陵雅と氏原の戦い‐祖の影
俺の脳裏に流れ込んできたのは、まるで誰かの人生を切り取った映像だった。激しい頭痛が視界を白く染める中、映像は続いた。
(陵雅:誰かの視点……?空を見上げている……。あ……)
見上げた空の下には、古い町並みが広がっていた。俺には正確な時代は分からないが、五十年ほど前の光景のように感じた。
その映像がもたらしたのは、深い喪失感と虚無感。全身の血が冷え切っていくような、空っぽの感情だ。
(陵雅:手だ……なんだこれ……血か……?)
視点主の両手には、ねっとりとした血のようなものがべったりと付着していた。その瞬間、映像は消えた。
(陵雅:あの映像……感情……何だったんだ……?)
すぐに、二つ目の映像が映った。また同じ人の視点のようだ。
(陵雅:男性が男性に殴られている……。殴られている男性の後ろにいる女性が、家の奥へと逃げて行った……はっ……)
玄関先のような場所。男が男を殴りつける。逃げた女性。その映像が俺にもたらしたのは、物凄い恐怖感だった。体全体が震え上がるような、圧倒的な暴力への恐怖。
映像はまた消えた。
(陵雅:あ!またか……)
三度目の映像が映った。
(陵雅:あ、さっきの男性が倒れている……。ずっと呼びかけてるが返事がない……。……)
倒れているのは、先ほど殴られていた男性だ。視点主が「父ちゃん!!」と呼びかけるが、返事はない。直感で、死んでいると分かった。
視点が動き、家の奥を探す。女性はそこにいなかった。別の部屋を探すと、見つけた。顔をひどく殴られ、変わり果てた姿だ。「母ちゃん!!」と呼びかけるが、返事はない。これも死だ。
(陵雅:あ、また消えた……何だったんだ……?)
映像はすぐに途切れ、四度目の映像が映る。
(陵雅:はっ……!……!誰か……いる……玄関のほうか……?……あいつ……!!)
俺は最初の映像と同じ、深い喪失感と虚無感に襲われた。だが、聞こえてきた男の声と、玄関にいた二人の男を見た瞬間、とてつもない憤怒感が俺を襲った。
(陵雅:こいつら、あの親を殺した奴らだ!金を奪いに戻ってきたのか!)
視点主は台所に行き、包丁を手にした。その瞬間、俺の中にとてつもない憎悪感が沸き上がった。
視点主は玄関に向かい歩いていく。
(陵雅:こいつ、視点の奴に気づいてねえ……!刺されんぞ……!)
棚を漁っていた男の背後に忍び寄り、包丁で刺した。
グチャリという音と、男性が倒れながら何かを叫ぶ姿。俺は激しい吐き気に襲われた。
(陵雅:一刺しじゃない……二回、三回……!)
その悲惨な光景。視点主が男を揺すっても動かない。死んだ。俺は、まるで自分の家族が死んだ時のような痛みと感情のフラッシュバックに襲われた。
視点はすぐに動き出した。殴った男性がいた部屋へ。
(陵雅:あいつだ……親を殺した奴だ……)
この男も背後に気づいていない。視点主は、さっきよりも深く、男を背後から刺した。
俺は再び吐き気に苦しむ。男は起き上がりながら何かを叫んでいるが、聞こえない。視点主は、男の腹にさらに二回、包丁を刺した。
俺は、その冷酷で悲惨な映像を見て、深い絶望と憎悪に囚われた。
(陵雅:また消えた……なんなんだこの映像……)
五度目、そして六度目の映像。町中を歩く視点主。周りの大人たちに見られているが、ひたすら歩き続けている。虚無感だけが残る。
そして最後の映像。山の中。
(陵雅:ここは山か……?誰だ……この人……顔が見えない……)
知らない大人が話しかけてきた。「かわいそうだ。もう帰る場所もないな。一緒に来るか?」
視線主は何も考えていなかったのだろう。「うん」と答え、その大人の顔を見上げた。
俺は、その顔を見た瞬間、怒りが全身を貫いた。
祖だ。
俺がこの世界で初めて出会い、胡散臭さと不快感を覚えた、あの男。
(陵雅:あ!また映像が消えた。何だったんだ今の映像……あいつ(祖)がいた……うっ!気持ち悪い……。刺した映像を見たからだ……やばい、変な気分だ……)
映像が消えた。激しい吐き気と、様々な感情が混ざり合った奇妙な不快感が俺の体を支配した。
その時、現実世界から声が響いた。
氏原「よけろー!!」
(陵雅:なんだ……?)
激しい頭痛と映像の後遺症で、意識が定まらない。
「はっ」
目の前には、中級蒼の黒血の攻撃が迫っていた。
(陵雅:避けられない……)
視界は、蒼の黒血に染まった。