1 暴食の悪魔科 ベルの推し活【出会い】
『エスエヌエス……ですか?』
とある日の午後、突然来た仲間の電話にスマートフォンという電子機械を耳にあてながら聞く。エスエヌエス、はSNS、つまり人間が使うソーシャルネットワークのことであろう。電話越しにきこえる仲間の声は興奮していてはしゃいでいた。
ようやく部屋の片付けと整理がつき、今からアフタヌーンティーを楽しもうとしていたのに思わぬ邪魔がはいり、内心少し肩を落としていた。
「そーそー!SNSだよ!SNS!とくにXがアツい!」
カタカナ?英語文字を使う電話相手に混乱しながら頭をかいた。エックス?あのアルファベットの?とにかく、人間の社会に興味津々ですぐに影響される電話相手に少し頭を抱えながらふと思った疑問をなげかける。
『え、熱い?触ると熱いんですか?今のSNSは触れる時代なんですかね?』
「はぁ?何言ってんの?」
いやいや、『何言ってんの?』はほんとこっちのセリフである。熱いといわれて熱いのかと聞けばそうじゃないという。うん、意味がわからない。人間もそうだが、最近の悪魔は人間の若い子に影響されて変な人間語を使う。ただでさえ別世界の言語を覚えるのが大変なのに、新しい言葉を作らないでいただきたい。
その後、暫く『熱い』について議論した。どうやら興奮してる時につかうもので……ニュアンスについて教えられたが不確定なものでなんと言葉にしたらいいか分からない。要するに『このイベントすごくない?!』『このイベント盛り上がってるよ!』……みたいな。そんな感じらしい。……なら『すごくない?』『盛り上がってるよ!』でいいのでは?と思うのは私が年寄りなのだからだろうか?
「ベルさんさぁ?せっかく立派な悪魔なのに時代に適応するのおっそいよねー!」
と、電話相手の彼は私の名前を呼びながらいう。まったく、歳上に対してこの態度、どうかと思う。
『はぁ……。で?そのX?が盛り上がってるんですよね?』
さらに話を聞けばXというのはSNSのアプリのひとつでそこでよくポストをみかけるのだがそのポストが面白いとか。さらに良く聞けばその『ポスト』というのは郵便ポストではなく投稿のことだという。理解するのにかなり時間がかかったので頭を悩ませる。ほんと、私の時代では人間界のSNS学なんて無かったから用語ひとつでさえ、覚えるのに時間がかかる。
『……それで?その投稿が面白いと?』
「そうそう!人間界のあれこれや創作話。時にはイラストとかもあってさー。もう面白いってカンジ!」
『へー』
「ベルさん興味無いでしょ。」
『興味が無いと言うよりは理解にかなり時間がかかるというか。』
「ベルさんって知識がそこそこある悪魔なのにこういうところ疎いよねー、せっかく"コッチ"にいるんだからコッチの言葉を覚えないと。」
『分からないものを分からないもので教える君が悪い。』
電話の向こうの彼はバカにしたように笑う。そんな彼に少し腹を立てて、電話がかかる前に入れた冷めてしまった紅茶を口に含んだ。
『それで?どんな投稿が面白いのですか?』
「それが色々あってさー。人間の日常の馬鹿みたいな話とか。リア充らの青春だけどこっちが見てて痛々しいやつとか?人間の馬鹿らしい生態が観察できて面白いよ〜!いやー、最近人間たちが欲を満たしてんのはさぁ。SNSがあるからだよ〜バカをバカにして笑っていいねを付けるんだ。」
彼はテンション高めなのかギャハハと笑いながら言う。思わず急な甲高い声に目くじらを立ててしまう。
『だからわかんないことをわかんない事で説明して盛り上がらないでください。それに下品ですよ。君』
「う、うわー。電話越しでもわかる。不機嫌なべるさんの声ー、人間がそんな声聞いたら泣いちゃうね」
おちゃらけにそう返す彼だがどこか焦りも感じられた。……別に本気で怒ってないのだが、やれやれ、感情が最近表に出やすいのかもしれないなぁ……、なんて思いながら会話を続ける。
『……冗談は程々に。つまり、XというSNSは人間の欲、生態を知るのにいい機会だ、ということですね。』
「そゆこと」
『こんな一文で終わることを長々と……!』
「タンマタンマ!!そんなに怒んなってー。それに、Xは写真もいっぱいポストされるんだよ。ほらー、ベルさん飯食うの好きじゃん。美味しいご飯の写真とか場所とかも投稿されてるよー?」
『!へぇ……』
ちょうど腹も減っていたところだ。それに人間たちが作る食事は悪魔界でも注目を集めている。人間界のものを模倣して作った■■■■■は絶品だった。人間界ではオムライスと言う。
気づけばヨダレをボタボタと零していたのでハンカチで口元を拭く
『それはいいですね。参考資料として今日やってみることにしますよ。』
「ほんと、あんた飯のことになるとちょろいよなぁ。」
『食事は私の生きがいですから。それに"暴食の悪魔科"でもありますのでね。』
それではまた、と言葉をのこし電話を切った。『通話終了』の文字が黒い画面に出ている。もうわたしの声はレには聞こえないはずだ。
『はぁああ』
ため息をこぼし、ソファに身を投げた。今の若い悪魔の子のテンションは激しすぎて困る。いや、私も昔はそうだったのだろう。そんなふうに感じるのだから私の方が変わってしまったというのがあるのだろうか?
最近の人間界の世界の発達は目まぐるしい。人間は面白い生き物だなと思っていたが、最近はかなり成長スピードが早いと思う。そのひとつがこのスマートフォン、通称スマホ。この小さな板で電話や手紙のようなメッセージのやり取り、そして彼が今日教えてくれたような写真や動画を添付することも出来るものもあるとか。すごいとは思う、しかし、なんせやりずらい。字はちっちゃいわ細かい設定は必要とか。それなら書類を紙で送ってもらいたいものだ。
『はぁ』と、2度目のため息をこぼし。ソファに寝そべりながら『X』のアプリを何とか探し、何とかいんすとーる?することが出来た。ここまででかなり時間がかかった。さっき電話した彼に聞けばすぐに教えてくれるのだろうが、彼は私のことをよく馬鹿にするのでなるべく頼りたくない。というよりは時々する彼の甲高い笑い声が耳障りだからというのが本音である。
そこからは苦悩の連続であった。あかうんとというものを作らないといけないのだが、それにメールアドレス、電話番号入力、それのパスワード設定からなんか確認とかいう数字の入力……。場面やアプリが何度も切り替わり、頭が痛くなったが何とかようやくアプリを使うことが出来た。この面倒くさがこの前少し臆病な知り合いが教えてくれた認証セキュリティが魔界とは違いちゃんとしてると言ってたヤツなのだろう。
『ここまで来るとやる気が無くなるというか……』
機能をちゃんと堪能していないのに、すごく疲れた。この面倒くさを突破してまでこれをやりたいなんて思わないのだが、、。
不慣れな操作で画面を下から上に動かして人間の発言、いや、ポストを見るというのが正しいのだろう。
ポストには文字や画像が貼られていた。景色の写真、猫の写真、『学校が疲れたー』『会社の上司がカツラ付けんの忘れて出勤してきたウケるww』などの文字が並べられていた。その投稿の下には矢印マークに吹き出しマーク?さらにはハートマークなどの記号がある。……うん、触らないでおこう。
それから、『検索』というスキルを手に入れた私はまだなれない手つきでスマホのキーボードをタップする。そこに『猫』と文字を入れ検索をかけるとたくさんの猫の写真ができてきた。
『おぉ、久しぶりに見ましたが、こっちの猫の方が可愛い』
(故郷の猫や犬というのは使い魔的存在で、手懐ければまぁ可愛い……というやつなのだが、人間界の猫や犬と違いこんなに人懐っこい顔をしない。まぁ、向こうでの種族的呼び方は魔犬、魔猫だったし、似てるとはいえ、やはり違うのだろう)
『悪魔は猫も犬も食おうと思ったら平気で食いますしね。主従関係になろうと、やはり気は抜けないのでしょうね。』
この猫たちは主人に食べられるなんて思わないでのんびりしているのだろう。じゃなきゃ、こんな無防備な姿見ることは無い。それにしても、たくさんの猫、たくさんの猫の種類の画像をこうやって沢山見れるのはいい。
1つのスマホでこんなに情報収集できる、なんていうのはかなり魅力的だ。彼がこれを勧めてきたのもわかる気がする。
しばらく動物の写真を見ていると当たりがもう暗くなっていることに気がついた。気がつけばもう18時。夕食時だ。そこで思い出した。これを入れた目的は情報収集もそうだが、猫や動物ではなく、食べ物の情報収集をするためだった。
本来の目的を思い出し、いそいで検索のところで『オムライス』と、検索する。しかし、『猫』の文字を消さずにその隣に『オムライス』と打ち込んでしまったのだ。それに気づいたのはキーボード右下の『実行』のボタンを押した後だった。
1番上に表示されたのは写真ではなく『絵』であった。どうやら『猫 オムライス』で1番上最新のポストらしい。
その絵には卵包まれたオムライスのような猫……いや、猫のようなオムライス?がいた。体は黄色でオムライスみたいな形状をして、頭にはケチャップがついている。
『な、なんですかこの絵は!!!』
(絵の上には『猫オムライス /オム猫さん』と、書かれていた。
オム猫……?!まさかこの世界には食べ物(料理)と融合した猫という品種がいるのか?!それとも猫を食材にした猫オムライス?!人間界は猫を料理にはしないと聞いたが……!し、しかし、あんな愛くるしい人間界の猫を食材に?
オム猫なんて品種、昔はなかったはずだ。……となると、品種改良?
疑問は色々と湧いたが最終的に思ったのは
ぜ、是非食べたい!!!
という感情だった。可愛いものを好感のあるものを物理的に食べたいと思うことは今の悪魔界では賛否両論が結構あるが、"暴食の悪魔科"としては正しい思考であろう。早速調べてみようと思いしらべたのだが、『猫 オムライス』のほかのポストは本当のオムライスにケチャップで猫の絵が書かれているだけであり、オム猫さんは出てこなかった。『オム猫』で調べてもあの絵のオム猫は出てこなかった。
探し方が悪いのだろうか?と思いながら少し悩んだが彼に電話をかけることにした。
『もしもし』
「もしもしー、ベルさん?さっきぶりじゃん。どうしたの?」
人間界について私より詳しく、SNSに詳しい彼なら教えてくれるだろうと思い全て話した。しかし次に来たのはあの嫌いな少し甲高い笑い声である
「ギャハハ!ベルさんそんなの信じてんの???それは創作だよ創作!」
『創作?』
「そうそう、それに、絵だったんでしょー?創作イラストってやつだよ。___あ、今そのポスト見つけたけどオリジナルイラストかなぁ?」
電話をしながらアプリを動かしてるであろう彼を器用だなと思いながら話を続ける。
『つまり、作り話……みたいなものだと?』
「そーそー、ま。この投稿した人が考えた架空のキャラクターみたいなもんだよ。
えっと〜?これをかいた子は_____ まぁ、別に有名でもなんでもない一般人。
素人が書いた絵ってところだね。ほら、いいねなんてひとつも着いてないし。」
『いいね?』
「あー、イラストの下にハートマークあるでしょ?そこを押すといいねが着けられるんだよ。まぁ。投稿によって『いいね』をつける意味もかわってくるんだけど」
『……なるほど。このポストに対しての評価……みたいなもんでしょうか。』
「そうそれ!。いいねは1人1回しか付けられないからね。沢山着いていればそれほど多くの人が評価してるってことだよ」
『……ふむ。ということはこの絵はこんなに素晴らしいのに誰一人その魅力に気付かず評価されていないと』
「えぇ?そんなに心打たれるイラストかなぁ。俺には落書きに見えるけど。」
『とんでもない!こんなに食べたいほどに愛おしいのに!』
「うわー。暴食の悪魔科、略して暴食科がよく言う愛情表現や最大の好意的な言葉じゃん。」
言葉を聞いて『こりゃまじだわ』という彼は少しため息をまじらせて
「ベルさん知ってるー?最近人間界では推し活っていうのがはアツいんだよ」
『推し活?が盛り上がっていると?』
『アツい』はさっき理解したが、『推し活』、というのはまた分からない言葉だ。
「そうそう推し活。自分が夢中になってるアイドルとかキャラクターを推しって言うんだけど。まぁもっとベルさんに分かりやすくいうと自分が強く支持して応援してるキャラクターってことかな。
それを応援することを『活動』のことを推し活っていうんだよ。
最近の人間はそれにすごくハマっててさー。そういう欲の発散をしてるみたいなんだよ。」
『……それはそれは』
「そうなんだよ。ベルさんも気づいた?最近人間がある程度平和なのはそういう発散方法を見つけてるからなんだよ。このネット社会もそうだけどさ」
『なるほど……久しぶりにこちらに来ましたが私が知っている人間界とは色々考え方も変わっているんですね。。。で、その推し活とはどういうことをするんです???
推しというものが架空で存在しないなら私はどう応援すればいいのですか!』
このどこへ行ってらいいか分からない感情のよくをそのまま言葉にして伝える。
「ゲッ、まじ欲が抑えられてないって!」
『私は落ち着いていますが。』
「落ち着いてねーよ!」
『あ、ほんとだ。今の感情の爆発でティーカップにヒビが……!!!お気に入りだったのに!』
「ダメじゃねーか。
あー。、最近の人間は存在しないものに推し活するのは意外と普通でさ。絵とか、動かないもの、自分ら人間が作った創作のお話にハマるやつはたくさんいてさ。」
『なんと!そんなに同胞が!』
「まぁ、細かくジャンル分けすると色々違うらしいんだけど。そっちの方は嫉妬科のアイツの方が詳しいんだよな……
後でコンタクトしてみるわ。じゃ、今日はもう切るね。」
『じゃあね』と言葉を残し、電話は切れてしまう。あぁ、この感情をどう抑えればいいのであろうか。
スマホに写っているオム猫をみながらふと思う。
『では模倣して作ればいいのでは???』
そう思ってからの行動は早かった。もともと料理はできる……というか特技でもある。しかし、架空の生き物に形を模倣する、なんて料理は初めてだったため、少しだけ、形を整えるのに苦戦したが
『これは最高の出来なのでは?!』
(皿の上にはイラストそっくりのオム猫さんがいた。ライスを猫の形にして、薄い卵でそれを包むのはかなり大変だったが何とか猫の形になり、頭の上には可愛くケチャップが乗っている。目や口は海苔で作った。ハサミを駆使するのは大変だったが、今は大満足である。
スマホを買ってから最初に学んだ写真を撮るというのを実践し、写真を何枚も撮り、かなり満足していた。
そしてそれが終わったあとに気づいた。)
『え、これ食べなきゃいけないの?』
(暴食の悪魔科であり、偉大なるあの方の名前の二文字……いや、三文字も貰っているベル、いや、本名ベルゼは初めて食べることを惜しみ、その顔はこの世の全てが終わるような苦痛の顔であった。)
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【キャラクター紹介】
【名前 】ベル(本名ベルゼ)
【種族】悪魔(暴食の悪魔科(暴食科))
【年齢】×××(悪魔にしては高齢の方)
【身長】189cm
【好きな物】 人間、マイナーキャラ、食べ物全般、紅茶
【嫌いな物】 言う事聞かなすぎる奴。うるさい音、着信の音
【得意な事】 料理、裁縫
苦手な事 最新機械全般。タッチパネル操作。
見た目 基本的にシャツとベストとネクタイをしてい
る。目はいつも細めていて糸目に近い、ミルクテ
ィーのような薄い茶髪をしている。見た目の年齢
は人間だと40代半ばくらい
悩み 最近は感情が表に出ることが多く、本気で
怒ると暴食科の体質で周りのものを腐らせてしま うこと。