貴族への道
自室に戻り、さっきの「黒い何か」について考えていると、ノックの音と共に、護界衆が部屋に入ってきた。
護界衆「失礼します。お話があり訪れさせていただきました」
陵雅「話?」
「はい。御頭様から明日から訓練生になる事は聞いたかと思いますが、明日からの生活について話させていただきます」
「生活?」
「はい。まず訓練生として**黒血**を最低限操れるようになるまで、他の方と一緒に訓練します。平均的には1年半かかりますが、人によっては一か月で使いこなせるようになります。稀ですが」
一年半か。長いな。だが、前世の俺ならゲームをだらだらやって一年半を無駄にしただろう。今は家族の敵討ちと、自分の異変の解明という目的がある。一ヶ月で終わらせる稀な天才になってやる。
「訓練が終わり次第、同時期に卒業した者たちと三人組を組み、蒼の討伐に尽力して貰います。班合計で三つの町の蒼による被害を一か月間一度も出さなかった場合、討伐試験の受験資格がもらえます」
「受験資格?」
「はい。その試験に合格すれば晴れて蒼討伐を一人で行っていただきます。もし三つの町で一件でも蒼による被害を出した場合は、人数確保が確認され次第、再度別の町に移動し一か月間励んでもらいます」
三人組で町を守る。失敗は許されない。
(なるほど。いきなり単独で放り出すんじゃなく、まずは団体戦で責任感を養わせるわけか。合理的なシステムだ)
「それから先、どうやったら貴族になれんだよ」
俺が本当に知りたいのは、組織のトップ層だ。侑のような権力を持つ者たちに、早く肩を並べたかった。
「貴族には、独り立ち後、御頭様から実力を判断されたものに貴族試験の受験資格を与えられます。その試験内容は十五の町の蒼による事件を一件も二か月のうちに出さない。これをクリアしたものは貴族になれます」
「十五の町を一人で!?」
「はい」
「寝る暇あんのか?」
俺の素直な疑問に、護界衆は困ったように答える。「それは貴族の方たちに聞くほかないですね」
「侑はたしか貴族だよな、何年くらいでなったんだ?」
「侑様は四ヶ月でなりましたね」
俺は驚愕し、思わず体が硬直した。
「四ヶ月!? 一体どうやって!」
護界衆は、当然のように続ける。「侑様は練習生になった日から正確には二十日で訓練生を終了いたしました。その結果、そして三人組試験ではある噂によると、班合計で討伐する蒼の数をほとんどお一人で倒したらしく、その結果だと思います」
二十日で黒血を習得。三人組の任務を一人でクリア。そして四ヶ月でトップ層の貴族。
(な、なんだそりゃ……。俺が一年半かかるかもしれないことを、たった二十日で? )
ここには、着実に結果を出し続ける天才がいた。あの冷静で、強大な力を持つ侑が、まさにそれだ。
「そういうことか」
俺は侑という明確すぎる目標を前に、逆に静かな闘志を燃やし始めた。
「話はよろしいでしょうか」
「ああ!ありがとよ!」
護界衆「はい。では明日からご活躍をお祈りします。では失礼致します」
翌日。
俺は護界院の訓練場に立っていた。目の前には、何百人もの訓練生が規律正しく並んでいる。誰もが真剣な顔で、黒血の習得という難題に挑もうとしているのだ。
(ここか、これみんな訓練生かよ、まじで多いな)
俺の周りにも、家族を蒼に奪われた者や他にも、様々な人間がいるのだろう。だが、今は関係ない。
俺の目標は、まず黒血の習得。そして、四ヶ月で貴族になった天才に追いつくことだ。
その時、訓練生を束ねる護界衆の一人が、俺の前に現れた。
護界衆(柊・ひいらぎ)「今日から訓練生として過ごすのは君か」