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第1話「人工出産時代の奇跡、自然出産という天然記念物」

2222年の未来、日本は人工子宮による人工出産を中心とした社会で活気にあふれていた。

そんな中で、花凛は自然出産という、まるで人間の天然記念物のような存在として誕生した。


街角には学習施設やアクティビティ施設が整い、子どもたちが走り回る声や親たちの笑い声が響く。

通りすがるロボットが荷物を運び、AI案内が軽やかな声で道を知らせる。

医療施設や学校のスタッフも手際よく動き回り、街全体が生き生きとした生活感に満ちていた。


しかし、この繁栄の裏には、かつて人口減少に悩み、働く世代が社会保険料や税制の重い負担に苦しんだ時代があった。

人工出産技術の普及が遅れていたら、社会は支えきれずに崩れかねなかった。

今から約200年前の2025年、日本では少子高齢化がすでに深刻な問題となっていた。

出生率の低下と高齢化の進行により、総人口は減り続け、約200年後には約7,000万人にまで落ち込むと予測されていた。

当時の政府は、税制や社会保険制度の維持に苦心していた。働く世代にのしかかる負担は、相当なものだった。


約120年前の2100年、日本は さらなる少子高齢化の危機に直面していた。

出生率の低下と高齢化の進行が重なり、社会を支える若手世代への負担は増す一方だった。

もし人工出産技術が十分に普及していなければ、高齢者を支えきれない状況が続いていた。


ところが、2100年代後半から2200年代にかけて、人工出産技術が急速に発展・普及する。

全体の約9割を占めるまで広まったことで、子どもたちの人口は急増し、若手が高齢者を支える負担も大幅に軽減された。

その結果、減少し1億人を下回った人口は再び増え、2222年の時点で総人口は 1億人を超えるに至った。

政府の政策と技術革新により、かつての少子高齢化社会の影は消え去った。


そして2222年、舞台となるこの社会は、人工出産を中心とした子どもたちの活力に支えられ、かつてないほど活気にあふれていた。

人々の生活は合理化され、子どもたちは最新の教育・健康管理のもとで育つ。

街角には学習施設や子ども向けアクティビティの施設が整い、若い世代が街を彩っていた。



2222年2月22日、午前2時22分。病院の静かな個室に、かすかな泣き声が響いた。

花凛が初めて世界に声を上げた瞬間だった。


祖父は、満面の笑みで両手を挙げる。「ばんざーい! ばんざーい!」


母は出産直後、疲れ切っているはずなのに、まだ微笑みながら花凛を抱きしめた。

「すごいゾロ目ね……エンジェルナンバー。きっと、いいことがたくさん起こる子になるわ。言霊、言霊♪」


父の腕に抱かれた花凛の兄・楓真も目を覚まし、眠そうな目で花凛を見つめた。

祖母は、そばで静かに見守る。


母は優しい声で言った。

「楓ちゃんも触ってみる?」


楓真は少し緊張しながらも、花凛の小さな手を握った。

母は、にこりと微笑み、花凛の頭をそっと撫でる。

「ママ、ちょっと寝るね…」


しかし数分後、母の様子が急変した。顔色が変わり、呼吸が荒くなる。

「ママ、さっきまで元気だったのに…!」と楓真は青ざめた声を上げる。

祖母は、すぐに楓真を抱きしめ、落ち着かせながら母を見守る。

父も手早く医療スタッフを呼ぶ。

医療スタッフが駆け寄るが、母は静かに花凛の方に手を伸ばし、力なく息を引き取った。


「ママぁ……!」

祖母の胸に顔を埋めた楓真は、堰を切ったように泣き出した。


父は唇を噛みしめ、声も出せずに妻の手を握り続けた。

祖父は、父の肩に優しく手を添えた。


——死は突然訪れるものだが、それだけ自然出産にはリスクがあるということかもしれない。


家族は言葉を失い、花凛の小さな命の尊さを胸に刻む。

緊張感が病室を包む中、花凛の小さな泣き声と、楓真のすすり泣きだけが響き続けた。


花凛は、その日、生まれたばかりの小さな手で、家族という大きな世界の一員となった。

母の勇気、父と兄の優しさ、祖父母の見守り——その全てが、花凛を特別な存在にしていた。

そして、この小さな命が生まれた世界には、まだ誰も知らない光と影が待っていた。


未来社会の光と影は、人工出産によって形作られた若い命たちの中で、静かに、しかし確かに動き始めていた。

貴重な時間を割いて読んでいただき、ありがとうございました!

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