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ラリってボンノー!!〜鬼娘は活力煩悩まみれ、俺は無気力何もない〜  作者: 黒船雷光


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第三十二話:偽りのラブランデブー

 昼休み、食堂で三人は食後に缶コーヒーを飲みながら先ほどの続きを話し合うことにした。


 羅璃(ラリ)は何故か天宮司さんにはキツく当たるような気がするが、それでもこれまでの自分を変えるためにも向き合って助けてあげるべきだという。高橋先輩の恩の話を出されるとさすがに無下(むげ)にも出来ない…


「しょーへー、お前にはこの件に向き合うだけの条件が全部そろっているゾ。

 人は一人では生きて行けない。(えにし)は意図がないと繋がらない。

 これまでもそこにショーヘーの意志が介在しなかったからフワフワしてたんだ。


 でもこの羅璃(ラリ)様のお陰で周囲に意識を向けた。その結果が今ここにある。


 しょーへーがもし、全くの無関心無気力で生きていたら、そもそも天宮司さんと話すことさえなかったんだからな。高橋先輩だって話題にも出さなかっただろうしバンドやってるなんて知り得なかった」


「そ、そういうモノなのか…確かに。羅璃(ラリ)は凄いな…」

 知って、分かって広がった世界。そこには白黒の背景に顔のないモブが存在する無意味な乾燥した日々ではない。

 いろんな人がいろんな思いをもって様々な問題に向き合って生きている。

 意識を向ければ相手も自分を意識する。そこに縁が生まれる。そして世界が動く

 色がついていく。


「何だよしょーへー、今更羅璃(ラリ)さまの偉大さに気づいたか!

 何事も前向きに捉えないと(ポジティブ)な!」


 天宮司(てんぐうじ)さんは、羅璃(ラリ)の言葉に、ハッと顔を上げた。

 そして、何かを決意したかのように、真っ直ぐ俺の目を見た。


潟梨(かたなし)君…羅璃(ラリ)さんの言う通りかもしれません」


 天宮司さんの言葉に、俺は嫌な予感がした。

 彼女の顔には、(わら)にもすがるような、しかしどこか突拍子もない考えが浮かんでいるような、そんな表情が浮かんでいた。


「そこで…私、今、考えたのです…閃きました!」


 天宮司さんは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「あ…あのですね…潟梨(かたなし)君を…私の彼氏として…親に紹介したいのです!」


「「はぁ!?」」


 俺と羅璃(ラリ)がハモる。

 俺は文字通り、のけ反った。何を言っているんだ、この人は!?


「な、ななななな…何を言ってるんですか、天宮司さん!?!?」


 俺は、完全にパニックに陥った。

 まさか、そんなトンデモ提案が飛び出すとは、想像の斜め上を行っていた。


 その場で、羅璃(ラリ)が俺の目の前に立ち塞がるように仁王立ちになった。


「はぁあああああ!? 何言ってんだ、この無邪気ちゃんは!?

 しょーへーは渡さねえぞ! 勝手に巻き込むんじゃねえ!」


 羅璃(ラリ)も、俺と同じくらい、いや、それ以上に驚き、怒り、そして焦っているようだった。

 彼女がそこまで感情を露わにするのは珍しい。…さっきまで運命だみたいな言い方してたのに。


 いや、確かによそ様の家庭事情に首突っ込むことになる今回の件、確かに部外者である俺や羅璃(ラリ)が天宮司さんの両親に対して会って話すといっても、他人は黙ってろ…で終わってしまう可能性は高いが…他人じゃなければいいのか!というその発想は…


 俺は、まさかの提案と、羅璃(ラリ)の怒りに挟まれ、完全に頭が真っ白になった。


 天宮司さんは、俺たちの混乱をよそに、必死な顔で説明を続けた。


「もちろん、ちゃんと事情はあります! 父は、関東大神宮(かんとうだいじんぐう)という、かなり大きな神社の宮司を務めております。伝統と格式にこだわり、私を大切に育ててきたのですが…それゆえに、私の行動を厳しく見ております」


「母は、社務所勤めで経理をしておりまして…私には理解が深い方です。実は薄っすら私のバンド活動には気づいていたようですが、私を信じて黙っていてくれた節もあります」


 天宮司さんは、家族の背景を語る。

 なるほど、ただの宮司というだけでなく、かなり重い立場なのだ。



「父はあれ以来、その話題には触れることも許してもらえていません。

 母は、私を心配していますが、父の前では何も言えない状態です。

 とにかく、話すきっかけさえつかめない状態で…」


 天宮司さんは、俺をじっと見た。


「そこで…私が考えた策が…潟梨(かたなし)君を恋人として、結婚前提でお付き合いしていると紹介し、そこで今回の一件を、共に説明して誤解を解こうという提案だったのです…!」


 天宮司さんは、そう言って、もう一度、深々と頭を下げた。



 羅璃(ラリ)は、その提案を聞いて、先ほどまでの激しい怒りが嘘のように、苦虫を噛み潰したような渋い表情をしていた。

(けしか)けた」側の羅璃(ラリ)も、この展開は予想外だったのだろう。


 俺は、混乱しながらも、天宮司さんの顔を見た。

 彼女は、必死な顔で、俺の返事を待っている。


「いや…あの…俺なんかで、彼氏として紹介して、大丈夫ですか…?」


 やっと出てきたセリフ…俺は、自分自身の価値を疑いながら、思わずそう尋ねた。

 この間まで無気力だった俺が、こんな大役を。



 天宮司さんは、俺の質問に、一瞬、はにかんだように顔を赤くした。


「べ、別に…問題ありません…! あ、あの…もちろん、ちゃんとことが終れば…全て話して…誤解を解くようにいたします…」


 天宮司さんは、恥ずかしそうに、そして少し慌てたように言った。

「あ、い、いえ…翔平さんのことが嫌いというのではありませんが…その…」


 彼女は、顔を真っ赤にして、言葉に詰まってしまった。



 その様子を見た羅璃(ラリ)が、すかさず俺と天宮司さんの間に割って入った。


「と、このように申しておりますがー、しょーへーさんの今のお気持ちはー!?」


 羅璃(ラリ)は、まるでインタビューアーのように、天宮司さんの真似をして、俺にマイクを向けるポーズを取ってふざける。


 俺の思考は、完全にストップした。


 天宮司さんのトンデモ提案、羅璃(ラリ)の嫉妬、そして、俺自身の「彼氏」という役割。

 目の前で繰り広げられるカオスな状況に、俺はただ呆然とするしかなかった。



「と、とりあえず! 次の休みの日に…決行しましょう…!」



 天宮司さんは、俺の返事を待たずに、半ば強引に日程を決めてしまった。


 俺の頭の中は、真っ白だ。


 ダルい。


 これは、本当に俺の「煩悩」を解消するための試練なのか?

  もはや「貪」とか「疑」とかの次元を超えて、俺の人生そのものが羅璃(ラリ)と今回は天宮司さんによってカオスに巻き込まれていく予感しかしなかった。


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