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蒼の血(アビスのち)  作者: 凪さ
第一章 訓練生編
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狭火妬(さびと) - 運命の悪戯


俺は殺し屋の元締めだと聞いた**「盛岡屋」**に向かった。

「ここが盛岡屋か……。本当にあるなんてな」


店の外観は、ごく普通の包丁屋だ。しかし、あの拳銃と、父の会話の断片的な記憶が、これが単なる包丁屋ではないと俺に確信させた。俺の退屈な日常を壊す非日常の入り口が、こんなにも身近にあったことに驚きを隠せない。


「包丁屋って言ってたから、中に入って違かったら出るか」


そう思い、盛岡屋に入っていく。

「まじか。本当に包丁屋じゃねえか」


店内に並ぶのは、鈍く光る刃物ばかり。一見して普通の店だ。だが、その静けさが、かえって異様な雰囲気を醸し出している。


「あ、いた」


店を見渡すと、店長のような男が椅子に座り、熱心に本を読んでいた。


俺は店長に近づき、声をかけた。「あんただよな、殺し屋の元締め」


店長は何も答えなかった。完全に無視だ。

「あんた聞こえてんのか、あんたが殺し屋のもと――」


「話は聞こえている。はー」

店長はつまらなさそうに、深くため息をついた。


「殺しの経験はあるんだろうな」

「無えけど」


一瞬の間。店長は顔を上げることなく、冷たく言い放った。

「素人に貸す銃なんか持ってねえ。家の包丁でも使って自分でやれ。ここでは銃しか扱ってねえ。お前が来るところじゃねえんだよ」


素人だと一蹴された。だが、俺にはあの非日常の象徴がある。


「銃は持ってる!」

「……銃持ってんのか……」

「ああ」

「ちっ」


店長は舌打ちし、棚から紙を取り出した。

「素人はばれやすい。だから個人宅でやれ。失敗してもばれんのはお前だけだ。絶対にここの事いうんじゃねえぞ」


俺は渡された紙を読み上げた。

「日暮市西桜ヶ丘二丁目1-3の山原?」

「目標のいる住所と名前だ」


「案外くれんだな、追い返されるもんだと思ってたぜ」


「さっきも言った通り個人宅だ。個人宅案件はもし失敗しても殺した張本人がばれるだけだ。その周りや仲間は比較的ばれにくい。お前みたいな素人には十分だ。銃もあるんだったら尚更だ」


「ここにたどり着いた情報源とかも聞かねえんだな」


「ここには毎日いろんな奴が来る。だからわざわざ情報源なんて聞かねえ。その代わり、もし捕まってここの事を吐いたら殺し屋向かわせて人生終わらせるからな」


「そういうことか」


「名は?」

「名?」


「この件は二人組でやる。相手にお前の事を言わねえとならねえ。それにこの世界だ。本名なんて使ってたら殺したらすぐばれんぞ。だから名だ。名」


(そうだなー。狭い殺し屋の世界で火のように周りから恐れられるほど強くなり、その強さに妬まれるほど強い殺し屋になりたいから、狭火妬さびと。にしよっと)


俺は心の中で、厨二病全開の決意を込めて、新しい名前を口にした。

「狭火妬だ」

「サビトだな。仲間が来るのは30分後だ。それまで奥で待ってろ」


俺は「はーい」と返事し、奥の部屋に入ろうとした。


「あ、そういや言い忘れてた」

店長が呼び止めた。「普通は言わねえんだけどよ。お前には言った方がいい気がしてよ」

「なんだよ」


「自分の情報は仲間にも敵にもあんま言うんじゃねえぞ。この世界は妬まれる事も多い。そんな中で自分の事話しまくったら不意打ちで殺されるかもしれねえぞ。だから話すのは名前だけだ。どんだけ有名な奴も名前だけがこの世界では広まる。だから名前以外話すんじゃねえぞ。もちろん俺にもな」


「分かったぜ」


そう返事すると、俺は、**「秘密と警戒心」**こそがこの世界のルールだと悟りながら、奥の部屋に入っていった。



30分後、部屋の扉が開いた。


「あんたか?狭火妬って」

目の前に立っていたのは、俺と年齢の近い、体格のいい青年だった。


「ああ、俺だ。あんたは?」

「俺は**ひょう**だ」

「氷か。よろしくな」


「相手の住所、名前は知ってるな?」

「ああ」

「じゃあ行くぞ」


二人で目的地に向かう。現場は、いかにも普通の個人宅だ。


「ここだな」

「ああ」


庭からの窓が、わずかに開いていた。どうやらそこから侵入できるようだ。


「いた。あいつだ」

「だな」


目標は、部屋で字を書いている、山原だ。


「俺はあいつの前に出る。俺に注意を引いたあいつを後ろから撃て」

「分かった」


いよいよ、その時が来た。


氷が小声で言った。「行ってくる」

俺は「ああ」と返した。


氷は拳銃を構えながら、目標の男、山原の前に現れた。


「あんたが山原だな」

山原は驚愕した。「……⁉。あなた達だれなの……!。人の家に勝手に入ってきて……泥棒……?警察呼ぶわよ……‼」


「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせえな。あんたはもう死ぬんだよ。悪いが恨むのは依頼を出した奴に言ってくれ」


氷はそう言いながら、アイコンタクトで俺に「今だ!」と合図した。


俺は後ろから出てきて、山原に銃を向けた。

その瞬間、物凄い恐怖感が全身を襲い、体が震え、引き金を引けない。


「はっ。はっ。はっ。……」

緊張で呼吸が速くなる。前世の俺なら、きっとこんな状況から逃げ出していただろう。だが、この世界に来てまで、また後悔を重ねるのか?


「はやく撃てよ‼」

氷の鋭い声が響くが、指が、動かない。

「はっ。はっ。はっ。……」


「ちっ」


バンッ‼


氷は痺れを切らし、目標を撃った。山原は倒れた。

初めて見た殺人の光景。俺の頭は一瞬で白くなり、体は完全に硬直した。


その光景に完全に怯えた俺は、クールな殺し屋という幻想を打ち砕かれ、仕事を放棄して、家へと逃げ出していた。


「お、おい!。どこ行くんだ‼」


背後で氷の声が聞こえるが、俺は止まれない。

俺が知るはずのない、俺の頭の中に響く冷たい声。


(氷:あいつ、どこに行こうとしてるんだ?まさか警察? そんな事されたらせっかく人間に化けて潜入してたのにこの環境が無くなってしまう‼この世界は血を飲みやすい絶好の場所……。ばれるわけにはいかない……)


氷、すなわちアビスは、この殺し屋の世界が、彼らにとって血を飲むのに絶好の場所だと知っている。環境が失われることを恐れた蒼は、逃げ出した俺――陵雅を追いかけることにした。

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