村の中では人気者だった。


愛嬌もある。教養もある。


容姿も可愛らしい子だったから。


小さな村とはいえ、彼女が村中を歩けば、村人は彼女に物を与えた。


魚屋のまえを通れば、魚を。


着物屋の前を通れば簪を。


彼女は、愛されていた。


そんな彼女がどうして死ななければならなかったのか。


理解できなかった。


わかりたくもなかったし、わかるはずもなかった。


でも、確かな事が一つあった。


その出来事は、フォスの心を壊すには十分だった。


なぜ、村中の人気者だった彼女が村人に信じてもらうことができずに処刑されたか。


フォスにはわからなかった。


でも、自分が愛した彼女がどうして死ななければならなかったのか。


誰が彼女に罪を着せたのか、どうしても知りたかった。


そんなフォスは禁忌を犯した。


国王がやってはならないこと。


そして、誰しもがやってはならないこと。


フォスは村人を脅し、真実を知ろうとした。


村人はなかなか口を割ろうとしなかった。


でも、フォスが持っていた剣を村人の首に突きつければ案外、簡単に口を開いた。


村人の口から出た言葉に耳を疑った。


『レインがやった。レインが手を下したんだ。おれたちは反対した。


やりすぎだって。証拠もないのに処刑なんてできないと。


でも、レインが、あの女が、アスターを!』


レイン。


あいつは、アスターの昔からの幼馴染で、大親友だった。


そんなあいつが、アスターを…


頭に血が流れた。


すぐにレインを探した。


レインは案外簡単に見つかった。


村人が誰も自分を裏切らないと高をくくっていたから。


村人は、フォスとアスターの関係を知り、すぐに謝罪してきた。


フォスは、もちろん、誰のことも許さなかった。


彼女の形見の簪を片手に、復讐した。


レインはもちろん、レインの計画に加担した村人全員に。


裁きを下した。


そして、心優しき国王は、跡形もなく消えた。


国民は、そんな国王に反旗を翻した。


国王の命と共に、Lumiereは滅亡した。


過去の書物を読み、私が知った真実はここまで。


でも、私には気になることがあった。


フォスのアスターへの深い愛情もわかった。


そしてアスターがフォスを愛していたことも分かった。


でも、なぜ、そのアスターの日記が私の部屋にあるのだろうか。


夢も見るまでは全く知らなかった。二人の出来事を。


英語圏の話であるために、間違えて混ざったとは考えにくい。


ならどうして。


相談できる友人はいない。


家族にも話せない。


一人で考えるしかないのか。


結局その疑問は晴れることなく月が過ぎていく。


そんなある日、学校に転校生が来た。


顔立ちはとても整っていて、いわゆるイケメンの部類に入るであろう彼は、あっという間に人気者になった。


そんな彼の美貌にクラスメイトは釘付けになった。


が、私も違う意味で釘付けになった。


なぜなら、彼の顔は、フォスそっくりだったから。


彼が転校してきてから、どことなく彼からの視線を感じるようになった。


話しかけられる訳でもなく、ただこちらを見ている。


たまに話しかけようと口を動かすが、クラスメイトに呼ばれて彼はそちらに行ってしまう。


同じクラスなのに一度も話したことはなかった。


放課後、委員会活動があり、いつもより少し帰りが遅くなってしまったある日、


『あの!』


転校生の彼から突然話しかけられた。


まさかのことに驚いて、緊張でおもわずからだが硬直する。


彼から発せられる言葉に私は驚くことしかできなかった。


『君は、フォスという男を知ってる?』


フォス。


彼の口からフォスの名前が出るなんて。


まず第一。顔が似ていることからおかしいと思っていた。


でも、他人の空似だろうと思っていた。


だって、ありえないだろう。


120年も前の人間にそっくりな転校生が来るなんて。


まして、自分の夢に出てきただけの、120年前に滅びた国の国王の名前を知っているなんて。


偶然とは思えなかった。


このタイミングで彼が転校してくるなんて。


必然としか。


「どうしてフォスを知っているの?」


必死に絞り出した声は驚くほど小さくて、震えていた。


彼は私の目をまっすぐに見て話し出した。


『最近夢を見るんだ。すごく昔の話。


僕は出てこない。


けど、夢に出てくるフォスという男は僕にそっくりで、それに、


夢を見てから少し経った頃、部屋に日記を見つけた。


日記にはアスターという女の子への気持ち、そして彼女との思い出を綴られていた。


親の仕事の都合でこの高校に転校してきたけど、教室に入って驚いた。


君は、夢で見たアスターにそっくりなんだ。」


アスターは、私の夢では出てこなかった。


だから気付かなかった。


「でも、君の名前を聞いて確信した。


君の名前は、花。


月城花。


アスターは日本語で花を意味するそうだ。


アスターにそっくりな見た目、そしてアスターを意味する名前。


君がアスターなんだね」


私が、アスター?


ならまさか…


『まさか、貴方がフォスなの?』


「僕の名前は、神崎光」


フォスが意味する言葉は光。


私と、光が夢を見た日。


その日は、私が…アスターが亡くなった命日だったそうだ。


「やっと、やっと会えた、アスター。」


アスターの日記の最後には、ピンクのアスターの簪が挟まっていた。


ピンクのアスターの花言葉は、『甘い夢』


フォスは昔、いつも言っていた。


幸せすぎてまるで夢を見ているようだと


光は昔の夢を見てから、アスターの生まれ変わりである私を探していたそうだ。


自分と同じように生まれ変わっているのではないか。


今の時代を生きているのではないかと。


「ずっと会いたかった。今でもずっと、愛してるよ。」


愛し合った二人は、120年の時を超えて幸せに暮らした。


身分の差も気にせず。


いつまでもいつまでも幸せに。

小さな村の跡地に、二つのお墓が並んで立っていた。


一つのお墓には、ピンクのアスターが手向けられていた。


ピンクのアスターの花言葉は甘い夢、そして、信じる心。


最後までアスターは、フォスが自分を助けてくれることを信じていた。


そして、フォスとの出会い、そして日常は、アスターにとって、甘い夢になった。


その隣にもう一つ。


紫色のアスターが手向けられたお墓。


紫色のアスターの花言葉は、深い愛情、幸せな恋愛。


墓石に刻まれた名前は、アスター、フォス、二人の名前だった。


二人の愛を応援する者は確かに存在したのだ。


墓石に毎日、お祈りをし、二人が生まれ変わり、そして出会うことを毎日願い続けている者が…


「ごめんね…二人がいつまでも幸せでいられますように」

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