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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

赤い空

赤い空に神はいるのか

掲載日:2025/08/02

 教会で、祈りをささげる。

 手錠のまま、神に祈る。

 出撃しても戻ってこられるように、と。


「熱心ですね、アンドラス41」


 神父が、祈りを終えた後自分に話しかけてきた。

 もっとも、神父はここから脱走しないための監視役の兵士なわけだが。


 アンドラス41、それが自分に与えられた今の名前だ。AIでつけられた、適当なコードネーム。

 強盗を犯した自分に待ち構えていたのは、ワイズを巡る戦争への参加。

 だが、いざ戦場に出ると、死にたくないという一心から、そこで行われていたミサに参加し始めた。


「形式だけ、かと思ってたんだがな」

「意外に本物ですよ、効果は。神へ祈るというだけでも、心が晴れますから」


 神父が、微笑みながら言った。

 確かに、時々効果は本物かもしれないと、思う時がある。


 実際自分は、すべての戦地の中でもトップクラスの死傷者が生じるこの激戦区でも、無傷で生きている。


 見せかけの傲慢に踊らされて滑稽だなと、過去の自分が笑う夢を、何度も見る。

 その時の過去の自分は言う。

 過去の俺は自由だぜ、と。今のお前は笑いものだ、と。今更神に祈るのか、と、


 散々夢で聞いた言葉だ。

 その声は、ミサ後でも、なお消えることはない。


 だが、同時に血のように赤い十字架と、血のように赤い天井を持つ礼拝堂も告げている。

 祈り続けている限り、生きていける、と。


 周囲には同じように囚人兵になって、ミサに通い詰める者が多数いる。

 だが、その顔触れは、二年前とはだいぶ変わった。

 死んだ者が、ここは多すぎる。


 だが、その都度思うこともある。

 俺は神に守られている、と。


 そのこともあり、順調に刑期も減っている。

 生きてシャバに戻るのも、不可能ではなくなってきている。


 そしてミサが終われば、また出撃だ。

 礼拝堂を出ると、一気に空気が変わったのを感じる。


 戦場のにおいを、どこかで感じるのだ。

 専用のパイロットスーツに着替えた後、アンドラス41は自分の愛機に乗る。


 MAマルスアーマー『ベリアル』。それが自分の愛機の名前だ。もう乗って、二年になった。

 重装甲と高機動を両立させるために作られた大型の実験機だったものを改造した、黒いMAだ。


 ベリアルに乗り込むと同時に、首筋にワイズが撃ち込まれる。

 心拍数三〇〇。

 何度か、それで心臓が破裂した奴を目撃したが、出撃五〇〇回以上していて、未だにアンドラス41は破裂したことがない。


 実際、今隣のMAに乗り込んだ奴は生体反応が消え、機体がダウンした。心臓が破裂したようだ。

 それを見て、ますます思う。


「やはり、俺には神が付いている」


 そう呟くと、ベリアルはカタパルトデッキに運ばれていく。

 カタパルトデッキにつくと同時に、ベリアル背部のサブアームが展開し、デッキから伸びるアームがベリアルに武装を付けていく。


 肩に高耐久型電磁シールドとミサイルランチャー、大型レールガンをサブアーム含めて四本、脚部には多弾頭ミサイル発射ユニットを二個。

 これだけの重武装が、ベリアルには許されている。

 なぜなら、この機体は今回の作戦の要だからだ。


『では、クソッタレ共、最終ブリーフィングだ。今回の目標はエリアD18に設置された施設の壊滅。ただし施設には遠距離砲撃可能なワイズカノンが設置されている。それを避けながら向かえ。殲滅作業は任せるぞ。以上だ』


 クソッタレはてめぇもだろ、という言葉を、アンドラス41は飲み込んだ。

 この基地の司令官の口ぶりはいつもこうだ。安全圏でこちらを見下している。

 そういう奴には鉄槌でも下ればいいのにと、心底思う。


 そう思った直後だった。

 警報が鳴り響く。


 敵が、打って出てきた。

 敵MA。数は十機ほど。

 迎撃に出るしかない。


「ちぃ、ベリアル、出るぞ!」


 そう言った直後、襲い来るG。

 背部にマウントされたこの大型機を操るためのブースターが、一斉に点火して、機体を加速させた。

 ベリアルが、基地から射出される。すると、それに追随する形で数機の味方MAが出てきた。


 今日もまた、血のような赤い空が広がっている。

 空戦装備が施された敵MAにも、同じように囚人兵が乗っている。


「おめぇらに、神はついてんのか?」


 そう言ってから、アンドラス41は眼を動かして、敵をロックする。

 四機。それぞれバラバラの方向にいる敵MAを、レールガンで一斉に射撃した。

 全機が、コクピットを貫かれる。


 ベリアルは元から金のかかった機体だ。普通のMAとは格が違う。

 そして何より。


「俺様には神に守られてんだよ。神のついてねぇ虫けらが何をしてこようと無駄だ」


 これだ。

 自分には神の加護がある。


 その直後だった。

 後方で爆炎が上がった。


 基地にミサイル直撃。

 見ると敵MAが、カタパルトの射出口に大型ミサイルを撃ち込んだようだ。

 しかもそのカタパルトは、自分が出た場所だ。


 やはり自分は神に愛されている。

 それとも、別の理由があるのか?


 それを考えると同時に、そのミサイラーへレールガンを放って、コクピットを撃ち抜いた。

 他の味方機が、残存している敵機を落としていた。


 しかし、残っているのは、自分ともうあと二機だけ。

 直後、礼拝堂にいた神父の乗っている味方機から通信が入る。


『基地は壊滅、司令部応答なし。指揮官死亡、残存兵力は私たちだけです。しかし、脱走は許されません。さて、あなたならどうしますか?』


 解答は、決まっている。


「このまま敵の基地を落とす。味方に援軍の暗号通信を送って、俺たちを回収してもらうしかねぇだろ。俺だって生きてシャバに戻りてぇからな」

『いいでしょう、模範的解答です。アンドラス41、あなたならどうしますか?』

「増援が来る前に基地をつぶす。全機最大速度で基地を襲撃する。行くぞ」


 そう言ってから、機体を敵基地へ加速させた。

 数キロ進んだ直後、前方より高エネルギー反応。


 ワイズカノンが射出されたようだ。

 その名の通り、ワイズを出力源とし、高濃度に圧縮されたワイズを放つエネルギー砲台。

 それが、あの基地を攻略するうえで一番難儀な武装だ。


「散回!」


 言った直後、後方にいたもう一機の囚人のMAが、ワイズカノンの餌食になった。

 血のように赤いエネルギー体が、MAを貫通した。

 完全に機体が融解し、爆発が起こった。囚人の断末魔の叫びすらない。


 一気に、ベリアルを加速させた。

 あの神父の機体はスナイパーライフルのみだが、付いてきている。

 直後、ワイズカノンの再チャージが行われたことをアラートが知らせてくる。


「ち、始まったか」

『あのワイズカノン、恐らく放った後はエネルギーもしばらく空になるはずです。私が狙撃して仕留めます。あなたはベリアルの出力を上げて、エネルギーシールドであれを防いでください』


 なるほど、上手いこと考える。

 確かに、ベリアルなら防げる。

 もっとも、心拍数を上げれば、だが。


 MAはワイズがパイロットに注入されればされるだけ出力が上がる。

 となってくれば、ワイズをより注入するよりないだろう。


 コンソールをいじって、リミッターを外した。

 ワイズが、首筋から更に注入されるのを感じた。


 脈が、跳ね上がる。

 五〇〇、六〇〇、七〇〇。

 そこまで上がったが、苦しいという感覚もない。


 徐々に感じるのだ。


 神が、俺に宿っている。


 自分が、笑っていることに気づいた。


 愉快だ。最高に愉快だ。


 どんどん視界が赤くなる。

 まるで祝福しているようではないか。


 ワイズカノンが撃たれたのをAIが知らせた後、シールドの出力を最大にした。

 瞬間、ワイズカノンがベリアルに直撃する。


 だが、カノンの赤いエネルギーは、シールドに弾かれてそこら中に散っていく。

 眼下の荒野が、そのエネルギーで割れていった。

 直後、神父の機体のスナイパーライフルが、ワイズカノンを撃ち抜いた。


 爆炎が上がると同時に、限界に達した高耐久電磁シールドをパージして突撃。


「さぁ、皆殺しの時間だ! 神罰執行の時間だぁ!」


 高笑いをしながら、ベリアルをアンドラス41は突撃させていった。

 まずは肩と脚部のミサイルを一斉に放つ。

 ミサイルの弾道にすら、感動を覚える。


 神の一撃を、祝福している。その軌道すら、そう感じられた。


 基地のそこかしこで、火が上がった。

 ミサイルをパージして更に機体を加速。


 残存している敵をレールガンで空中から撃ち抜き続けた。


「死んだ奴だけが神に、そう、俺様という神に愛されてるんだ! 光栄に思え!」


 逃げ惑っている歩兵は踏み潰した。

 反応のあった敵は、レールガンで撃ち抜いた。


 最後の敵MAは怯えながら投降のサインを出したが、無視した。

 レールガンを捨て、安全であるように見せかけつつ、そのまま、ベリアルに搭載されている四本の腕で掴み、何度も何度も、中の生体反応が消えるまで、MAを持ち上げては地面に叩きつけた。

 そして、生体反応が消えた瞬間に、コクピットブロックを踏み潰した。


 残存兵力なし。自分達以外生命反応なし。


「なんだ、全員神に愛されてるじゃないか。俺様という神にさぁ! 愛してるんだよ、俺は! この戦場で死んでいく奴をなぁ! いくらでも神罰下せるだろ! やはり俺は神の使いなんだよ! わかるかぁ! もう死んでるからわかんねぇかぁ?!」


 高笑いを上げた直後だった。

 急に、ワイズがより流れてくるようになった。


 ワイズが祝福しているのか。

 新たな神の誕生を。


 心拍数が、一〇〇〇を超えたことをアラートが知らせたのを最後に、何かが弾けた音がして、アンドラス41の意識は、そこで途切れた。




「あーあー、最後に狂ってまぁ。自分を神だと思うとは、おこがましい」


 神父はため息を吐いた。

 ベリアルに生命反応無し。

 同時に轟音を立てて、ベリアルが地面に突っ伏す。


 アンドラス41の死体は残るだろう。

 だが、もう心臓は破裂しているし、こちらから人間の限界量までワイズを流し込む信号を送ったのだ。

 それで耐えきれたのは心拍数一〇四五。それが限界ラインだったらしい。

 所詮こんなもんかと、ただそれだけしか感情は浮かばなかった。


 直後、暗号通信。観測班からだった。


「アンドラス41の生体データは?」

『バッチリ取れてる。まったく、おめでたい奴だな。あの様子だと多分最後まで気づいてないぞ、あの礼拝堂もワイズで満たしていたの』


 呆れた声を、観測班の一人が呟いた。

 相手が打って出て奇襲されたのだけは計算外だったが、ベリアルはよく動いた。

 やはりワイズの血中濃度とMAには相関関係がある。


 自分の所属している研究機関での、単純な実験だった。

 空気中も一部だけワイズで満たし、徐々にワイズの血中濃度を上げ、脳がどれだけ変化するか、その観測のために、アンドラス41その他あの基地の連中は選ばれた。


 一際心臓が強靭だったから、アンドラス41は生きていたに過ぎない。

 それを言葉巧みに、神父は神の思し召しと言い続け、刷り込んだ。


 宗教を用いた洗脳など容易い。言葉だけで、どうにでもなる。

 すがるものが戦場の中で神しかいなければ、人は何でもすがる。そこに浸け込めばいいだけだ。


「しかし、アンドラス41は思ったより耐えたな。あいつのワイズ血中濃度は?」

『観測された最終データで、血中ワイズ濃度五六%。どうやら普通の人間だとそれくらいで精神の錯乱が起きると見て間違いなさそうだな。脳は解剖してみないとわからんが、血中のワイズの流れから前頭葉にとんでもなく流れてる。多分そこでイカレたんだろうよ』

「あー、そりゃ錯乱起こすな。しかし、結局心拍数上昇は一〇〇〇ちょっとが関の山か。こりゃ、作っておいてなんだが、ベリアルのフルパワー発揮できる機会は早々に起きそうにはないな。人間のほうが先に限界が来る」

『同感だ。どこかの研究所では、義肢を使ってより強化した奴もあるらしいぞ。メガデスってMAらしい』

「噂には聞いてる。だがそれも結局くたばってるんだろ? 意味ないだろ、それじゃ」

『だが、少なくともそいつは自分が神だと誤認するほどアホではなかったらしい』

「となると課題は精神面か。新しい実験体探すのは、骨が折れそうだ」


 はぁと、神父はため息を吐く。

 センサーから光の消えたベリアルを見て、ただ神父は思う。


 この世界に、神なんていやしないし、人間が神になることもない。


「ま、死神にはなれるかも、だけどな」


 神様ごっこは愉快だったか、アンドラス41。

 そう思ってから、ベリアルの回収を指示した。


 赤い空が広がる。

 血のような赤い空は、ベリアルの黒い残骸を照らした。


 それを見てから、神父はタバコを出して、コクピットの中で吸った。

 紫煙が、コクピットに静かに漂うと、まるでそれは、アンドラス41の霊魂のようにも見えた。


(了)

赤い空シリーズを長編としてまとめました。

長編版にはプロローグも追記しましたので、そちらも合わせてごらんください。

https://ncode.syosetu.com/n8438kw/

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