深まる闇
夜の山中。疲労と安堵の中にいた三人の耳に、再び微かな声が届いた。
厳人「今、なんか聞こえなかったか?」
瀬音「僕も聞こえた気が……」
陵雅は笑い飛ばす。「まさか……幽霊……とか!」
厳人「やめろ!!俺は幽霊無理なんだよ!!」
(厳人:蒼なんかより幽霊のほうが百倍怖い!頼むからやめてくれ!)
瀬音「え、そうなんだ。陵雅と厳人は怖い物なんてないと思ってた」
陵雅「俺は幽霊なんて怖くねえよ。厳人と一緒にすんな!」
その時、助けを求める声が急に近くなった。
??「はー……。はー……。はー……。助け……て……くれ……」
陵雅が咄嗟に後ろを振り向いた、その瞬間。
ドゴォン!
健太「ぐあっ!!」
大量の血が噴き出し、健太と陸の二人が、何かにぶつかったかのように地面に転がった。
陵雅は地面に倒れた健太に駆け寄る。「おい!健太!陸!大丈夫か!!おい!!健太!!健太!!」
陸は痛みに呻きながらも叫んだ。「俺は……大丈夫だ……。早く……健太を……助けてやって……くれ……!」
健太は返事をしない。
陸は恐怖に顔を引き攣らせた。「あっ!!陵雅!!**もうあいつが来るかも!!**早く逃げろ!!早く!!」
陵雅「あいつ……?」
闇の中から、新たな影が現れた。
中級蒼「あー、やっと死んだか?ていうか、なんか人増えてないか?」
陸は完全に怯えきった。「あーっ……!!あーっ……!!はやく……!!はやく……!!はやく逃げろ……!!」
陵雅は怒りに燃えながら、厳人と共に影を睨む。
陵雅「お前……、誰だ……?」
厳人「お前……、何者だ……?」
中級蒼「誰って言われたら、お前らの敵だな」
陵雅は厳人と瀬音、そして怯える陸に向かって低い声で言った。「瀬音、厳人、陸。下がっとけ。こいつ、お前らじゃ勝てねえ」
厳人「おい、陵雅、何言ってんだ……!」
陵雅は確信していた。「こいつは中級だ……。こいつは……俺が倒す」
厳人「なんで中級なんてわかるんだよ」
陵雅「言っただろ。上級、中級、下級、全て戦闘経験があるんだよ。だから分かる」
中級蒼は苛立ちを露わにした。「お前ら、さっきから何言ってんだ?何倒すっつってんだよ。お前らは俺に倒されるんだよ。勘違いすんな」
(陵雅:今ここに居んのは下級がギリの訓練生だけ……。あの人(氏原)がいた時でもギリギリだった……。ここで生きて帰るなら、あの時出来たやつ(気配を隠す)をするしかない)
陵雅は息を吸い、覚悟を決めた。「ふー。……やってやる!!」
中級蒼は、黒血を出すこともなく、その巨体で思い切り向かってきた。「じゃあ行くぞ!!」
シューーン!
陵雅「あ。……」
中級蒼「は?……」
陵雅が動くよりも早く、中級蒼の体が半分になった。
中級蒼が気づいたときには、既に命は絶たれていた。
陵雅の背後から聞きなれた声が聞こえた。「あっぶねえー!!」
陵雅は慌てて背後を振り向いた。そこに立っていたのは、以前森で会った男。
陵雅「あ、あんた!!」
貴族(大)「助けてもらったやつにあんたはねえだろ」
陵雅は驚愕を隠せない。「なんでここに貴族のあんたがいるんだよ!」
貴族(大)「だから俺今助けてやったんだぞ?あんたはねえだろ!」
瀬音はすぐさま敬意を払った。「貴族様!!」
貴族(大)「偶然近くにいたら中級の気配がしてよ、急いで来たらこれだ」
貴族(大)は倒れている健太を見て言った。「そいつ(健太)、死んでねえよ。意識ないだけだ。だから安心しろ」
陸は安堵のあまり崩れ落ちた。「よかった……」
貴族(大)は健太を背負う。「そいつ(健太)、すぐに連れてく!医療部呼ぶよりこっちから行った方が速え!」
「じゃあな」そう言って、貴族(大)は健太を連れて去って行った。
陸は力なく言った。「色々助かったよ。ありがとう。じゃあ行くよ」
陵雅「陸。何があったんだ?」
陸「逃げてたんだ。蒼に会って。必死に逃げて、隠れても見つかって……そしたら偶然陵雅のいる場所に出たんだ」
陵雅と瀬音、厳人の三人は、緊張から解放されたものの、疲労は限界だった。
厳人「もうそろいってこいよ」
陵雅「そうだな、なんか疲れあるけど頑張ってくるわ!」
厳人は夜間の剣奪役として、山へと消えていった。
そして朝になり、ゲームが終了した。
護界院の集合場所。上部の上時が結果を発表する。
上時「三位、健太郎組だ。二位、祥吾組だ。……一位、陵雅組だ」
陵雅「やったー!!」
厳人「やったー!!」
瀬音「やったね!!」
陵雅の独断と、瀬音の機転、そして厳人の勇気と体力。三人の異なる強さが、彼らを勝利へと導いた。
上時「これでゲームは終わりだ。解散だ。お疲れ」
陵雅「疲れたぜ、」
瀬音「ほんとだね、」
陵雅「寝ようぜ」
二人は護界院に戻り、深い眠りについた。陵雅は、あの決死の瞬間、なぜか気配を消すことができなかったという事実を、まだ整理できていなかった。あの貴族が介入しなければ、自分は死んでいた。その事実に、彼の心は複雑な波紋を広げていた。