貴き者たち(ききものたち)
俺は意識を失ったまま、侑に連れられ**護界院**と呼ばれる組織の本拠地にたどり着いたらしい。
護界院に着いた直後、侑は偶然にも組織のトップである御頭様と鉢合わせる形になった。
御頭様「あれ、侑。どうしたの?」
侑は俺を背に、冷静に答える。「御頭様!いらしていたのですね。街である少年を保護。護界院に入るといったので連れてきました」
「侑なら、そういう人たちは誰彼構わず別館に連れて行きそうだけど、その少年に思い入れでもあるの?」
御頭様は、俺の背後にいる俺の存在を意識しているようだった。侑は表情を変えずに言った。
「その件でお話があり、この少年を一度先に御頭様のところへ連れてこようと思いまして」
「それならば中に入って話をしようか」
「ご理解そして御壇上の許可、誠に感謝いたします」
「はい」
護界院の中。御頭様は静かに問う。「それで、お話というのは」
「はい。実はこの少年、蒼の祖に会い、顔を覚えられ、いつか必ず殺すと言われたらしいです」
この世の裏側を知る御頭様でも、これには驚きを隠せない。「祖が一般人を必要以上に気にするなんて珍しいね」
「はい。そのため私ではこのような事案は未経験ですので、御頭様に相談させていただく運びとなりました」
侑は俺の異変には触れず、あくまで**「祖に狙われたこと」**を強調した。
「蒼をその少年は倒したという事か?」
「いえ。その少年は自ら蒼を倒したと思っていますが、ギリギリ間に合い私が倒しているため、あの少年と蒼はあまり関係ないと思っていますが」
あの時実は、蒼は陵雅の手によってではなく、侑の手によって倒されていた。しかし、蒼の視界からは陵雅が発砲した瞬間気を失い、それと同時に侑が蒼を倒したので祖からは陵雅が殺したと思われていた。
「その子の名は知っているのか」
「陵雅と名乗っていました」
御頭様は頷いた。「この少年のことは頭に置いておくよ。君は護界院の貴きなんだからそちらに頭を使いなさい」
「わかりました」
こうして、俺の**「祖に狙われている」**という事案は、組織のトップにまで共有された。
目が覚めると、俺はベットの上だった。
「ここどこだ?」
隣にいた護界衆と呼ばれる男が答える。「やっと起きましたか。寝てもう三日たちますよ」
「三日も!ここどこだ?」
「ここは護界院ですよ」
「護界院……。侑の言ってたやつか。侑はなにしてるんだ」
「侑様ですか?」「ああ、侑だ」
「侑様は今外出されています」
「どこに?」
「蒼狩りです」
「毎日行ってんのか?」
「日課なんですから当たり前ですよ」
話していると、他の護界衆が「おい、貴族会議が始まるから準備するぞ」と、俺の相手をしてくれていた男を呼んだ。
「なああんた、その貴族会議そんな大切なのか?」
護界衆は早口で説明した。「ええ。なにしろ護界院の貴族方全員が御頭様と、現状況、そして今後について話し合う大切な行事なんです。会議が停滞しないよう、誰も聴衆は発言してはならない。それほどの重鎮方達の迫力がすごいので、大切な行事の一つとしてあります。それでは」
護界衆はすぐにその場を去った。俺は会議に興味が湧き、見に行くことにした。
会場の周りは大勢の聴衆がいた。人を避けまくり中を見ると、御頭様のような人と、他六人の重鎮と呼ばれる人たちがいた。その中に、侑もいた。
(あれ、侑じゃねえか?)
俺は興奮して、大声で呼びかけた。
「侑ー!俺俺、陵雅だよ」
御頭様や重鎮含め、その場にいた者たちの視線が一気に俺の元に集まる。
(あ、やべ。そうだった。発言禁止だった)
侑(貴族)は冷静に言った。「陵雅、目覚ましたんだね、今は会議中だから静かにね」
その場にいた他の貴族たちは、一斉に俺を品定めするような視線を向けた。
信(貴族)(あいつ、侑の事呼び捨てにしやがった?。しかも貴族会議で?)
大(貴族)(あいつなんなんだ、貴族を呼び捨て、しかも大切な行事で)
護良(貴族)(会議めちゃくちゃにしやがった。あいつ後で殺す)
妃華(貴族)(面白い子が来た)
海鈴(貴族)(変な子だけど、こんな大切な行事つぶしたんだ。弱かったら殺そっかな)
「すいません……」
俺は静かに頭を下げた。
御頭様は場の空気を収束させた。「これで今回の貴族会議は終了する。だがこの後話があるので本拠のあの場所に集合してほしい」
貴族一同は静かに応じた。「御意」
会議が終わるや否や、貴族たちが侑を取り囲む。
信「侑、あいつなんだったんだ?」
大「そうだ侑。しかも呼び捨てだったぞ」
護良「それだけじゃない。貴族会議で発言した」
妃華「ほんと変わった子でしたね」
海鈴「でもさすがにあの口きけるという事は護界院の護界衆の中でも強いほうなのですよね」
侑は冷静に答える。「強くはないと思うよ。でもほんと変わった子だね。この後開かれる会議で御頭様から話あると思うよ」
貴族たちは、それならと納得し静かになった。
会議室とは別の場所で、貴族たちを集め、御頭様が話し始めた。
御頭様「さっきの会議後わざわざまた集まってもらって申し訳ない」
大「やめてくださいそんな」
「では本題にはいるとする。さっき発言した少年覚えているか」
信「皆覚えていると思いますよ」
御頭様「その少年についてだが、侑、話してくれるか」
侑「もちろんです。あの少年の名は陵雅。話しておきたいのは彼についてなんだけど、蒼の祖に目をつけられて実際一度僕と陵雅の二人の時に大勢の蒼を向かわせて殺そうとした。あの少年は僕は初めてだけど、御頭様は稀にある祖に目を付けられる一般人だとおっしゃいました」
大「なるほど。理解はしましたが、これからはどうするおつもりでしょうか」
御頭様は、俺の処遇を明確にした。「彼は護界院に入ると言っているので、下護界衆から始めさせ、院で観察するつもりです。私からの話は以上です。皆さんはありますか」
全員黙る。御頭様は会議を終わらせた。「では終了です」
会議が終わると、御頭様は護衛に命じた。
「護界衆、陵雅をこの部屋に連れてきてもらえないか」
「はい。わかりました」
護界衆は、俺の部屋へ向かった。