第三十九話:ゲームデザイン・煩悩デザイン
サークルのゲーム制作も順調に進み始めた。
羅璃は、画面の中で走ったりジャンプしたり、謎の玉を出したりと、コントローラーで自由に操作できるようになっていた。
より完成度が上がり、画面内を動き回れるようになったキャラを操作しながら羅璃は大喜びだった。
俺は素人なので、よくわからないが、ゲームの開発はとても大変で特に3Dは時間も人手もかかると言っていたのを聞いていたので、こんな少ないメンバーで本当に大丈夫なのだろうかと思っていた。
ところが、ほんの数週間で画面にキャラが出て動くなんて、ちょっとした衝撃だった。
何せ俺の場合、羅璃のキャラクターのデザインだけで結果1週間くらいかかっていた気がするからだ…
中村山くんの話では、既存のライブラリを組み合わせているから、そこまで大変ではないという。
寺社杜さんも、アニメーションはライブラリを使っていると言っていた。
俺は、まだその「ライブラリ」というものがよく分からなかった。
羅璃が「ゲームの作り方よく知らないけど、図書館がどうしたの?」
と質問すると、中村山くんは、世界中で作られているゲームの絵や音楽、プログラムを、基礎的な部分でデータベースとして共有し、効率化しようという仕組みがあることを教えてくれた。
それは「ライブラリ」と呼ばれ、より大きな枠組みでは「ゲームエンジン」と呼ばれるらしい。
すごい時代になっているのだと思った。
そして、何かその共有して助け合う流れは、羅璃が言っていた「他人に必要とされたい」という承認欲求や、「社会性において役に立つ機能」という内容にも通じるように思えた。
羅璃が、サンプルを操作しながら、何気なくポロっと言った。
「これ、撃てるやつはたまに転がしたり跳ねたりしたら面白くない?」
その一言に、山本中会長の目がキラリと光った。
「なるほど! 確かに、箱だと撃って壊れたら終わりだが、球体なら撃って弾んで、それに当たらないように避ければ、遊びとして成立しそう!」
寺社杜さんも「それなら、敵にあまり時間をかけずに済むから良いかも」と乗っかる。
「でも、丸くて弾むだけだと、いつ終わるんだ?」という話になり、「玉に耐久力つける?」いや「ゲージとか付けても見づらい」という意見が出た。
「じゃあ、色分けするか?」
山本中会長がそう言うと、羅璃がまたしてもポロっと言った。
「色? 赤かったらリンゴみたいだね」
羅璃の言葉に、山本会長の目が再びキラリと輝いた。
「それだ! スイカゲームだ!」
会長は興奮したように叫んだ。
「だけどスイカゲームとは逆で、球体を撃って小さくしていくんだ。弾が当たって小さくなると、それが二つになる。そして、最小単位になったら消える。
これなら、球体を出す量と大きさ、更に弾むスピードを変えるだけで、難易度が変えられる!」
山本中会長は興奮して続ける。
「ステージは動かないと決まっていたし、地形を複雑にもできないから、このアイデアなら時間をかけずに作れそうだ」
これまでの試行錯誤から、ゲーム内容が一気に決まった感があった。
アイデアを言い出した羅璃は「それ、面白いのか?」と、どこか疑問に思っているようだったが、山本中会長の頭の中ではすでにゲームが動いているらしく、「よし、とりあえず作ってみよう!」となった。
俺の担当は変わっていない。
敵の球体にさすがにスイカは出せないから、大きさに合わせた敵っぽいデザインと、世界観が分かる背景だ。
山本会長は羅璃の「導きだ!」と喜んでいたが、不思議なことに、確かにキーワードは羅璃から提供されていたのは確かだった。
それよりも、俺は山本会長のまとめ方の上手さに感心した。思わず、会長に聞いてみた。
「会長って、なんか経験他にもあるんですか?」
すると、山本中会長はにこやかに教えてくれた。
「実は、叔父に当たる親戚が、ゲームを作る人なんだ」
ああ、これこそが、羅璃の言っていた「縁」というやつなのか。
改めて、羅璃の言葉の深さに感銘を受けた。
数日後、俺はサークルに訪れ、スケッチブックをメンバーに見せた。
「いいんじゃないかな」
山本中会長が、俺のスケッチブックを覗き込み、満足そうに頷いた。
中村山くんと寺社杜さんも、興奮したように喜んでくれた。
スケッチブックに並んでいたのは、球体に目玉が付いた妖怪のデザインだった。
元になったのは、日本の妖怪「百目」だ。
大きくなるほど目が多くなるというシンプルなものだが、その不気味さと、残り体力が絵でわかるようになっていると、会長は喜んだ。
実は、このデザインに行き着くのにも、羅璃の貢献が大きかった。
妖怪を敵として球体にデザインするというアイデアも羅璃からだったが、いざ有名な妖怪を球体にデザインしようとしても、俺の技術では難しく、なんかごちゃごちゃしてうまくいかなかったのだ。
そんな俺を見て、羅璃は言った。
「翔平、人が恐れる概念から生まれた妖怪は、その畏怖の対象を具現化しているのだから、本来正解なんかないんだよ?
じゃあ、何に畏怖を感じるのか?『 人は実は人が一番怖いんだよ』
うーん…例えばさ、美しい女性の髪の毛、ところがその髪の毛だけが大量に落ちてたら怖いでしょ?」
想像してみると、確かに恐ろしさを感じる。
普段歩いて何時道端に大量の髪の毛が落ちていたらそれだけでホラーだ。
羅璃は続ける。
「意外とシンプルでも怖さとか出せるんじゃない?」
羅璃の助言を受けて、ボールについてて怖いものって何だろうと考え、そもそも球体で怖いものって目玉じゃん…でも目玉に色がついてても今度は目玉っぽくなくなるから分かりづらい…
最終的に球体に沢山目がついている…目玉だけでなく瞼が付くとリアルに怖くなるというデザインに落ち着いた。
目玉ばかりの妖怪『ヒャクメ』が居ることを知ったのも、このアイデアの後押しになった。
背景は、和風と決めていたし、目玉が飛び交う怪談みたいなイメージがあったので、俺が小学生の時に読んだ国語の教科書に載っていた羅生門の様子が怖かったのを思い出し、霧で霞む背景の前に、シルエットで崩れかかった山門を描くというシンプルなものにした。
寺社杜さんがスキャンして画面に出してみると、悪くない気がした。
敵の目玉の妖怪も画面に入り、ゲームの完成が着々と近づいているのを感じた。
煩悩変化なし
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