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ラリってボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜  作者: 黒船雷光


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第三十八話:歌詞・可視化

 翌日、コンビニのバイトに入ると、高橋先輩が飛んできて、俺の手を取った。


「ありがとう、翔平! サクラから連絡があって、次のライブの参加の許可が貰えたって! 潟梨君のお陰だって!」


 高橋先輩は、大はしゃぎだ。


「いやぁ~当事者というか主催の私が行っても火に油と思って、この件に関しては本当に絶望的で(わら)にも縋る気持ちでお願いしたんだけど…まさか本当に解決するなんて!一体どんな魔法使ったの?」


「いや、俺は何も…全ては羅璃(ラリ)のお陰です」


 俺がそう言うと、高橋先輩は羅璃(ラリ)の方を向いた。


「きゃー、羅璃(ラリ)ちゃん、ありがとう!!サクラに聞いたけど 大活躍だったんでしょ!?」


「そーなんですよ、ミサトさん〜! サクラのお父さん、怖い人で〜」


 羅璃(ラリ)は、大袈裟にそう言って、高橋先輩の胸に頭を埋めている。

「やーん」と、高橋先輩は嫌がっているのか喜んでいるのか分からないような声を上げた。


 佐藤店長が、呆れたようにこちらを睨んでいるので、俺はすぐにシフトに着いた。



 しばらくして休憩時間になり、高橋先輩にまとわりついていた羅璃(ラリ)から声が掛かった。


「翔平、来て見て!びっくりだよー!」


「何?」


 羅璃(ラリ)が、徐に高橋先輩から一枚のプリントを受け取り、俺に差し出した。


「次のライブ決まったって言っただろ? 君たちの曲作ってみるって話…したじゃん?」

 少し頭を書きながら高橋先輩が言う。


「…はい?」

 確かにそんなことを言っていたような…


 俺は、プリントされた紙を受け取った。それは、歌詞だった。

 読み進めていくと、それが、俺が羅璃(ラリ)と出会ってからの物語であることが一目で分かった。


 -------------------

 タイトル:彩(Color of You)


【Verse 1】

 すべてが灰色に染まった日々

 息をしても 意味がなかった

 だけど君が現れた瞬間

 鼓動が叫んだ 「生きてる」と


【Pre-Chorus】

 その瞳の奥に燃えるもの

 僕の心にも 火をつけた


【Chorus】

 燃える君が 僕の世界を

 塗り替えてく 静かに確かに

 沈黙だったこの空が 今、色を持つ

「君しか見えないよ」

 何も見えなかった景色が開く

 Because of you — いろが戻った


【Verse 2】

 君の笑顔に触れたとき

 崩れたままの僕が立ち上がった

 眠っていた感情さえ

 名前を呼ぶだけで 息を吹き返す


【Pre-Chorus】

 絶望の海に差した光

 それが君だった


【Chorus】

 弾ける君が 僕の心を

 壊してくれて 救ってくれた

 色のなかったこの世界が 今、燃え上がる

「君だけ、君だけを見てる」

 見つめるたび 命が輝く

 Because of you — 世界が光る


【Shout Part】

  Burn it down!

 灰色の日々なんて

  Tear it down!

 無意味なノイズに過ぎない

 君が!お前が!

 Painted my soul with fire!!

 WITH FIRE!!


【Bridge】

 孤独に慣れたふりをしてた

 でも君がすべてを壊した

 偽物なんかいらない

 本物は 君だけ


【Final Chorus】

 燃える君が 僕の未来を

 導くように 手を伸ばした

「何もない」と思っていたこの世界に

 色と意味が生まれた

 もう二度と 灰には戻らない

 Because of you — I'm finally alive


【Outro】

 君が見せた景色を

 僕も誰かに渡せるように

 燃やし続ける この魂を

 With the color of you…

 -------------------


 俺の無気力な日々。羅璃(ラリ)との出会い。

 出会って世界が色づいて言った瞬間の日々(煩悩の解)

 そして、未来へ向かう今の気持ち。全てが、詩的な言葉で綴られている。


「高橋先輩…いや、ミサトさん…」


 俺は、感動のあまり、震える声で高橋先輩の名前を呼んだ。


「これまで本当に羅璃(ラリ)と出会ってから…

 ジェットコースターのような普通じゃないスピードと変化で、毎日新しい体験や学びを得て来ましたが…


 この歌詞は別格です。


 確かに羅璃(ラリ)が僕の人生を照らして変えてしまいました。そのことを理解してもらえて、そして詩にしてもらうと、こんな感じなんですね…言葉って、こんなに人を感動させるんですね。早く聴きたいです…」


 俺は、感激のあまり、涙ぐんでしまった。

 羅璃(ラリ)は、そんな俺を見て、ニヤニヤと揶揄(からか)う。


「しょーへー大丈夫か?これで曲で聴いたらショックで逝くんじゃないか?」


 ミサト先輩は、そんな羅璃(ラリ)の言葉に、力強く笑って言った。


「翔平君を昇天させちゃうのはマズいけど、まぁ、本番を楽しみにな!」


 コンビニの自動ドアが開く音がした。

 振り返ると、そこに立っていたのは、天宮司さくらさんだった。


「あら、サクラちゃん! いらっしゃい!」


 高橋先輩が、明るい声でさくらさんを迎える。

 さくらさんは、少しはにかんだように微笑んだ。


「ミサトさん、すみません、急に」


「いいのいいの! どうしたの?」


「あの、潟梨君と羅璃(ラリ)さんに、直接お礼が言いたくて…

 大学だと、なかなか話しづらいかと思いまして」


 さくらさんは、そう言って、俺と羅璃(ラリ)の方を見た。


 俺は、少し緊張しながらも、さくらさんを迎えた。

 羅璃(ラリ)は、ニヤニヤしながら、さくらさんの隣に立つ。


「あの、お父さん…あ、いえ、父こと宮司のことで、本当にご迷惑をおかけしました」


 さくらさんは、深々と頭を下げた。


「いえ、俺は…」


「お父さん、羅璃(ラリ)さんの言動と、あの神術が全く効かなかったことに、本当に衝撃を受けたようです。

 天宮司家の過去を(さかのぼ)っての先祖伝来の記録にある事象も含めて、あんなことは初めてだったと…」


 さくらさんは、神妙な面持ちで語り続ける。


「何より、羅璃(ラリ)さんの語る説法が、真を言い当てていたことが、如何に自分が地位に甘えて一方的になっていたかを、気付かされて恥ずかしかったと、心から反省していました」


 俺は、宮司のあの時の狼狽ぶりを思い出した。

 羅璃(ラリ)の言葉は、宮司のプライドを打ち砕き、そして、彼の奥底に眠っていた「傲慢」という煩悩を白日の下に晒したのだ。


「そして…私にも、大人気(おとなげ)無かったと詫びてくれました」


 さくらさんの言葉に、俺は驚いた。あの厳格な宮司が、自分の娘に頭を下げたというのか。


「父が…私に初めて頭を下げたんです」


 さくらさんの視線が、熱を帯びる。


 その熱い視線は…俺ではなく、羅璃(ラリ)に向けられていることに気づき、俺は思わず「え?」と声を上げた。

 羅璃(ラリ)は、そんなさくらさんの熱い視線を受けて、どこか満足げな顔をしている。


 俺とさくらさんの様子を見ていた高橋先輩は、突然、盛大に爆笑した。


「あははは! なにこれー! サクラちゃん、羅璃(ラリ)ちゃんに落ちてるー?!」


 高橋先輩の言葉に、俺はさらに困惑し、さくらさんは顔を真っ赤にして俯いた。

 羅璃(ラリ)は、相変わらずニヤニヤしている。

「さくらは落ちたな」ラリがあの日に自宅に戻ってから言ってたセリフを思い出す。

 あれは…俺のことじゃないのか?!…いや、しらばっくれて正解だった?


 高橋先輩は、笑いながら羅璃(ラリ)の肩を叩いた。


羅璃(ラリ)ちゃん、あんた、本当に何者なのよ?

  潟梨君も、羅璃(ラリ)ちゃんといると、どんどん変わっていくし…」


「ん〜、羅璃(ラリ)羅璃(ラリ)だぞ!」


 羅璃(ラリ)は、得意げに胸を張った。


 俺は、そんな羅璃(ラリ)を見て、再び、彼女の正体について深く考えさせられた。

 羅璃(ラリ)の行動は、常に俺の想像を超えてくる。

 しかし、そのおかげで、俺の人生は確実に良い方向へと向かっている。


 羅璃(ラリ)は、本当に俺の煩悩の塊なのだろうか。

 それにしては、あまりにも人間離れした能力と知識を持っている。


「翔平、ぼーっとしてないで、仕事に戻るぞ!」

 羅璃(ラリ)の声に、俺はハッと我に返った。羅璃(ラリ)は、いつものように俺の隣に並び、レジへと向かう。


「はいはい…」


 俺は、羅璃(ラリ)と、そしてさくらさんと高橋先輩の複雑な関係に、頭を抱えながらも、目の前の仕事に集中しようと努めた。

 羅璃(ラリ)の存在は、俺の日常を、常に予測不能なものへと変えていく。


 しかし、それこそが、今の俺にとって、最も刺激的で、価値のあることなのかもしれない。


・疑

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