氏原の穴場(修行場)
「その穴場、よく行くのか?」
俺の問いに、氏原は煙草でも吸うかのように、懐かしそうに答えた。「訓練生時代はよくゆっくりしたくて行ってたが、上部になったら忙しくて中々いけなくてよ、久しぶりだな」
「訓練生時代からあの人(柊)と仲良かったのか?上級との戦い、息ぴったりだったけどよ」
氏原は歩きながら、その出会いを語った。「柊とは、訓練生時代に今から行く景色の良い穴場で出会ったんだ。俺しか知らない穴場だと思ってよく行ってたんだが、ある日柊がそこでゆっくりしてたんだ。沢山話したら、俺が見つけるより前から柊は穴場を知っていたらしい。そしてお互い訓練生だということが分かって、柊は俺の知らない近くの広場で修行しているって言ったんだ」
話していると、山を登り始めた。
「まさかここ登るのか?」
氏原「そりゃそうだろ、そんなもんちゃんとした入り口から入る場所ならだれでも気づいて穴場じゃなくなるだろ」
そう言いながら登っていくと、少し歩いただけで、そこだけ木が無く草原が広がっていた。そこから見えるのは、息をのむほど美しい町並みだった。
「うわ、すっげえ!」
瀬音「すごい!」
氏原「そうだろ。ここでよく寝転んでんだ」
俺たちは、疲労と緊張を解き放つように寝転んだ。
「こんないい場所があるなんてな」
「これは確かに穴場だな」
「ほんとにな。疲れたぜ」
一息ついたところで、俺は昨日からの疑問をぶつけた。「そういやあんた(氏原)に聞きてえんだけどよ。どうやったら上級と戦えるくらい強くなれんだよ」
氏原は、遠くの景色を見つめながら、一瞬、柊の影を重ねた。(氏原:強くなる方法か。訓練生が師匠に頼るなんて、当時の俺には思いつかなかった。だが、俺は**模倣**で強くなった)
氏は、凡人である自分が、天才(柊)に追いつくために編み出した努力の方法を語る。
「一つ使いやすい戦術があるんだが見てみるか?」
「ああ!!」
氏原は立ち上がり、黒血を一切使わず、蒼を掴んで地面に叩きつける投げ技を披露した。
「確かにそのやり方、黒血使わずにできるな!」
俺はすぐにその戦術を試してみた。驚くほど簡単に体が動いた。
氏原「一発でできたな!すごいな!」「案外簡単だな!」
氏原は笑った。「そうだ、さっき言った柊が修行していた場所で実践してみるか?」
「ああ!」
俺たちは、近くにあるという秘密の広場へと向かった。
「すげえな、こんな広場があったのか」
瀬音「めっちゃ広い!」
「何もないと思うだろ、実はとっておきの場所なんだよ。見とけ。お前ら(陵雅と瀬音)は一切動くなよ」
氏原は、近くにあった木を一本、思い切り倒した。
ガアアアアア……
その瞬間、周囲から異様な気配が立ち込める。十五匹ほどの下級蒼が、人間を感知し、氏原の方に一気に迫ってきた。
氏原は、その大量の下級蒼を、まるで訓練用の的であるかのように一瞬で倒し切った。
「さすが上部だぜ」
氏原「この場所、木を倒すと下級蒼が大量に潜んでてよ、実践訓練としては最高の場所なんだよ。他誰も知らねえし、内緒な」
俺の目の輝きは抑えられない。「まじか!俺もやりてえ!!」
氏原「いいぜ、やるときに合図してくれたら木、倒してやるから言え」
「ああ!」
俺は一回目の訓練で、十五匹の下級蒼を容易に倒し切った。
「これ!**楽しいな!**もう一回頼む!」
氏原は再び木を倒した。俺は二回目の訓練で、蒼を倒しまくった。
しかし、戦っている中、背後に冷たい視線を感じた。俺が気づいたとき、既に何者かが立っていた。
(陵雅:下級蒼とは違う、考える生き物の気配だ。だが、上級蒼のあの重圧感は無い……)
氏原は、その気配から中級蒼だと見抜いたが、なぜこの場所にいるのか動揺していた。
瀬音が気づいた瞬間、氏原が動いた。黒血の剣を振るい、中級蒼を遠くへ攻撃し飛ばす!
「騒がしかったから見に来ただけなのに、いきなり攻撃されるなんておかしいですよ!」
中級蒼は、なおも人間に化けた姿を保っていたが、その目の光は、氏原と俺を獲物と定めていた。
(中級蒼:あいつ(瀬音)は弱そうだから後でいい。この二人(陵雅と氏原)をまず殺そ)
中級蒼は、俺と氏原に向かって凄まじい速度で突進してきた。
「なんだ?」
次の瞬間、中級蒼は黒血で俺と氏原の服を掴み、信じられない速度で、森の奥へと連れ去っていった。
氏原「くっそ!放せねえ!」
その光景を見ていた瀬音は「陵雅―!」と叫ぶも、その姿はすぐに木々に隠れて小さくなっていった。
中級蒼が二人を連れ去る際、通った道筋の木々が次々と折れる。その音と衝撃に引き寄せられ、大量の下級蒼が、一人残された瀬音の所へ迫ってきた。
瀬音「え、嘘!?」
俺は、仲間を助けようとしたのに、今度は俺が、訳の分からない敵に連れ去られた。そして、瀬音は……