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蒼の血(アビスのち)  作者: 凪さ
第一章 訓練生編
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それぞれの夜

「蒼が近づいてくるのは焚火の火だよ。だから木の棒に焚火の火をつけて、山の真ん中にその木の棒を集める。そこに寄ってきた大量の蒼を、みんなで倒すんだ」


瀬音は震える声を押し殺し、論理的な解決策を提示した。


健介は不安を隠せない。「でも、火によって来るってことは、運ぶ途中で蒼に襲われたらどうするんだ?」

「訓練生はたくさんいるんだから、周りと協力して倒すしかない。最悪倒せなくても、山の真ん中に誘えばみんなで倒せる」


陵雅は瀬音の機転に感嘆した。理屈は通っている。これならば、被害を最小限に抑えつつ、一網打尽にできる。


陵雅「それでいこう……!!」


瀬音の冷静な判断と、陵雅の熱狂的な決断。二人の指導の下、訓練生たちは直ちに行動を開始した。


山の真ん中には、炎をつけた木の棒が次々と集められた。夜の闇の中、その集合した光は、まるで巨大な篝火のように輝いた。


厳人「本当にきた……」


みるみる内に、山の真ん中には大量の蒼が集まっていた。その数は、訓練生たちの予想を遥かに超えていたが、もはや後には引けない。


陵雅「おっりゃあー!!」

厳人「おっらあー!!」


敵味方の垣根を越え、訓練生たちは協力して蒼を倒し切った。



陵雅「やっと終わったな……」

厳人「だな……」

瀬音「ほんとにね……」


疲労困憊の中、訓練生たちの間に、ゲームの勝敗を超えた絆が芽生えていた。


「もう皆ゼロ本でいいんじゃないか?」そんな声が上がる。誰もが命懸けの戦いを終え、競争意識よりも安堵を優先した。


しかし、陵雅はそれを許さなかった。


陵雅「駄目だ……!!ゲームは本気でしてえ!!」

厳人「俺も本気でしたい!!」

瀬音「ぼ……僕も!!」


(陵雅:命懸けで戦ったんだ。それを『なかったこと』になんかさせねぇ。勝つ奴は勝つ。それがこの世界だ!)


皆はゲームを再開するためにそれぞれの拠点へと帰っていった。


三人が拠点に戻り、雑談している。


厳人「でもよ、結局俺ら剣一本も奪えてねえな」

瀬雅「そういえばそうだね……」


陵雅はニヤリと笑った。「そうだと思っただろ?実は……取ってきたぜ!!」


厳人「はっ!?」

瀬音「えっ!?」


陵雅「皆を助けに行ってた時、蒼を倒しながら、剣も奪ってきたんだ!!」


(厳人:こいつ、戦闘中にそんな芸当を!?)

(瀬音:陵雅らしい……でも、すごい!)


厳人「俺らの勝ちじゃないか?」

陵雅「ああ!!」



その頃、山から遠く離れた護界院。


御頭様「今日この日にまさか来るとは思いもしませんでしたよ」

師匠「今日があの日だとは分かっていましたがいち早く伝える必要があると思いまして」


御頭様と師匠(元貴族)は、護界院の奥深く、誰もいない場所で密かに話し合っていた。


師匠「ご存じだと思いますが、陵雅の事です」


御頭様「あの薬を飲まずに黒血を発現しました。非常に驚きました。現貴族に侑という者がいますが、彼と同じく特異な体質でしょう」


師匠は首を振る。「ですがそれだけではないようで。昨日から今朝まである事情があり会っていました。その際、中級蒼と遭遇し、上部の一人と共に倒したらしいです」


御頭様「そのようなことが!一般的に中級を倒すのは上部五名程必要だと思いますが。その上部は相当優秀なんですね」

師匠「いえ。その上部は上部の中でも強さは真ん中程です」


御頭様は顔色を変えた。「では、どのように?」


師匠は声を落とす。「戦闘中に陵雅は頭痛と映像に見舞われたと。その後、仲間や敵(中級蒼)はまるで気配を感じなくなったらしく、陵雅が倒したと」


御頭様「まさか……気配を消せると?」


師匠「まだほとんどわかっていない状態です。正直、私でも何がどうなっているのか分からず……もしかすると、良くか悪くかこの件が今後の未来を大きく変える可能性も」


師匠は深々と一礼し、立ち去った。


御頭様は一人残され、静かに呟いた。「……気配……か……」



山の拠点に戻った陵雅、瀬音、厳人の三人は、剣を奪うゲームは再開したものの、疲労と安堵でまったりとした時間を過ごしていた。夜も更け、静寂が支配する山中。


その時。


どこからかは分からないが、微かな、切羽詰まった声が聞こえてきた。


??「はー……。はー……。おーい……。助けて……くれ……。お願いだ……」


その声は弱く、しかし、助けを求める真の悲鳴だった。

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