第四十七話:羅璃の招待・正体
「きらーん!羅璃の正体は…天邪鬼だよ」
羅璃の口から出た言葉に、俺は息を呑んだ。
天邪鬼。
…ん?邪鬼とどう違うんだ?…と思っていたら
「邪鬼とか言ってる雑魚じゃねぇぞ、サクラ」
羅璃は、さくらさんを睨みつけるように言った。
さくらさんは、少し緊張した面持ちで、ただ頷いている。
俺は一体どういうこと?という顔をしていたと思う。
「あの年末…しょーへーお前は、あの時点であらゆる煩悩が体から剥がれかけて、引き摺っていた。そんなニンゲン、初めて見た。全部一塊で喰えばラッキーくらいの気持ちで、お前についていったんだ」
羅璃は、淡々と語り続ける。
…?ん?…ついてった…?憑いてた?色々なんか初情報が多すぎて混乱する。煩悩って引き摺ものなのか?煩悩って喰らうモノなの?
「だが、除夜の鐘を撞いたことで全て一気に剥がれた煩悩の塊が、全て羅璃の体に憑依して、羅璃を強烈に縛ったんだよな…
喰らうどころか、羅璃が煩悩の塊に喰われる形になったんだ。
逃げても呪縛から抜け出せず、このままでは羅璃の力を吸い尽くされ、消滅してしまうところだった…しょーへーのため込んだ欲求の煩悩は極めて濃縮された呪いの力みたいなもんだったんだよな~マジやばくね?ってなったんだよね…あの坊主、絶対分かっててしょーへーに鐘撞かせたよな~」
そうか…そういえば、あのお寺…羅璃に引っ掻き回されてあの後一度も行ってないけど…あの住職には何か見えていたのだろうか?
それにしても…羅璃の説明に、いかに人間性を失くして生きていたのかを思い知らされる…羅璃も大変だったのだな…
「こうなると、元の持ち主である翔平に煩悩を返して、昇華してもらって呪縛から逃れるしか道はなかったんだよねぇ~マジで」
羅璃は、俺の方を見た。
「正直、しょーへーを見てビックリしたよ。
こんな無気力症候群のニンゲンがこの世の中にいて良いのか?ってレベルだったし~。
自分は鬼で、ニンゲンを導くなど論外だと思っていた。
でも、やってみたら意外にも楽しくなってしまったんだよね~まあ、天邪鬼だからね~
しょーへーは最初抜け殻みたいだったけど、逆にどんどん素直に煩悩を活力に変えて吸収してったからね~羅璃も調子乗ってきちゃってさ~」
そうやて回顧する羅璃の瞳には、どこか寂しさが宿っているように見えた。
「翔平と過ごしたこの半年は、これまでで一番楽しかった。
羅璃を縛る煩悩が一つずつ消えていくたびに、羅璃も自由になれる。
それは、お前が成長していくのと同時に、羅璃も生きていることを実感できた時間だった」
羅璃は、一呼吸置いて、最後の言葉を口にした。
「そして、最後に残った煩悩は貪の中の「愛」「愛欲」だ。異性に対する求める気持ち。
それを求めて、受ける資格が、今の翔平にはある」
羅璃は、さくらさんの方をちらりと見た。
「サクラには、既に羅璃の正体を明かしてある。
そして、改めて『翔平の事をどう思うのか』と聞いた。そして、その答えが今の告白だ」
羅璃は、真っ直ぐに俺を見据えた。
「翔平、ここは逃げるな。ちゃんと受け止めろ」
俺は、羅璃の言葉に、全ての謎が解けた気がした。
そして、羅璃の正体と、彼女が俺の傍にいた理由、そして、さくらさんの告白の意味が、全て繋がった。
俺の最後の選択が、羅璃の最後の煩悩を解消する鍵となる。
そして、それは、俺自身の人生の新たな始まりを告げるものとなるだろう。
次回、最終回




