絶体絶命
(柊:くっそぉ!!……)
(氏原:ちっ。こんなとこで終わんのかよ……)
氏原が死を悟り目を瞑ったその瞬間、俺の体が動いていた。
「負けんじゃねぇよっ!!」
瀬音が手を伸ばしたのが見えたが、もう届かない。俺は、思考を挟むことなく、氏原の顎に思い切り拳を叩き込んだ。
ドゴン!
それにより、俺と氏原は共に少し遠くに吹っ飛んだ。
氏原は顎に走った物凄い衝撃に驚く。「いってぇー!!ってなんでテメェがここにいんだよ」
氏原は周りを見渡すと、さっきいた場所と違う場所にいた。(まさか、こいつが助けてくれたのか?)
「怪我はねぇか、わりぃ助かった」
「ギリギリ間に合ったぜ。怪我はねぇかって。怪我してんのはあんただろ」
「だな。流石に上級蒼はてこずるな、効かなすぎて心折れかけてたわ。あいつ(柊)ももう限界近そうだしな。お前動けるか?」
「お前じゃねぇよ、陵雅だよ。動けるに決まってんだろ、あんたのせいで何もしてねぇんだからよ」
俺の生意気な物言いに、氏原は笑った。「わりぃな陵雅。俺もあいつ(柊)ももう限界が近い。極力助けるが、体力的に助け切れるかわからねぇ。やるか?」
「当たり前だろ、最初からやる気満々だぜ」
「よし、ここからは3人で行くぞ。多分もう戦闘では厳しい。あの周りより少しでかい木、見えるか?」
「あぁ、見えるぜ」
氏原の瞳に、勝利への冷徹なプランが灯った。
「俺とあいつ(柊)で最速で腹を切りに行く。そして一直線にあの木まで進む。最後の力を振り絞って木に押さえつけて腹を切る。陵雅の出番は木に押さえつけた後だ。最悪拳でもいい。俺らで切ろうとしている所に来て、一緒に腹を攻撃しろ。行けるか?」
俺は迷わなかった。「わかった」
遠くから瀬音は、ただただ俺に感心していた。(あの人、本当に訓練生なの……?)
氏原は柊とアイコンタクトを取ると、二人は同時にすばやく上級蒼に向かっていった。その速度は早すぎて、俺の周りは一瞬風を切り、その迫力に魅了されると同時に、二人の体力と覚悟の多さに衝撃を受けていた。
上級蒼が気づいたときにはもう、腹に黒血が触れていた。
「なんだ?すご、まだこんなに力あったんだ」
一直線に進み、すぐに上級蒼は木にぶつかった。
俺は全速力で追いつき、黒血を纏っていない拳を思い切り上級蒼の腹にぶつけるが、なかなか腹は切れない。柊と氏原は、もう体力が切れかけている。
「瀬音ぉ―!」
俺は、とっさに瀬音の名を大声で叫んだ。
瀬音の脳裏に、俺の言葉が響く。「でもよ、皆んなを助けるために護界院入ったんだろ?」
瀬音は感化され、恐怖を振り払い、拳で上級蒼の腹を殴った。
全員「おおー!!!!」
俺たち四人の力が合わさり、上級蒼を支えていた木が耐え切れなくなり、折れた。
全員が倒れたが、上級蒼は立っていた。しかし、四人の努力の甲斐があり、腹の傷はかなり大きくなり、蒼もダメージを負っていた。
上級蒼「あぶない、あぶない。結構やるじゃん、まだまだって思ったけど、もうさすがに無理そうかな」
俺と瀬音はまだ動けたが、柊と氏原はもう限界を超えていたため、起き上がれなかった。
上級蒼「この二人(柊と氏原)はもう動けなさそうだし、後でゆっくり殺すとして、君たち(陵雅と瀬音)しか動けそうにないし、君(陵雅)から殺そっかな」
そう言い、上級蒼は俺に飛んでくるが、俺には早すぎて逃げる間もなかった。
(くっそー!!)
瀬音も絶望する。(駄目だ、もし陵雅がやられれば勝ち目がない。でも他に守れる人なんていない……、くっそー!)
瀬音は、俺の元へ走り、俺を押し飛ばした。
俺は呆然とする。(なん……で……)
瀬音の目の前には、上級蒼がいる。
(瀬音:ここまでか……)
陵雅「瀬音―――!!!!!」
瀬音には、「瀬音」と叫ぶ俺の姿が見えた。
(瀬音:僕も君みたいになれたかな……)
瀬音は、**「誰かを助けるために動く」**という、人生で最も勇敢な行為を成し遂げ、死を悟った。
その瞬間、いきなり物凄い砂嵐が起き、すぐさま視界が見渡せなくなった。
(陵雅:なんなんだよ……、またなんか来んのかよ……)
この砂嵐は、俺の無力さを笑っているのか?
俺は、瀬音という新たな犠牲の上に、またも生き残ってしまった。