陵雅と氏原の戦い‐頭に響く音
中級蒼により、俺たち二人は凄まじい速度で森の奥へと連れ去られていた。
(氏原:この掴んでいる黒血を放すことは出来そうだが、周りは木だらけだ。中級とここで戦闘になれば、周りの木が倒れ、下級蒼が大量に寄ってくる。そうなれば、中級との戦闘に下級も集まりめちゃくちゃなことになる。そしたら、こいつ(陵雅)を絶対に守り切れねえ)
氏原は、最悪の事態を避けるため、連れて行かれる間、一切抵抗しなかった。
(陵雅:ん?なんだ?)
(氏原:なんだありゃ?)
やがて、町の景色が見える草原の広場が、俺たちの視界に入った。
(中級蒼:ここなら殺せるな)
中級蒼は広場に出ると、足を止めた。
(氏原:止まった!今ならやれる!)
(陵雅:止まった……!)
氏原は叫んだ。「おっりゃあー!!」
中級蒼は驚愕した。(中級蒼:何!攻撃される!!くっそお!)
中級蒼は咄嗟に陵雅と氏原の二人を放した。
(陵雅:離れた……!)
(氏原:離れた……!あいつ(陵雅)をつれていったん離れるしかねえ)
氏原は俺を掴み、すぐに蒼と距離を取った。
「陵雅、大丈夫か」
「ああ!大丈夫だ!てかあいつ(中級蒼)、何者なんだ!」
(陵雅:昨日、今日で忙しすぎるだろ!つうかこいつは何者だ?どれくらい強えんだ?)
氏原の表情は険しかった。
(氏原:まずいな。中級との戦闘は経験してるが、あの時は柊と上部トップの強さを持つ勘解由小路の三人でぎりぎり勝った……。勘解由小路だけで上部三人分はある強さだ。その戦力でぎりぎり勝てた。だが今回は俺と黒血をろくに使えねえこいつ(陵雅)だけだ。逃げるべきか)
氏原が俺を見ると、俺は戦う気満々だった。
「陵雅!お前まさか戦う気なのか?相手は中級だぞ!」
「中級?なんだそれ?」
氏原は、俺に蒼の階級を説明した。
「いいか、蒼には三種類あるんだ。下級蒼の力は下級蒼単体。考えることが出来ない為人間に化けられない。そして中級蒼。力は下級蒼100匹行かないくらい。考えることは出来る為人間に化けられる」
「100匹ってすげぇな」
「ああ。そして上級蒼。力は下級蒼500匹以上だ」
俺は、中級蒼のヤバさを理解した。だが、それ以上に気がかりなことがあった。
「中級の強さは分かったけどよ、人里が近けえ、ここで倒さねえと被害が大きくなる!最低限の被害で済まさねえといけねえだろ!それに俺らは護界衆だ!」
(氏原:前回の中級戦よりは俺は強いはずだ。あいつ(陵雅)はさっき下級の十五匹を簡単に倒していた。勝てる可能性は低いが、勝つことだけを考えて戦うか!)
その時、中級蒼が攻撃を始めた。
「陵雅!行くぞ!」
「おお!」
俺たち二人は攻撃に向かっていったが、中級蒼の速度は、昨日戦った上級蒼ほどではないにせよ、圧倒的だった。
「ちっ。やべっ!」
俺は避けるのが精一杯だった。氏原も攻撃に転じられず、防御に徹している。
(氏原:そういや今が中々無い良い機会か……?中級が二人を同時に攻撃している為、一人当たりに来る攻撃は中級蒼が出す攻撃の半分。攻めやすい。ここで俺が攻める事で蒼の注意を引けたら、攻撃が俺に全部来る。それにより攻撃が少なくなった陵雅が突っ込めば、今度は陵雅に注意を引かれ俺への攻撃は少なくなる。少なくなった時に一気に突っ込めば蒼の近くに行ける!陵雅が近づけても黒血を使えないから倒せない。だとしたら突っ込むのは攻撃が少ない今しかねえ)
氏原は叫んだ。「おっりゃああー!!」
氏原は防御を捨て、中級蒼に向かって突っ込んでいった。狙い通り、中級蒼の注意は氏原に集中した。
(蒼:何!)
(陵雅:これなら突っ込める……!!)
俺への攻撃が少なくなった。
「おっらああーー!!」
(陵雅:蒼の黒血の速度……あの人(氏原)でも防御が精一杯だ……。勝てんのは今しかねえ!!)
俺は氏原が作り出した一瞬の血路に、迷わず飛び込んだ。
(氏原:この気配……あいつ(陵雅)が来た……!!)
氏原は、俺の突進を助けるため、渾身の力を込めて中級蒼の攻撃を耐えることにした。
(陵雅:ぜってえ倒す!!)
俺がそう念じながら攻撃しようとした、その瞬間――俺の手に、またもや黒血の剣が発現した。
「出せた……!」
(氏原:あいつ(陵雅)……黒血出せてるじゃねえか!)
氏原が驚くのをよそに、俺は黒血の剣を構えて中級蒼に突っ込んだ。
(蒼:こいつ(陵雅)、そんな攻撃で俺を殺せると思ってるのか!)
蒼は近づいてきた俺に気づくと、形成を立て直した。
ズバァン!
黒血の剣を出し、俺の体を思い切り切り飛ばした。
「ぐはっ!!」
(陵雅:痛ってえ!)
俺は、勢いよく広場を吹っ飛んでいった。
氏原「陵雅―!!」
氏原が吹っ飛んでいった俺に目を奪われた、その一瞬。
「ぐはっ!!」
氏原は蒼の攻撃に気づかず、思い切り吹っ飛ばされた。
俺は吹っ飛ばされた後、すぐに起き上がった。「いってえー!!」
「いてっ!」
(陵雅:なんだ……?頭痛がする……)
俺は、今まで感じたことのない強い頭痛に襲われ、頭を押さえた。
(陵雅:なんだ……?これ……)
俺の脳裏に、あまりにも衝撃的で、異質な映像がフラッシュバックした。