気配なき一撃
陵雅が気づいたときには、目の前に蒼の黒血の攻撃が迫っていた。
(陵雅:動けねぇ……)
映像の衝撃と頭痛で体が硬直する。攻撃が当たる直前、寸でのところで、氏原が叫びながら飛び込んできて、俺を突き飛ばしてくれた。
「すまねぇ、助かった……」
「はっ、はっ。あっぶっねぇ……ギリギリだった……。陵雅!大丈夫か?」
「あ!大丈夫だ。怪我はねぇ!」
氏原は俺の顔を見て、目を見開いた。「怪我じゃねぇよ!蒼に吹っ飛ばされて起き上がった後、急に頭抑えながら苦しんでただろ!どんだけ声かけても気づかなかっただろ!蒼の攻撃が来ても気づかなかったからギリギリだったぜ。てかお前(陵雅)、何涙流してんだ?」
俺は目元を拭った。本当に涙が出ていた。(陵雅:涙……?なんで涙が出てんだ?頭痛といい、映像といい、涙といい、なんなんだ……)
今はそれどころではない。
「大丈夫だ!」俺は戦うことに集中した。
その時、急に胃がひっくり返るような感覚が襲った。「うっ!」
(陵雅:なんだこれ……気持ち悪い)
氏原「今度はなんだ!?本当に大丈夫か?いいから休んどけ!俺がやる!」
俺は深呼吸を繰り返した。「はー……はー……」吐き気はマシになった。
「いや、大丈夫だ!俺もやる!あんた(氏原)だけじゃ勝てねぇだろ!」
(氏原:こいつ(陵雅)、本当に大丈夫なのか?だが俺一人で勝てねぇのも事実だ。信じるか)
「わかった。夜が近いからさっきのやり方ですぐに終わらせんぞ。片方が突っ込んで蒼の集中を惹き、攻撃が一人に傾いたらもう一人がそこに思い切り突っ込む」
「どっちがおとりになるんだ?」
「おとりは俺がやる。俺が攻撃に耐えてる間に陵雅は突っ込め。生きて帰んぞ!」
「ああ!」
「おっりゃあー!!」
氏原は叫びながら蒼に突っ込んで行った。
(中級蒼:これは、さっきのやり方か。まぁいい、少し遊んでやるか)
蒼は氏原に攻撃を集中させる。
(氏原:これなら行ける!!)
氏原は、攻撃を避けたり防御したりしながら、突っ込んでいく。
(氏原:陵雅の気配がねぇ。まだ突っ込んでねぇのか?とにかく耐えるか)
(中級蒼:あいつ(陵雅)の気配がない、なんだ、さっきと同じ計画だと思ったが違うのか?それともあいつ(陵雅)、びびって逃げたのか?)
氏原も中級蒼も、俺の気配を全く感じていなかった。
(陵雅:なんだ?突っ込んでんのに攻撃が一つもこねぇ。あいつ(氏原)に集中してるとしても、少しはこっち(陵雅)にもくんだろ。まぁいいか、お陰で近づきやすい)
(陵雅:着いた……)
気づいたとき、俺は蒼の背後に立っていた。
氏原「はっ?」
(氏原:なんで……?いつのまに……?気配も何も感じなかった……)
氏原は、目の前に陵雅がいることに気づき、驚愕で動きが止まった。蒼も氏原の視線に釣られ、視線の先を見た。
(蒼:!!。なんで……!)
中級蒼は驚きで硬直した。
「おっりゃああー!!」
俺は、蒼が驚いている一瞬の隙を突き、蒼の顔を正面から思い切り拳で殴った。黒血は纏えなかったので、ただの素手だが、その一撃は蒼に届いた。
蒼「ぐはっ……」
(蒼:くっそぉー!!)
蒼は即座に黒血で長い剣を作り、俺と氏原を同時に切り飛ばした。
「ぐはっ!」
「ぐっはっ!」
俺たち二人は、再び草原を吹っ飛んでいった。
「いってって……」
(氏原:そういやさっきあいつ(陵雅)、吹っ飛ばされた後に頭抱えて変な感じになってたよな……。もしまた起きたら今度こそやられる……。あいつ(陵雅)の所に向かわねぇと!)
氏原は立ち上がり、すぐに俺の元へ向かった。
「大丈夫か!」
「大丈夫だ!」
「さっきみたいに頭抱えて変な行動するかと思ってひやひやしたぜ」
「さっきは俺もよく分かんねぇけど映像が見えたんだ」
氏原は、映像のことは気に留めなかった。「映像?いや、そんな事よりさっきの何だったんだ!気配感じなかったんだけどよ!」
「俺も分かんねぇけど、気づけば蒼の後ろまで行ってたな。全く気づかれなかったから攻撃が一つも来なかった」
(氏原:もしまたさっきの感じで気配消せたら、蒼の近くまで行って倒せるかもしれねぇ。勝てるかもしれねぇ)
氏原は勝利の可能性を見出した。
一方、中級蒼は、荒れた息をしていた。
蒼「はーっ、はーっ。昔の記憶を思い出した……」
中級蒼は、俺の素手の一撃を受けたことで、脳裏に遥か昔の記憶を蘇らせていた。