裏仮三人組試験
翌朝。陵雅と瀬音は、護界院の朝の集合場所へと向かった。
陵雅「朝集まる所、ここだっけ?」
瀬音「そうだね!行こうか!」
集まった訓練生を前に、担当上部の**上時と五月女**が立っていた。
上時「訓練生の皆さん。朝なので何か話すべきではありますが、話すことも無いので話しません」
(陵雅:だから何なんだよ、それ)(瀬音:やっぱそうなんだ)
上時「今回の訓練はゲームをしてもらいます。簡単にいえば、剣取りゲームです」
ルールは単純だ。三人一組で山に入り、翌朝まで過ごす。拠点に刺した剣を奪われたら負け。奪った剣の数で勝敗が決まる。ただし、拠点に刺した剣は使えない。
「要するに、剣を奪えばいいんだよな」と陵雅。
「なあ、そこ入れる?」一人の訓練生が声をかけてきた。
彼は**一ノ瀬厳人**と名乗った。
「俺は陵雅だ!よろしくな!」
「僕は瀬音!よろしくね!」
「あぁ!」
五月女の合図で、訓練生たちが山に入っていく。
陵雅「俺らも入ろうぜ!」
三人は山の中に入り、剣を刺した。(ドスっ!)
厳人「そういや、聞いた事あるだけで本当の事だと限らないんだけどよ、このゲーム、裏仮三人組試験が行われてるらしいんだよ」
陵雅「裏仮三人組試験?」
厳人は語る。「夜になれば焚き火に下級蒼が寄ってくる。訓練生は蒼を倒す力も、黒血も使えない。拠点にある剣も使えない。その中でどう戦うか、上の人達が見てるらしい」
陵雅は目を輝かせた。「それでもこれはゲームだ!俺は優勝を狙うぜ!」
瀬音の提案で、役を分担することになった。偵察、守備、攻撃。
厳人は訓練生五ヶ月で黒血は使えず、蒼との戦闘経験なし。
瀬音は訓練生一ヶ月で黒血は出せるが武器にはならず、上級・下級の戦闘経験あり。
そして陵雅は、訓練生三日目で黒血はたまに急に出るというチート体質、上級・中級・下級全て戦闘経験あり。
瀬音「皆んなの強さが分かったから考えてみたけど、僕が守備役、厳人が偵察役。陵雅が攻撃役でいいかな」
厳人「待て。俺も攻撃してぇ!」
陵雅「俺も攻撃がしてぇよ!」
瀬音は仲裁した。「朝から夜は陵雅、夜から朝は厳人にしたら?」
陵雅と厳人はそれで合意し、陵雅は他の拠点を探しに、厳人は偵察に向かった。
瀬音(厳人があの時言った噂……本当だったらやばいな……一応どうするか考えとこ)
山中を歩いていた陵雅に、一人の訓練生が駆け寄ってきた。**山下陸**だ。
陸「俺の仲間が木に足を挟まれて動けないんだ!助けてくれ!」
陵雅「俺は陵雅だ!はやく行かねぇと!どこだ!」
陵雅と陸は走っていき、挟まれた仲間、**朝野健太**にたどり着いた。
「はーっ、はーっ、やっと持ち上がったな」
「はーっ、はーっ、だな、やっと持ち上がったぜ」
思った以上に重い木をどかすのに、夕方までかかってしまった。剣は一本も奪えなかった。
陵雅は拠点に迷いながらも戻っていった。
拠点に戻ると、激昂した厳人が待ち受けていた。
厳人「わりぃ、まだ一つも無ぇんだ」と報告した陵雅に、厳人は声を潜めた。「お前、こっちこい」
厳人「役決めの時言ったよな。俺だったら沢山とってこれるって!わざとだろ」
陵雅「何がだよ」
厳人「お前、サボってただろ。いや、お前だけじゃないな。瀬音もだろ」
その瞬間、陵雅の怒りが爆発した。
ガシッ!!
陵雅「てめえ!!仲間の事を疑うんじゃねえ!!」
厳人は陵雅を殴り倒し、馬乗りになって殴り続けた。
陵雅は叫んだ。「俺の事はどんだけ疑ってもいい!!けど瀬音の事は疑うんじゃねえよ!!」
陵雅も殴り返し、二人は立ち上がり、殴り合った。
その時、厳人が殴る手を止め、どこかを見た。「おい……なんだあれ……」
陵雅「てめえどこ見てんだよ!!よそ見してたら殴られんぞ!!」
厳人「周りだよ……見ろよ周り!!」
周囲には、下級蒼が大量に集まっていた。喧嘩の大声に誘き寄せられたのだ。裏仮三人組試験の裏の真実が、現実となった。
厳人「なんで、蒼が……!俺、蒼なんて戦えねえぞ!」
陵雅「そんなこと言ってる場合かよ!!倒さねえとやられるだけだぞ!!」
(陵雅:俺は蒼を倒せるが厳人は倒せねえ……。でも守りながら戦えるほどの量でもねえ……)
厳人が背後を蒼にとられ、やられそうになる。
「おっりゃああーー!!」
陵雅は間一髪で厳人の背後の蒼を倒した。「ぎりぎり間に合ったぜ」
厳人「なんで俺の事を助けたんだ!さっき俺お前の事を疑ったんだぞ!!」
陵雅「仲間だからだ!!」
(厳人:おまえ……)
再び蒼が襲いかかる。
今度は陵雅が背後をとられた。「ちっ……!!」
(陵雅:ここで終わりかよ……)
「おっらあー!!」
陵雅が終わりを悟った瞬間、厳人が蒼を倒した。「おまえ……」
厳人は言った。「お前がやられたら困る……」
陵雅「厳人……。まだ動けんな。蒼の数が多すぎる。俺はこっちを倒すからお前はあっちを倒せ。この量……どっちか一人でもやられたら負ける。背中は任せたぜ」
厳人「ああ……!!当たり前だ!任せろ!!」
二人は背中を預け合い、必死に戦い、全ての蒼を倒し切った。
陵雅「そういや思ってたんだけどよ。お前が朝言っていた噂、この事なんじゃねえか?」
厳人「俺も同じことを思っていた。だとしたら今、瀬音のいる拠点って……!」
二人はすぐに瀬音のいる拠点に向かった。
瀬音「一体どれだけいるんだ!!」
瀬音も一人で大量の蒼と戦い、苦戦していた。
陵雅「こんなにいんのかよ……」
厳人「思った以上にいるな……」
陵雅と厳人が加わり、三人は協力して蒼を倒し切った。
瀬音「陵雅!厳人!いたんだ!!」
陵雅「瀬音!遅くなってわりい!」
瀬音「だとしたら、今焚火している他の訓練生の拠点も……」
陵雅はすぐさま決断した。「俺は蒼と十分戦えるから一人でも大丈夫だ!だから偵察してた厳人と瀬音で回ってくれ!他の拠点の場所を知ってるが蒼を倒せない厳人と、蒼を倒せる瀬音がいれば大丈夫だろ!」
厳人「でももし俺らが行ってる間に他の拠点の奴らが俺らの剣を奪ったらどうすんだよ」
陵雅「そんなもん大丈夫に決まってるだろ!」
厳人「なんでそんなことわかるんだよ」
陵雅「そんなもん勘だ!」
厳人「勘!?嘘だろ!?」
瀬音「陵雅の勘なら信じられるね!」
厳人「どこに信じられる要素があるんだよ!」
三人は他の訓練生の拠点へと向かった。
陵雅は、ある拠点に着いた時には既に訓練生が大量の蒼にやられかけているのを目撃した。
陵雅「大丈夫か!」
助けた訓練生、**健介**は驚愕する。「陵雅、ありがとな。俺は健介だ!けど今はゲーム中だぞ?助けていいのか?敵なんか」
陵雅「今皆の拠点に蒼が来ている!だから敵味方関係ねえ!」
健介の仲間は朝から帰ってきていないらしい。健介も他の拠点を助けに行くことを決意した。
一方、瀬音と厳人も他の拠点に到着していた。
瀬音「こんなにひどいことになっているなんて……」
厳人「思ってた以上にやばいな……」
彼らもまた、訓練生祥吾、和孝、**健太郎**らの窮地を救った。
そこに陵雅と健介が合流した。
陵雅「厳人、聞きたかったんだけどよ、あとどれくらい拠点はあるんだ?」
厳人「だいたい八十くらいだ!」
瀬音「そんなに……」
陵雅「そんなあるのか……さすがに多すぎる……」
健介「そんな多かったら、助けたくても助け切れない……」
祥吾「どうするんだ……」
瀬音は冷静に、そして力強く言った。「一つ考えていたんだ」
陵雅「どんな方法なんだ?」